一般財団法人 恵愛会 聖隷富士病院 |
当院の紹介 |
当院は1946年に静岡県富士市に開院以来、地域に密着した医療を提供してきました。2007年には急性期病院機能のさらなる向上を目的に、現在地に新築移転されました。
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SIGNA Explorer Newgradeの経済的・臨床的有用性 診療部 放射線科 部長 塩谷 清司 先生 |
MRI装置更新の理由
2015年6月に当院に赴任した私は、稼動していたMRI装置の性能、画質に落胆しました。それは、当時、静岡県には1.5T以上のMRI装置が113台(3テスラ20台、1.5テスラ93台)*1が稼動していましたが、2001年3月に導入された当院のMRI装置(GE社製Signa MR/i SmartSpeed 1.5T)はそれらの中で最も陳旧化していたためです。当時の当院放射線部職員の間では、「最新のMRI装置をスマートフォンとすると、当院のMRI装置は黒電話のようなものだ」と揶揄されていました。
これらの問題は、経験年数の長い読影医であっても、MRI装置の性能、画質が低ければ、質の高い読影ができないだけでなく、むしろ誤診を招く危険性や、本来は必要がない検査を施行することにより医療費を高騰させる弊害もあると痛感したため、MRI更新の強い動機づけとなりました。 また上記以外に、以下のような弊害もありました。
MRI装置更新の選択肢 ―既存マグネットを有効活用したNewgrade―
新しい装置を導入することにより、これらの問題を解決することができると確信してはいましたが、一方で新しい装置への機器更新には非常に大きな投資を必要とし、これがボトルネックとなっていました。しかし、当初使用していたMRI装置は、マグネット以外の構成部品を一新することでGEの最新機種*2であるSIGNA Explorerへグレードアップ*3することが可能でした。GEではこれをExplorer Newgrade (以下単にNewgrade)と呼んでおり、新規入れ替えに比べて非常に経済的な解決策でした。 Explorer Newgradeの利点
NewgradeによりMRI装置の性能と画質が格段に向上したことにより、当初抱いていたMRI読影へのストレスは激減しました。MRI装置のNewgradeは、誤診や見逃しを減少させていることを実感しています。
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SIGNA Explorer Newgradeによる上腹部検査の画質改善 放射線課技師長 杉村 正義 様 |
MRCP以前の装置ではMRCPは2D Fast Spin Echo (FSE)を用い撮像していましたが、今回導入したSIGNA ExplorerではParallel ImagingのASSET併用 3D Fast Recovery FSE (FRFSE) によるMRCPが撮像可能となりました(図4.)。3D FRFSEはFast Recoveryにより短いTRでも縦磁化を強制回復することで信号強度を高める事が出来ます。かつASSETを併用することでFSEのEcho Trainを減らすことができ、その結果T2減衰によるbluerを低減することが可能です。また3D撮像は画像処理で多方向からの観察も容易になります。さらに呼吸の動きに対しては呼吸同期と横隔膜同期が選択でき汎用性も向上しました。
実際に導入から1ヶ月で撮像されたMRCP画像 約40症例(胆石胆嚢炎20、膵腫瘍性病変11、その他9)をReviewしました。男女比は男:女=18:22、平均年齢65.8歳(最高85歳、最低36歳)です。評価は良好で、再撮像の必要性の評価を3段階で行ったところ、結果は良好が27、再撮の必要なし10、要再撮3となり、若干のアーチファクトは認められるが再撮までは必要ないものは約90%でした(図5)。
要再撮となった場合でも若干の分解能(スライス厚)を厚くすれば呼吸停止下で3D FRFSE撮像が可能でした。3D FRFSEは画像のIn-PlaneはSingle Shotで信号収集しているため、撮像時間短縮のためにはスライス枚数を減らす、またはTRを短縮する必要があります。スライス厚を厚くすることは分解能を落とすことにはなりますがSNは向上します。TRの短縮はFast Recoveryを使用したとしても縦磁化の回復が十分ではないためSN低下につながります。それらの点を考慮し、当院では息止め時間が25秒以下になるようにスライス厚、スライス枚数、TRを調整しています(図6.)。
