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 DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声
 脊椎圧迫骨折の治療方針とDXAの活用

zu   医療法人社団 慶泉会
町田慶泉病院 整形外科部長
上野 正喜 先生
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日本は高度に高齢化した社会を迎えており、現在すでに4人に1人が高齢者となりました。今後ますますその傾向は強くなることが分かっています。高齢者では様々な問題が生じますが、骨粗鬆症もその一つです。80歳代の女性では50%つまり半数以上が検査をしなくとも骨粗鬆症であると考えられます。しかし、実際に治療が行われているのはそのわずか2~3割程度と言われています。骨粗鬆症による脆弱性骨折である圧迫骨折のリスクは、50歳代から発生率は立ち上がり、加齢とともに大きく増大して60代~70代以上で非常に頻度の高い骨折となっていきます。今回はその治療方針についてと、そこでのDXAの活用について紹介します。

 

 脊椎圧迫骨折の保存治療

圧迫骨折は、保存療法が原則です。一定期間の安静とコルセットを装着したリハビリなどが行われれば、圧壊によって変形は残存しますが、骨癒合とともに疼痛は軽快します。この状態を、いわゆる「治った状態」としてきているわけですが、後弯などは残ってしまいます。また、この保存療法は、まだコンセンサスの得られた方法というのは決まっておらず、たとえ受傷初期に3週間という長い安静を取らせても、また体幹ギプスのような強固な外固定を行っても、椎体変形や偽関節は完全には予防できないことが分かっています1) 。つまり、適切な治療が行われたとしても、一定確率で偽関節や遅発性神経麻痺は発生してしまいます。頻度としては、偽関節は10~30%くらい、遅発性神経麻痺は3%くらいと報告されています。偽関節でずっと椎体が動いている状態が続けば、椎体後壁の損傷が加わり、遅発性神経麻痺へと進展してしまい、除圧固定が必要となります。これは高齢者にはかなり大きな侵襲の手術となってしまいますので、偽関節を遅発性神経麻痺に移行させないよう、BKPによる介入が望ましいと考えられます(図1)。

図1
図1

 

 新しい治療法Balloon Kyphoplastyと続発性椎体骨折

BKPは欧米では1990年代から行われており、決して歴史の浅い治療ではありませんが、本邦では2005年に治験が行われ、2011年から保険適応で一般に行うことが出来るようになり、近年急速に広がりを見せています。5mm程度の小切開で、先端にバルーンが付いたカテーテルを椎体内にいれて膨らませることで変形を戻し、そこにPMMAセメントを注入するという極めて低侵襲な手術です(図2,3)。

図2 図3
図2 図3

しかし、BKPはその高い除痛効果の一方で、高頻度で発生する合併症として続発性椎体骨折があります。その頻度は国内臨床試験では22%と報告され、その他海外や国内の報告では少ないもので14.9%から多いもので50%と報告されており、もっとも頻度の高い合併症と言われ、なんらかの予防対策が必要です。
続発性椎体骨折の原因については、セメントによる過硬度が隣接椎体の機械的ストレスを増加させるためであるという説と、低い骨密度と脊柱後弯症の結果であるとする説があります。手術を受ける方は、そもそも骨折の危険性が高い骨粗鬆症の患者さんですので、骨折している椎体の周囲の骨も元々折れやすく、後彎などによるアライメントの乱れで機械的ストレスが集中する上、セメントを入れられて硬くなった椎体の上下は相対的に脆いためにすぐ骨折を起こしてしまうということです。これが原因であれば、強力に骨粗鬆症の治療をしながら、アラメントが悪くならないタイミングでBKPを行うことで続発性骨折の発生を抑えることができると考えられます。
上記の発想をもとに、我々は以前、強力な骨粗鬆症治療薬であるPTH製剤をBKP周術期の骨粗鬆症治療に用いることで、続発性椎体骨折の発生を抑制できる可能性があることを示しました2)。(図4)
図4
図4

この研究で使用した週1回投与のPTH製剤は、術前1~2週前から開始していますが、続発性椎体骨折は術後約3ヶ月で発生しています。では、わずか数ヶ月でPTH製剤が効いたのかという疑問が湧いてきます。しかし、PTH製剤には投与後12週で既に有意差を持って腰椎骨密度が上昇しているというデータがあり3)、骨折抑制試験においても半年の投与で骨折リスクが半分以下になるというデータが示されています。このことから、数ヶ月という短期間でも骨折抑制の効果が発揮されたと考えても矛盾はないと思います。もちろん、自然発生する新規椎体骨折がPTH製剤の骨粗鬆症治療により減ったのか、BKP後の続発性骨折が減ったのかを分けることは出来ませんが、骨折予防として骨粗鬆症そのものの治療が同時に必要であるということは確かです。この研究では、新規椎体骨折の定義が腰痛の訴えがあった時のMRI撮影であったため、不顕性の骨折があってもPTH製剤の効果で腰痛の訴えがなかった可能性もあります。以上を踏まえたBKP術後の続発性椎体骨折の対策としては、術前のなるべき早い時期からPTH製剤による強力な骨粗鬆症治療を行いながら、DXAやMRIによる画像での経過観察と、コルセットによる体動制限を加え骨粗鬆症治療の効果発現までの期間に骨折が起こらないようにすることが必要と考えています。

