医療法人新産健会 LSI札幌クリニック 大野 章吾 様 |
【はじめに】 |
超高齢化社会を迎える本邦において、早期認知症診断における社会的意義は近年益々大きくなりつつあり、当院ではそのような社会的ニーズに応えるため一民間施設ではあるがF-18 Flutemetamolの製造・臨床使用を開始した。 本稿では立ち上げまでの経験や苦慮した点や、施設認証の取得などについて述べる。
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【F-18Flutemetamolの製造】 |
現在、アルツハイマー型認知症診断を目的としたF-18放射性薬剤はFlorbetaben[1]・Florbetapir[2]・Flutemetamol[3]の3種が存在するが当院では使用目的や製造方法について検討を重ねた結果放射性医薬品合成設備FASTlab(Fig.1)にて製造可能なFlutemetamol(以降FMMと表記)の製造を行う方法を選択した。
放射性医薬品合成設備FASTlabはFDG・FMM双方の製造・合成が可能であり、カセット内に試薬・カラムがオールインワンとなっているためセミオートでのオペレーションが可能である事がその理由である。
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【PET施設認証について】 |
PET施設認証には、PET薬剤製造施設認証とPET撮像施設認証がある。 施設認証取得に向けてのハードルは何点か存在するが、重要な点はハード面とソフト面の問題をクリアする事である。ハード面とはホットラボ内(Fig.2)の装置・差圧の状態や撮影カメラ(Fig.3)の性能などであるが、取得を目指す際に問題が生じた場合は改装などが必要になる場合があるため、その対応には熟考を要する。ソフト面とは管理体制を維持するための書類作成やそれを実行するためのマンパワーであるが、こちらも確保する必要がある。 幸い当院では施設面での大掛かりな改装は不要であったが、それでもプロジェクト立ち上げから認証までに10ヵ月程の期間を要した。ハード面に大きな問題が無ければ他施設でも概ね1年ほどの期間をもって認証取得を達成できるのではないだろうか。
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【認証までの流れ】 |
まずは認証を行っている日本核医学会に申請を出す必要がある。
製造施設認証については、前述の通りホットラボ・関連施設のハード的な問題を明らかにする事と管理・運用についてのドキュメントの整備をしておくことが求められるが、立ち上げに際し専門業者を委託するような場合でも作業内容やドキュメントについてはしっかりと理解しておく事は必須である。
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【PET撮像施設認証における注意点】 |
次に撮像認証についてであるが、保有装置の性能により取得が危ぶまれる場合には自施設でファントム実験などを行い予め確認しておくことを推奨する。 装置内蔵のキャリブレーション用ピンソースなどはメーカー推奨の期間にて交換しておくことが絶対条件であり、定期メンテナンス等の実施書類もすべて提示できるように用意しておくことが必要である。撮像プロトコルについては施設の研究内容や装置の特性などから他施設共同研究を目的としたJapanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(J-ADNI)[6]における脳アミロイドPET撮像プロトコルを参考にした学会推奨プロトコルに基本的に従う形となるが、そちらについても該当する箇所について理解しておくことが望ましい。 製造認証と同じく、待機室の構造・照度や静注機、ドーズキャリブレータの保有状況などハード面の審査も行われるが、通常の日常点検を行って日頃から整備していればこちらはクリアできると思われる。 撮像認証においてはファントム試験が大きなウエイトを占める。監査本番には本番に使用するHoffman3D脳ファントムが監査機関より送付される。このHoffman3D脳ファントム(Fig.4)は保有していない施設も多いと思われるが、ファントムの形状や複雑さから、作成にはある程度の経験や慣れが必要である。監査本番に初めて作成を行うようでは実験を遂行できないと思われるので、十分な経験が無い場合にはあらかじめ練習を行っておく必要がある。事前に近隣の大学病院や薬剤メーカー等に相談しておくと良い。 監査当日は施設内のウォークスルー、ドキュメントの確認、ファントム試験が行われた後に講評をいただく流れであるが、分解能・均一性などの試験結果は当日の講評で概ねの結果を知る事ができ、施設担当者が処理を行う必要は無いが、試験項目などについてはしっかりと理解をしておき本番に備えたい。
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【指摘事項の改善~認証取得】 |
撮像認証、製造認証ともに監査後に指摘事項があった場合には監査報告書と共に監査指摘事項書が送付されるが、改善項目のうち重要度の高いものは早急な対応を要し、改善計画書・実施書の提出が求められ改善が実施された証明(業者による改造・修理作業報告書など)が必要となる。 また、認証を受ける場合には誓約書へのサインが必要であり、当該PET製剤の製造・撮影においては特別な理由の無い限り監査時の撮像プロトコル・SOPの遵守が必要である。認証の有効期間は3年間であり認証を更新するためには再度監査を受ける必要があるが、そのためにも認証取得時の標準的撮像プロトコルや、ラボの管理体制維持は基本的な事であろう。
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【まとめ】 |
以上、当院における施設認証取得までの流れを述べた。 ・サイクロトロンと合成機の接続や共有部分 ・認証取得後の維持に関しての他職員への教育や啓蒙 ・本監査前におけるホフマンファントム作成の習熟 ・認証取得に至るまでのことを全て業者任せにしない
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【結語】 |