top お問い合わせ 印刷
 核医学検査装置 お客様の声
 ポアソンリサンプリングの基礎検討

 

市立池田病院 医療技術部放射線科
核医学担当 宇戸 朋之 様
 1.緒言

画像処理ワークステーションXelerisにはPoisson Resampling*(ポアソンリサンプリング)と命名されたカウントリダクションを実行するアプリケーションがある。核種の崩壊からガンマ線の発生、はては核医学画像のイメージ収集カウントに至るまでそれらの分布は時間的、空間的にポアソン分布に従っている。ポアソンリサンプリングは、ポアソン分布の理論値にマッチするようにイメージ収集カウントを減算すると聞く。
一方で平均カウントを単純な除算を行ってカウントリダクションをしても、意図した平均カウントを得ることができるが、この場合変動係数が変わらないので、平均カウントとSDの関係は一次関数の変化になり、理論的では無い。「あらかじめ十分な撮像時間で得たイメージを用いて、撮像時間をどの程度短縮できるか」等の検討を行うためには、ポアソン分布に従うカウント変化を再現しなければならない。それを行えるツールがポアソンリサンプリングである。

ポアソンリサンプリングの名称の由来であるポアソン分布を簡単に説明する。
ポアソン分布とは二項分布の極限であり、発生確率が非常に小さな事象で、標本数nが少ない場合はめったに起きないがnが多くなると、事象がいくらか発生するような珍しい現象を分布に示したもので離散的な分布である。
その最大の注目点は、nが相当数ある場合、平均値と分散が等しいという点にある1)2)。具体的な数値で示すと、単位時間あたりに壊変する原子が平均で10個の場合では、分散が10、同様に壊変する原子が平均で10000個の場合では、分散が10000、となる。分散の平方根が標準偏差(SD)であり、平均値とSDの関係はポアソン分布から理論的な数値を求めることができる。そしてポアソン分布の極限は正規分布であり正規分布の取り扱い方が流用できる。

 

 2.方法

ポアソンリサンプリングによってカウントリダクションした画像について

・収集カウントやSDが実際に撮像時間を短時間化した画像と等しいか。
・画像のスペクトルに変化が無いか。
・コントラストやエッジの現れ方に変化が無いか。

という点に関心がある。

これらを確認するためいくつかの実験を行った。
各実験はまず基準画像として、プリセットカウントを20000カウントに設定して撮像し、これをポアソンリサンプリングで目標のカウントにした場合と、プリセットカウントを目標の少ないカウントにして収集した場合のそれぞれを比較することで行った。
以後、ポアソンリサンプリングによってカウントリダクションした画像を基準画像に対するパーセンテージで“ポアソンα %”と表記し、プリセットカウントの設定を変えてカウントを減らした画像を基準画像のプリセット値20000カウントに対するパーセンテージで“プリセットα %”と表記する。ここでαは実験で行った任意の設定値である。

次に示す2種類の画像を得て比較検討した。

2-1.外寸で長辺600mm,短辺460mm,厚さ45mmのアクリル製面線源に99mTcを400MBq注入した。その上にアクリル板を配置して、コントラストをもったイメージを撮像した。基準画像に対してプリセット90%からプリセット10%までの10%ずつとプリセット5%の10種類を撮像した。比較対象のポアソンリサンプリング処理はポワソン90%からポアソン10%までの10%ずつとポアソン5%の10種類の減算処理を行った。

2-1-1. 各領域の平均カウントとSDが等しくなるのか確認した。各画像についてFig.1に示す3つの関心領域の平均収集カウントとSDを求め、平均収集カウントの関係、SDの関係についてグラフ化した。また平均収集カウントに対するSDについてもグラフ化した。
2-1-2. Fig.2に示すライン上に中央のコントラストをもつ部分を縦断する方向のラインプロファイルカーブを描き比較した。

