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 核医学検査装置 お客様の声
 コリメータ・検出器応答関数補正(Evolution)の心筋血流シンチprone撮影への応用

 

市立池田病院医療技術部放射線科 核医学担当
宇戸 朋之 様

【緒言】

市立池田病院では2017年3月からガンマカメラDiscovery NM630が稼働している。NM630にはさまざまな特徴が特記されるところではあるが、やはり気になるのはコリメータ・検出器応答関数補正(Evolution)である。当院では以前から心筋血流シンチにおいて、supine(仰臥位)撮影に加えて、伏臥位で撮影するprone撮影を行ってきた。下壁領域が減弱の影響で集積低下となる場合にprone撮影によりこの現象が緩和され下壁の診断能が改善することが知られている1)~3)。しかしprone撮影は180度収集で行うものの、患者前面(腹側)に寝台が位置するため検出器と心臓の距離がある程度までしか近づけられない。当院ではこれまでFiltered back projection(FBP)による画像しか得られなかったため、prone撮影のSPECT画像はsupine撮影よりもボケた画像になる事を経験してきた。今回心筋血流シンチのprone撮影に対してEvolutionによるコリメータ・検出器応答関数補正を施し画像改善がなされたので報告する。

 

【Evolution for Cardiac】

 Evolution for Cardiac はMaximum a Posteriori-Expectation Maximization(MAP-EM)法による再構成でIteration増加に伴うノイズ増加を抑制した再構成である。そのプロセスの中にコリメータ・検出器応答関数補正が組みこまれている。これは線源と検出器の距離が離れることに起因するボケを補正する事により、鮮鋭な画像を作成するアルゴリズムである4)5)。当院では日常的にEvolution for Cardiacを使用している。Evolution for Cardiacを施したSPECT画像はNM630とともに導入したワークステーションXeleris上ではIRNCRRと表記され、これはコリメータ・検出器応答関数補正は行っているが減弱補正は行っていない。再構成によって作成された画像を指す。(IR:OSEM/NC:Non Correction/RR:Resolution Recovery)以後本文中および図においてはIRNCRRとの表記を使用する。

 

【心筋血流シンチの条件】

当院の心筋血流シンチは塩化タリウム111MBqを基本としており、撮像パラメータは以下に示す通りである。

  • コリメータ:ELEGP(感度重視の拡張低エネルギー汎用コリメータ)
  • ピクセルサイズ:4.42mm
  • 収集角度:180度(検出器90度配置)
  • ステップ角度:6度
  • ステップ毎の収集時間:supine - 40秒、prone – 35秒(proneは下壁のための追加撮影という位置づけのため少し短縮)

これらのパラメータは核医学技術学会のワーキンググループ報告6)を参考にしている。その中ではピクセルサイズが5~7mm,STEP角度は5~6度を推奨しているので、これを参考に設定可能な近似した値となるようにした。

画像再構成パラメータは以下に示す通りである。

  FBP
pre filter:Butterworth(cut off:0.4cycles/cm, power factor:10)
  IRNCRR
subset:10, iteration:12, 3D post filter:Butterworth(cut off:0.4cycles/cm, power factor:10)
 

【画像の比較】

臨床画像はFBPによる画像と、IRNCRR画像の両方を提供している。そのため、これまでの懸案であった“prone撮影画像はボケている”状況が現在でも確認できる。Fig.1Fig.2に症例を提示する。症例1では下壁集積低下の改善が明らかでprone撮影の効果が顕著な例である。症例2はprone撮影によるボケの改善が明瞭な症例である。proneのFBP画像では内腔の抜けが悪く、ボケた印象を持つが、IRNCRRでは内腔の抜けが明瞭で、ボケの改善が確認でき、supine画像と同程度に内腔の低カウント部が描出されている。このように臨床画像でprone撮影画像のボケが補正され、画質の改善が見られた。一方心臓と検出器が近くもともとボケが少ないsupine画像ではFBPとIRNCRRの差はあるもののそれほどではない。なお、prone撮影とsupine撮影では、心臓が横たわる角度が異なる事が多く、断面変換の手法に基づいて3断面を得ても、これらの形状が一致しない場合がある7)