 遅発性神経麻痺に対するインストゥルメンテーション手術とImplant failure

BKPという低侵襲な手術が登場したものの、手術というのはほとんどの患者様が尻込みされます。痛みだけなら我慢してもらえればそれでもいいのですが、遅発性神経麻痺が出現した場合は、早期に除圧固定術に踏み切らなければ立位が不能になったり、膀胱直腸障害が残るケースも珍しくありません。除圧固定術は、Pedicle screwやrodなどインストゥルメンテーションを使った従来から行われているオーソドックスな手術ですが、出血量・手術時間など高齢者にはかなり負担を強いる手術です。さらに、高齢者の脊椎固定術にPedicle screwを使用すると、その悪い骨質のためにネジが効かないということはよく経験することです。高齢者では骨密度が低下しており、それがScrewの固定性に問題を生じさせます。骨密度の低下した椎体では有意にScrewの引き抜き強度は低く、早期のScrew looseningや偽関節の発生が予想されます。このようなネジの緩みは、6~27%に発生するとも言われ、矯正位の損失、すなわちImplant failureを生じます4)-8)。このため、術前のDXAによる骨粗鬆症評価が重要になってきます。
大鳥ら9)は、dailyのPTH製剤を術前後に投与することにより、脊椎固定術後の癒合期間を短縮させ、骨癒合率を上昇させる効果とscrewのLooseningを減少させる効果があることを示しています。また、我々の研究から、術前からPTH製剤を使用することにより短期間の投与でもPedicle screwの挿入トルクを高める作用があることも分かりました10)。いわゆるscrewの効きとして体感される挿入トルクについては、screwの引き抜き強度や骨密度、そして初期固定力とよく相関することが知られています。また、挿入トルクが0.45Nm未満の場合には早期にlooseningをきたし易いことや、骨密度が一定以下の場合、矯正位を保持した固定が不可能であるとも報告されております4)-6)
上記の研究結果から、Implant failureを防ぐためにPTH製剤による周術期の骨粗鬆症治療を行うべきではないかという提案が出来ると考えています。しかし、PTH製剤の保険的な適用基準はあくまでも「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」です。全例に使用するというわけにはいかないのが現状ですので何らかの基準が必要となってきます。ただ、どの程度の骨密度の数値ならPTH製剤の治療を考慮すべきなのかという具体的な提案は今のデータでは出来ないと思います。骨粗鬆症の治療として手術前に事前に治療しておくと捉えていただければと思います。「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」というのは非常に曖昧な表現ですが、これを規定するリスクファクターもいくつか提唱されてきております11)-13)。これらを踏まえ、既存椎体骨折が2個以上あるいは腰椎骨密度が-3.3SD未満というのが、手術に対する併用の目安とすべきと考えています。





   【引用文献】

    1) 千葉ら, 骨粗鬆症性椎体骨折に対する保存療法の指針策定―多施設共同前向き無作為化比較パイロット試験の結果よリ―.日整会誌. 2011

    2) 上野正喜ら, バルーンカイフォプラスティー後の続発性椎体骨折に対する週1回皮下注射製剤テリパラチドの有用性. J Spine Res 4: 1399-1404, 2013

    3) Fujita, T., et al., Effect of an intermittent weekly dose of human parathyroid hormone (1-34) on osteoporosis: a randomized double-masked prospective study using three dose levels. Osteoporos Int, 1999.

    4) Halvorson TL, Kelley LA, Thomas KA, Whitecloud TS 3rd, Cook SD.Effects of bone mineral density on pedicle screw fixation.Spine. 1994.

    5) Wittenberg, R.H., et al., Importance of bone mineral density in instrumented spine fusions. Spine, 1991.

    6) Okuyama, K., et al., Stability of transpedicle screwing for the osteoporotic spine. An in vitro study of the mechanical stability. Spine, 1993.

    7) Soshi, S., et al., An experimental study on transpedicular screw fixation in relation to osteoporosis of the lumbar spine. Spine, 1991.

    8) Pihlajämaki H, Myllynen P, Böstman O.Complications of transpedicular lumbosacral fixation for non-traumatic disorders.J Bone Joint Surg Br. 1997.

    9) Ohtori S., et al., Teriparatide accelerates lumbar posterolateral fusion in women with postmenopausal osteoporosis: prospective study. Spine. 2012

    10) Inoue G, Ueno M., et al Teriparatide increases the insertional torque of pedicle screws during fusion surgery in patients with postmenopausal osteoporosis. J Neurosurg Spine. 2014

    11) Marcus, R., et al., The skeletal response to teriparatide is largely independent of age, initial bone mineral density, and prevalent vertebral fractures in postmenopausal women with osteoporosis. J Bone Miner Res, 2003.

    12) Gallagher, J.C., et al., Teriparatide reduces the fracture risk associated with increasing number and severity of osteoporotic fractures. J Clin Endocrinol Metab, 2005.

    13) Taylor, R.S., P. Fritzell, and R.J. Taylor, Balloon kyphoplasty in the management of vertebral compression fractures: an updated systematic review and meta-analysis. Eur Spine J, 2007.


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