今回の評価ではすべて呼吸同期で行いましたがMRCPについては横隔膜同期Body Navigatorの併用も可能であり、これにより画質が改善するという報告もあります。 LAVA FLEX
T1WIについても2Dの撮像からLAVA FLEXを用いた3D撮像が可能となりました。LAVA FLEXは2point Dixon法を用いた撮像でIn-PhaseとOut-of-Phaseのタイミングで信号収集した際に、あるpixelを基準として、その信号強度から水信号優位か脂肪信号優位かを推定し、近接するpixelからすべてのpixelの磁場不均一度を計算しています(Region Glowing)。それをもって各pixelの信号強度を同定することで、均一な水画像(脂肪抑制画像)と脂肪画像(水抑制画像)を計算で得ることが可能です。
ここで課題となるのが、息止めが十分にできない場合の対処法です。このような場合、通常は息止め時間を短縮するため、スライス厚や、位相エンコード数を調整し分解能を犠牲にして撮像してきました。しかしExplorerではNavigator gatingが併用できます。これは3D MRCPで使用する横隔膜の動きをtriggerするNavigator triggeringではなく、Gate Scanに用いることで、自由呼吸下で3DのT1WIを得ることができるというものです。LAVA FLEXにNavigator gatingを併用することで、息止めが不十分、もしくは息止めが出来ない患者さんにも3DのT1WIを脂肪抑制有り無しで撮像することができるようになっています。(図8.)
Parallel imagingの応用従来Parallel ImagingのASSETは撮像時間短縮のために用いられてきました。しかしExplorerでは折り返しアーチファクト低減にも活用することができます。元々ASSETはデータ収集量を間引くことで時間短縮を行うパラレルイメージング法です。本来、データ収集量を間引いた場合には折り返しアーチファクトが現れますが、ASSETではその折り返った部分の信号強度から、計算式を用いて折り返しアーチファクトのない画像を得ることができます。この時の計算を、もともと折り返しアーチファクトのある画像(被写体より小さいFOVの設定)に用いたとき、ASSETのReduction Factorを1とすることで折り返しアーチファクトのない画像を得ることができます。そもそも折り返しアーチファクト対策としてはNo Phase Wrap(NPW)を用い、データ収集をOver Samplingして対処してきましたが、NPWはOver Samplingする技術であるため撮像時間が延長してしまいます。このような場合でもASSETを用いることにより、時間延長なしでデータ収集することが可能となります。ただしシーケンスによっては、1NEXの場合Half NEXを使用しデータ数を減らしNPWを用いても、完全に倍のデータを必要としない場合があります。しかしIDEALなどFull Echoが必要な場合はNPWを用いると撮像時間が倍になってしまいます。図9はファントムに対しIDEALにて撮像した画像です。撮像はCoronal断面で被写体より小さなFOVにて撮像しています。aが元画像、bがNPW使用、cがASSETを用いReduction Factor 1とした画像です。撮像時間はaが3:36、bが6:00、cが3:36となり、cは元画像と同等の時間で折り返りアーチファクトのない画像が得られています。
まとめ
以前使用していた装置では以上に挙げたような新しい撮像法による画像を得られず、最新のMRIでの画像情報が診療科に提供できませんでした。このことにより院内におけるMRIの検査オーダーは頭打ちの状態となってしまっていました。しかし導入後1ヶ月が経過した6月には、過去最高件数をこなすことができるまでになりました。
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*2 2015年12月現在 *3 グレードアップでは、既存MRのマグネットを残し、その他のコンポーネントを交換しております。グレードアップ後は製品の薬事販売名称・薬事番号なども変更になります。
※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。 下記お問い合わせは、どんな小さいことでもすぐにご利用いただける窓口です。
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