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 MRカスタマーボイス
 NASH患者におけるMRエラストの有用性

横浜市立大学肝胆膵消化器病学
今城 健人 先生
米田 正人 先生
中島 淳 先生

 【諸言】

近年、メタボリック症候群の増加に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患 (nonalcoholic steatohepatitis: NAFLD)が増加している。そして、NAFLDのうち進行性の病態が非アルコール性脂肪肝炎 (nonalcoholic steatohepatitis: NASH)であり、肝硬変や肝細胞癌へと至る。NASHの存在及び病期診断については、肝細胞の脂肪化、炎症・壊死の局在性、肝細胞風船様膨化や肝線維化について評価する必要がある。現在のところNASH診断はガイドラインにも記されるように肝生検によってのみ可能となり、診断や病態の評価、治療評価において「gold standard」と認知されている。しかしながら、日本に1000万人以上存在するNAFLD患者全てに肝生検を施行することは不可能である。また合併症、サンプリングエラーや診断医間での不一致という問題もある。そこで本稿ではNASHの病期診断において、肝生検に代わる非侵襲的診断方法としてのMRエラストグラフィの有用性について述べる。なお、MRエラストグラフィの原理については割愛させていただく。

NAFLD/NASHにおけるMRエラストグラフィの有用性を示した報告はこれまでに数報あるが、日本ではこれまでNAFLD/NASHに限定したMRエラストグラフィの有用性についての報告はなされていない。そこで著者らは2013年6月から2015年4月までに肝生検を行ったNAFLD患者142症例において、MRエラストグラフィ及び超音波エラストグラフィの一つであるtransient elastography (以下TE)を施行し、肝線維化診断能を比較することとした。方法として、3テスラのMRI及びMR Touchを用いてエラストグラフィ及びT1/T2画像を撮像し、任意の断面において大血管の部位を除き、肝表より1cm内側部で3か所の関心領域(ROI)を設定しその平均値を算出した。図1にT1画像(A)、波画像(B)、elastogram(C)及び実際の肝硬度測定画像(D)を示す。測定結果では、図2Aに示すようにMRエラストグラフィ及びTE共に肝線維化のstageが進むにつれて肝硬度は上昇していた。次に図2Bに各肝線維化診断能を示す。各線維化stageの鑑別能において、MRエラストグラフィはTEよりも優れているという結果であった。さらに、MRエラストグラフィは全例肝硬度が測定可能であったが、TEは15例(10.5%)で測定困難であった。即ち、MRエラストグラフィは日本人においても肝線維化の予測に極めて有用である可能性が示唆された。


fig1
図1. MRエラストグラフィにおける測定の実際
(A) T1画像,(B) 波画像,(C) elastogram,(D) 測定画像
fig2
図2. MRエラストグラフィの肝硬度と肝線維化
(A) MRエラストグラフィ及びtransient elastographyによる肝硬度.
(B) MRエラストグラフィ及びtransient elastographyによる
     肝線維化診断能.


現在、NAFLDにおける非侵襲的な肝脂肪化定量検査としてはTEにおけるcontrolled attenuation parameter (CAP)を用いた方法が頻用されている。しかしながら、MRIにおいてもIDEAL IQ(Iterative decomposition of water and fat with echo asymmetry and the least squares estimation quantification sequence)法を用いたproton density fat fraction(PDFF)値を測定することで脂肪比率の定量が可能となっている(文献1)。その原理に関しても割愛させていただく。NAFLDにおける肝脂肪化定量においてCAPとPDFFを直接的に比較検討した報告は少なく、また日本人での報告もされていないため著者らは前項で示したMRエラストグラフィとTEの比較検討した症例を用いてPDFF値とCAP値における肝脂肪化定量の精度を比較検討した。測定結果では、図3Aに示すようにPDFF、CAP共に肝脂肪化の程度が進展するに従いその値は増加していた。grade 1-2、grade 2-3及びgrade 3の肝脂肪化診断のためのAUROCは、PDFF及びCAPでそれぞれ0.981 vs 0.879、0.896 vs 0.729、0.791 vs 0.704といずれもPDFFで診断能に優れていた(図3B)。

fig3
図3.IDEAL IQのfat fraction画像と肝脂肪化.
(A) IDEAL IQによるproton density fat fraction (PDFF)値及びtransient elastographyによるcontrolled attenuation parameter (CAP)値.
(B) 肝脂肪化診断能.

 【結語】

NAFLD/NASH病期診断のgold standardは肝生検であるが、その侵襲性、コスト、病理医間の読影の不一致などの諸問題がある。MR エラストグラフィ及びIDEAL IQは一度の撮像で同時に測定すること可能であり、またその結果を併用することにより肝生検で得られる肝脂肪化、肝内炎症、肝細胞風船様膨化及び肝線維化のうち、肝脂肪化及び肝線維化を評価することが可能である。さらにはT1/T2画像も同時に撮像可能であり肝内のスクリーニング検査も同時に行うことが可能である。完全に肝生検にとって代わるものではないかもしれないが、少なくともその回数を減らすことには貢献できると思われる。しかしながら、その測定法においてはROIの設定方法に注意が必要なこと、肝硬度は炎症や血流うっ滞にも影響される可能性があることなどの欠点もある(文献2)。このような問題点を克服できればMRIを駆使したあらたな生体情報診断への発展へとつながる可能性がある。


   【参考文献】

  1. Ligabue G, Besutti G, Scaglioni R, et al. Quantification of hepatic statosis with MRI: the effect of accurate fat spectral modeling. J Magn Reson Imaging. 2009; 29(6): 1332-1339.
  2. 吉満研吾: 「優しいMRIはなにを変えるのか」臨床で示す“優しさ”の追求 肝のMRエラストグラフィがもたらす患者への貢献. 新医療 40(6): 61-64, 2013.

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