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Fig.1 症例1. prone撮影によって下壁の集積低下が改善した症例.
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Fig.2 症例2.IRNCRRでボケが補正された症例.
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Fig.3Fig.4に症例1と2のサイノグラムを示す。症例1はproneのFBPでのボケが明瞭ではないが、サイノグラムの形状がsupineとproneで似ている。症例2はサイノグラムの形状がsupineとproneで違いが明瞭で、proneのサイノグラム上の心陰影はあまり変動が無い。これは回転中心に近い位置に心臓が位置している事を示す。180度収集で撮影しているため、回転中心に近い位置は若干検出器から離れた位置となる。

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Fig.3 症例1のサイノグラム
※画像クリックで拡大します。
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Fig.4 症例2のサイノグラム
※画像クリックで拡大します。

これらFBPとIRNCRRの差や、サイノグラムの形状を考慮すると、Evolution for Cardiacでは線源から検出器までの距離の違いに応じた補正が行われている事が読みとれる。

 

【IRNCRRによる集積低下部の描出について】

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Fig.5 ファントムにある集積低下部位の描出の比較.
※画像クリックで拡大します。

 

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Fig.6 ファントムにある集積低下部位のラインプロファイルカーブ.
※画像クリックで拡大します。

Evolution for Cardiacを使用してまだ日が浅いため、集積低下部位の描出についてはファントム実験を行った。この結果のファントム画像をFig.5、画像上のラインプロファイルカーブをFig.6に示す。FBPでは低集積の描出が不明瞭だがIRNCRRでは明瞭となっている。プロファイルカーブでも集積低下部が強いコントラストで示されているのが分かる。

Evolution for Cardiacによってボケが補正されたのに伴い、このような集積低下も明瞭となる事が示された。撮影条件は線源がテクネシウムである点を除いて臨床の条件と同じである。なおここで用いたファントムはリング状の内腔をもつ自作ファントムでリングの内腔部分は水で満たされている。リングの部分にテクネシウム水溶液を満たし、集積低下部分は約2cm四方のスポンジによる詰め物をしている。このようにするとスポンジ部分にテクネシウム溶液が浸みこんでいくので欠損では無くある程度のカウントをもった画像が得られる。

一方で低下程度に定量性が無くコントラストの理論値が把握できない。欠損陰影としてしまえばFBPとIRNCRRの差が示せないと考えたためこのような実験とした。

【まとめ】

当院ではEvolutionを日常的に使用している。prone撮影ではsupine撮影と比較してボケた画像になるが、Evolutionにより画質の改善が達成された。

参考文献
1)依田俊一:Cedars-Sinai Medical Centerで経験した心臓核医学.第30回ニュータウンカンファレンス記録集,2005.
2)三井正泰,他:安静時201Tl・負荷時99mTc Tetrofosmin Dual-isotope 心筋血流SPECTにおける腹臥位撮像の有用性.心臓核医学記録集,2003.
3)宇戸朋之:当院における心筋シンチ腹臥位撮影について.日核技誌 27(1):11-14,2007.
4)栗原英之:Evolution-コリメータ・検出器の応答関数補正-.GE today January 2006:25-27,2006.
5)GE Healthcare:Evolution for Cardiac White Paper,2007
6)日本核医学技術学会 核医学画像の定量化基準化のための調査研究ワーキンググループ:臨床に役立つ基準画像の収集・処理・表示・出力のポイント.日核技誌 28(1):13-66,2008.
7)中原誠,他:心筋SPECT断面変換処理で起こりうる冠動脈支配領域の軸回転とそのパターンについて.日放技師会誌,46(5):525-530,1999.

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

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