GE Smart Mail vol.133


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 CT お客様の声
 進化した逐次近似応用再構成(ASiR-V)の物理的および臨床的な初期評価





東北大学病院 診療技術部 放射線部門
佐藤 和宏 先生
宮城県立がんセンター 診療放射線技術部
後藤 光範 先生

 1. はじめに

逐次近似応用再構成(以下、IR応用)法は解像度を維持したまま画像雑音を低減することが可能とされてきた [1]、[2]。 しかし、これらの報告にある解像度の評価は高CNR(contrast-to-noise ratio)の被写体における測定結果であり、非線形挙動を示すIR応用再構成画像のあらゆる状況の解像度を反映しているわけではない。こうした背景から、我々は日本放射線技術学会において2013年に研究班を立ち上げ、逐次近似および逐次近似応用再構成画像の評価に関し、主にMTF(modulation transfer function) の評価方法について研究を進めてきた。

2014年9月、GE社よりリリースされた64列マルチスライスCT Revolution EVOは、これまで搭載されていたIR応用法ASiR(Adaptive Statistical iterative Reconstruction)の性能が著しく向上したASiR-Vを搭載しており、これまでよりも画質改善効果が期待できるようになった [3]。 そこで我々はGE社の協力の下、Revolution EVOに搭載されたASiR-Vについて、臨床画像を反映した物理評価と臨床画像を用いた視覚評価を行い、物理的および臨床的有用性を検証した。

 2. 方法

2-1. Modulation transfer function
MTFはESF( edge spread function)法 [4]により計測した。図1(a)にMTF計測用ファントムの概観を示す。直径20cmの円筒形容器を水で満たし、その中にブロックを固定した。これをスキャンして得られたCT画像を図1(b)に示す。


計測に用いたブロックは2種類あり、それぞれCT値が異なる。そのCT値は50HUおよび400HUである。主なスキャンおよび再構成条件は表1の通りである。



この条件で8回スキャンし、計測精度を確保するために256枚の再構成画像を加算平均した。加算平均画像のブロックのエッジ部分に設定した関心領域からESF法によりMTFを求めた(図2)。以下、このようにして計測したMTFをMTFtask [5]という。

2-2. Noise power spectrum
MTF計測用ファントムと同径の水ファントムを使用し、NPS(noise power spectrum)を計測した。スキャンおよび再構成条件の詳細は2-1と同様である。

2-3. Signal-to-noise ratio
2-1、2-2より得られたMTFtask、NPSの結果を基に、信号雑音比の周波数特性( signal-to-noise ratio;SNR) [6] を算出した。SNRの算出式を以下に示す。

Cはスキャン条件と被写体に依存する係数である。本検討の目的は同じ装置の同じ画像データを使用してSNRの相対的な変化を評価することであるため、 C=1とした。

2-4. 臨床画像による視覚評価
臨床運用上、ASiR-Vの画質改善効果が特に期待される腹部造影、心臓CTアンギオグラフィー(以下、心臓CTA)、頭部単純の3種類の臨床画像を用い視覚評価を行った。観察者はFBP(filtered back projection)再構成画像とASiR-Vによる再構成画像を観察し、-2~2点で点数をつけた。(2点:FBPの画質よりASiR-Vの画質の方が明らかに優れている/0点:FBPとASiR-Vの画質は同等である/-2点:FBPの方が明らかにASiR-Vの画質より優れている)それぞれの評価画像毎に、観察者の平均点数を求めた。なお、ASiR-Vの処理強度は、臨床運用の実用性を考えて30%、50%、80%とした。

 3. 結果

3-1. Modulation transfer function
 図3に、CT値が50HUと400HUのブロックから計測したMTFtaskを示す。ブロックのCT値が50HUのとき、FBPに比べてASiR-VのMTFtaskは低下し、ASiR-Vの処理強度が強いほどMTFtaskが低下した(図3(a))。ブロックのCT値が400HUのときにはFBPに比べてASiR-Vの処理強度に依存して徐々にMTFtaskが向上した(図3(b))。

3-2. Noise power spectrum
図4にNPSを示す。FBPのNPSに比べてASiR-VのNPSは0.1cycles/mmより高域で低下した。NPS低下の程度はASiR-Vの処理強度に依存し、強度が強いほどNPSは低下した。

3-3. Signal-to-noise ratio
図5にSNRを示す。図5(a)はCT値が50HUのブロックから計測したMTFtaskを基に算出したSNR、図5(b)はCT値が400HUのブロックから計測したMTFtaskを基に算出したSNRである。ブロックのCT値が50HUの場合には、すべてのSNRがほぼ一致した。ブロックのCT値が400HUの場合には、ASiR-VによってSNRが向上し、その程度はASiR-Vの強度に依存した。

3-4. 臨床画像による視覚評価
表2に臨床画像を用いた視覚評価の結果を示す。どの画像においても、FBP再構成画像よりASiR-Vによる再構成画像の方が高評価であった。ASiR-Vの強度30、50、80%で比較した場合においては、腹部造影画像と頭部単純画像ではASiR-Vの処理強度50%の画像が、冠動脈造影画像では処理強度80%の画像が最も高評価であった。