Fig.1   Fig.2
Fig.1 平均収集カウントとSDを測定する関心領域   Fig.2 ラインプロファイルカーブの取得位置

2-2.前述の面線源のみで撮像した。基準画像に対するプリセット50%の画像と、基準画像のポワソン50%画像を得た。

2-2-1.プリセット50%の画像と、ポアソン50%の画像からNoise power spectrum(NPS)を測定しスペクトルの変化を確認した。
NPSはFig.3に示すように1次元サンプリングによる方法で、均一な画像の中央128×115ピクセルの領域を対象に仮想スリットで15ピクセル分をラインプロファイルとして取り出し計算した。これを5ピクセルずつずらした15ピクセル分の計算を行い、全領域についてそれぞれNPSを算出してから、平均したものを最終的なNPSカーブとした。なおNPS測定については参考書籍3)にある仮想スリットにより得られた1次元ノイズプロファイルを解析したNPS測定方法に準じた。

pic3

Fig.3 NPS測定に関する関心領域の設定

 

 3.結果

面線源の上にアクリル板をのせた画像のうち基準画像と、50%、10%の画像をFig.4に示す。視覚的にポアソン50%と10%、プリセット50%と10%のそれぞれの画像は区別がつかない。

pic4

Fig.4 基準画像とプリセット画像とポワソンリサンプリング画像

3つの関心領域をまとめてカウントの対応とSDの対応のグラフをFig.5に示す。平均カウントの関係でグラフの近似式はY=1.00X+0.04、相関係数=1.0、SDの関係でグラフの近似式はY=1.00X-0.09、相関係数=1.0であり、それぞれ1対1の対応を示しており各方法で得た画像間に差が無い事を示している。

Fig.5
Fig.5 プリセットカウントとポワソンリサンプリングの関係

また、平均カウントに対するSDの関係を示したグラフをFig.6に示す。これも各方法で得た画像間に差が見られない。

Fig.6
Fig.6 平均カウントとSDの関係

NPSカーブをFig.7に、1次元ラインプロファイルカーブをFig.8示す。NPSについては画像のX方向とY方向のそれぞれについて計算するが、それらに大きな違いが無いのでY方向のみを提示する。これらにおいても各方法で得た画像間に差が見られない。

Fig.7   Fig.8
Fig.7 Y方向の1次元NPSの比較   Fig.8 ラインプロファイルカーブの比較

 

 4.考察

Fig.5に示されるようにプリセットカウントとポワソンリサンプリングによって平均カウントを変化させた場合、平均カウントは完全な一致を見せSDもほぼ一致している。SDは多少のばらつきがあるが、統計誤差と思われる。平均カウントとSDの関係では、ポアソン分布に従って理論的に求めればSDは平均カウントの平方根になるので上に凸な曲線を描く。Fig.6の曲線はポワソン分布の理論通りの曲線であり、プリセットカウント、ポアソンリサンプリングの両者は一致した。NPSは画像ピクセル間の自己相関に関連し、プリセットカウントの画像に対してポアソンリサンプリングの画像でNPSが大きく変化するのかどうかが注目されるが、Fig.7が示すように両者に大きな違いは無く、ポアソンリサンプリングのアルゴリズムの過程にピクセル間の自己相関に影響する要素は無いと思われた。つまり画像のスペクトルについてもプリセットカウントとポアソンリサンプリングは同じである。

ラインプロファイルカーブによる評価は、コントラストをもつ部分の変化の様子を確認するために行った。
特にエッジ強調がなされているとか、逆にエッジの平滑化がなされているのかが注目されるが、ポアソンリサンプリング画像で、そのような変化は見られなかった。

 

 5.結論

冒頭にも述べたようにポアソンリサンプリングは撮像時間の検討に用いるが、臨床画像のデータをそのまま活用することも可能であり有効なツールである。今回の検討からポアソンリサンプリングを用いてカウントリダクションした画像は、実際にプリセットカウントを少なくして収集した画像に相当する事が確認された。このようなポアソンリサンプリングを大いに活用したい。

 

 

薬事情報

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

お電話以外でのお問い合わせの場合は、こちらをご利用ください。
info
(お問い合わせ例)
PET/CTについて詳細の質問がしたいので、営業から連絡がほしい
Discovery IQの価格・工事期間について、教えてほしい
導入済みの施設を見学したい


参考文献

  • 1)大村 平:統計解析のはなし:53-92,日科技連,第22刷1992
  • 2)大村 平:確率のはなし:78-103,日科技連,第41刷1993
  • 3)市川 勝弘,村松 禎久:標準X線CT画像計測:96-105,オーム社,2009