GE Smart Mail vol.136


Voice and Image
 核医学検査装置 お客様の声
 PET/CT Discovery IQによる
 薬剤負荷アンモニアPET心筋血流検査: Q.Clearの心筋血流画像における画質改善効果について

名古屋放射線診断財団
大島 覚 先生

 はじめに

前回のSmart mailで当院 小島が報告したように、当院では2015年5月に新しいPET/CTカメラDiscovery IQを導入した。本カメラは高感度のBGOクリスタルにLightBurst Detectorを搭載し、さらに新しい再構成法であるQ.Clearの使用が可能である。
LightBurst DetectorはBGOクリスタルを搭載したカメラの弱点である長い発光減衰時間を補足し、カウントの数え落としを軽減し高い計数率を実現できているとされている。特にアンモニアPET検査における3Dモードのダイナミック撮像では、高計数の放射線の処理をする必要があるが、後述のごとくエネルギー飽和を来すことなく心筋血流の測定が可能となる。
Q.ClearはBlock Sequential Regularized Expectation Maximization法を用い、逐次近似の繰り返し演算を収束するまで行う。繰り返し演算を行ってもノイズ成分を除去することによって高いSN比を担保し、高分解能の高画質の画像が得られ、腫瘍診断における小結節の検出に特に期待されている。当院では、Q.Clearによって心筋血流画像においても画質を改善しうるか、虚血部位の判定に有用となりうるかについて検討している。
本稿ではDiscovery IQによる心筋血流画像、心筋血流量の測定結果、およびQ.Clearによる画像改善効果について述べる。

 

 症例1: 正常ボランティア

48歳女性、BMI 20.1、胸部症状や冠危険因子は時になし。

Imaging protocol
LIST mode, 3D収集で安静時およびATP負荷時の撮像を13分ずつ行った。N13-ammoniaはそれぞれ約 370MBqの投与を行った。まず初めに安静時像を撮像後、安静時のトレーサー投与後、約1時間後(N13の半減期 10分の5倍以上)に薬剤負荷時像の撮像を行った。ATP負荷は160μg/kg/minで5分間の投与行い、ATP開始後3分でトレーサーの投与を行った。
Static像および心電図同期像の解析はXeleris( GE Healthcare) に搭載されたQPS/QGSプログラム (Cedars-Sinai Medical Center, Los Angels, USA)、Dynamic像による心筋血流解析はCARIMAS (Truku PET Center, Finland)を用いて解析を行った。安静時心筋血流量はrate pressure productによる補正を行った。

心筋血流画像所見
図1および2にVUE point HD-Sで再構成を行ったStatic像およびPolar mapを示す。明らかな心筋虚血所見を認めず。また図2に安静時および負荷時の心筋血流量 (MBF) および冠血流予備能 (CFR) が示すが、ほぼ正常範囲内と考えられる。

図1   図2
図1. 正常ボランティアのStatic 像 (VUE Point HD-S)   図2. 正常ボランティアのPolar map および安静時、負荷時の心筋血流量、冠血流予備能の値


 

 症例2: 虚血症例

症例は66歳男性、慢性腎不全で2008年から血液維持透析を受けている患者で夜間や血液透析時の非典型的な胸痛があり、精査のために薬剤負荷アンモニアPET心筋血流検査を行った。ASOや造影剤アレルギー、および糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙等の複数の冠危険因子を有する患者で、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬を内服中である。安静時心電図では完全右脚ブロックを呈し、心エコーでは壁運動異常はなく(LVEF 60.9%)で、軽度の僧房弁閉鎖不全および大動脈弁閉鎖不全を伴っていた。

Imaging protocol
症例1と同様である。
ATP負荷時に胸部症状を自覚したが、心電図変化は認めなかった。

心筋血流画像所見
VUE point HD-Sで再構成を行った心筋血流画像で前側壁および後側壁の広範で重度の虚血、および負荷時の一過性内腔拡大を示し、重症虚血を生じていると考えられた(図 3および4)。MBF測定結果によれば安静時には心全体でほぼ正常のMBFであったが、前側壁および後側壁で負荷時 MBFおよびCFRは低下していた(図4および5)。心電図同期像でも同部位で負荷時の壁運動異常を示していた。

図3   図4
図3. 虚血症例のStatic 像 (VUE Point HD-S)   図4. 虚血症例のPolar map および安静時、
負荷時の心筋血流量、冠血流予備能の値

図5
図5. CARIMASによるMBF解析結果

図6にQ.Clearの心筋血流像の画質への効果を示す。Q.Clearで再構成を行った画像では、正常潅流の領域では均一な集積を示し、冠動脈狭窄を示す低潅流域では集積低下がみられ、VUE point HD-Sで作成した画像に比して、虚血部位と非虚血部位の境界がより明瞭になった。Q.Clearによって正常部位と異常部位の同定がより明確となりうると思われる。

図6
図6. Q.Clear の心筋血流画像の改善効果

臨床経過
造影剤アレルギーがあるためステロイド内服による前処置を行った後、心臓カテーテル検査を行った。右冠動脈 4AV 90%, 4PD 75%, 第一対角枝 90%, 左回旋枝 #13 99%の所見を示した(図7)。アンモニアPETでみられた虚血所見に完全に一致していた。引き続き右冠動脈、左回旋枝の病変に対して経皮的冠動脈形成術を行った。

図7. 冠動脈造影


 

 考察

新しいPET/CTカメラ Discovery IQによってクリアな心筋血流画像がえられ、心筋虚血の同定が可能であった。LightBurst Detectorを搭載したBGOカメラで、3D収集でも心筋血流の測定が正確に行うことが可能であった。さらにQ.Clearによって心筋虚血部位の検出がより正確に行うことができると考えられた。
MBF測定については、同一症例で2D収集を行えるカメラ(Discovery LS, GE Healthcare)と本カメラで測定した値で比較したところ、ほぼ同等の結果が得られた。Discovery IQでもMBFを正確に測定しうると考えられる。
Q.Clearについて、ノイズ軽減の強さの程度の指標であるβ値が1-10,000までの設定が可能で、通常腫瘍の結節の検出のためには250-300程度の値を用いる。しかし心筋血流画像においてはこの値では虚血部位の辺縁がぼやけてしまい過剰であると考えられる。100-150程度が適正な値と考えられるが、現在、複数の症例による検討を行い、さらに心筋血流欠損ファントムをもちいて検証を行っている。
またさらにQ.Clearは画像処理に長時間を要し、現在はStatic像のみの解析を行っている。しかしWork stationのPCの処理速度が改善すれば、ダイナミック像によるMBF測定や心電図同期像の心機能解析にも応用する事が可能となり、より正確な心筋血流解析が可能となる可能性がある。

 

 

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