 4. 考察

ブロックのCT値が50HUの場合、ASiR-VによってMTFtaskは低下するものの、総合的に評価したとき画質の低下はない。すなわち、FBP再構成画像とASiR-Vの再構成画像のSNRは同等であることから、ASiR-Vによって画像が暈けるものの、暈けに相当する雑音低減効果が得られている。それに対してCT値差が400HUの場合には、僅かではあるが処理強度が強くなるほどMTFtaskが向上した。この挙動を反映して、SNRはFBP再構成画像よりASiR-Vの 再構成画像の方が向上し、処理強度が強いほど高SNRであった。したがって、本検討における物理的な評価の範囲ではASiR-Vによる画質の低下は認められず、構造物とその背景とのCT値差が大きい場合には、画質の向上が期待できる。ただし、再構成視野や背景の画像雑音量、再構成スライス厚などによって上記の挙動が変化する可能性があるため、評価目的に応じてASiR-Vの画質改善効果を確認する必要がある。

構造物と背景とのCT値差が小さいとき、処理強度が強いほどMTFtaskは低下することから、ASiR-Vによって、臨床画像に比較的多く含まれる低コントラスト構造の辺縁が不明瞭になる可能性があった。そのため、強すぎる強度のASiR-V再構成による臨床画像の視覚評価は低くなることが懸念されたが、このような懸念は大きなものではなかった。

腹部造影画像においては処理強度50%の画像が最も高評価で、処理強度が30%の画像の評価はFBP再構成画像をわずかに上回る程度にとどまった。処理強度が弱い場合、低コントラスト構造の辺縁の不明瞭化はごくわずかであるが雑音低減効果は小さいことから、視覚的な画質改善効果はわずかであったと推測される。また処理強度80%とすると、低コントラスト構造の辺縁の不明瞭化やIR応用再構成画像によく見られる粒状や質感の変化によって処理強度50%の画像より評価が低かったと考えられる。したがって、処理強度を中程度(50~80%程度)とすることによって画質改善効果を期待できる。

心臓CTAの評価においては、処理強度によらずASiR-Vによる画質改善効果が認められた。また、処理強度の強さとともに評価が高くなることから、ASiR-Vの効果を大きく期待できる検査部位の一つと言える。心臓CTAで最も注目されるのはCT値がおおよそ350HUの冠動脈である。構造物のCT値がこの程度のとき、MTFの結果が示すようにASiR-Vの強度が強くても血管の暈けを伴うことなく雑音低減効果を期待できる。冠動脈内にプラークがあったとしても、十分造影された血管とプラークのCT値差は大きい。したがって、腹部画像の評価と異なり、ASiR-Vの強度が強い場合心臓CTAの画像の評価が高くなったと考えられる。

頭部単純画像の評価は、腹部造影画像の評価とほぼ同様の傾向であった。臨床的に頭部単純画像で注目されるのは、白質と灰白質のコントラスト、脳室、そして超急性期の脳梗塞巣のようにある大きさがあり正常組織とのCT値差が小さい低吸収域である。これらはすべて大きな構造物、すなわち被写体のスペクトルはほとんどが超低周波域に存在する成分である。低コントラスト被写体に対してASiR-Vの処理強度が強くなっても超低周波域のMTFtaskの低下はわずかであり(図3(a))、SNRはほとんど劣化しない(図5(a))。また、超低周波領域のNPSはほとんど変化しないが、雑音標準偏差は低下しているため、視覚的な画質改善効果を期待できる。したがって、頭部単純画像はASiR-Vの強度が中程度(50~80%)の場合に高い評価になったと考えられる。

本検討にはいくつか限界がある。IR応用再構成では処理強度に依存してスライス感度分布が変化する場合があるといわれている [7] 。本検討ではASiR-V によるz軸方向の変化を検証していない。そのため、thinslice画像に対するASiR-Vの画質改善効果を十分に検証しているとはいえない。もう一つは、視覚評価を行った画像には、存在するかどうか判断に迷う病変がない。ASiR-Vによって判断に迷う病変の検出能が改善するかどうかは重要なことであり、今後の検討課題である。

 5. 結論

 ASiR-Vについて、物理評価と臨床画像を用いた視覚評価を行い、その有用性を検証した。FBP再構成画像の画質を基準としたとき、物理的にはASiR-Vによって画質がほぼ同等に保たれているか、改善された。ASiR-Vを臨床応用する場合、頭部や腹部のような低~中コントラスト構造の視認性の改善を期待するときには処理強度を中等度(50~80%程度)、冠動脈のような高コントラスト構造の視認性の改善を期待するときには処理強度を中程度以上に強く設定することにより、画質改善効果が期待できる。

参考文献
[1]Pontana F, Duhamel A, et a“l. Chest computed tomography using iterative reconstruction vs filtered back projection”Eur Radiol., 2011;21:636-643
[2] May MS , Wüst W.et a“l. Dose reduction in abdominal computed tomography”Invest Radiol. 2011;46:465-470
[3] Benefis of ASiR-V* Reconstruction for Reducing Patient Radiation Dose and Preserving Diagnostic Quality in CT Exams( GE Healthcare)
[4] Mori I, Machida Y, Deriving the modulation transfer function of CT from extremely noisy edge profiles. Radiol Phys Technol., 2009;2:22-32
[5] Richard S, Husarik DB, Yadava G. Towards task-based assessment of CT performance system and object MTF across different reconstruction algorithms. Med Phys., 2012;39:4115-4122
[6] Hara T, Ichikawa K, Sanada S, et al. Image quality dependence on in-plane positions and directions for MDCT images. Eur J Radiol ogy, 2010;75:114–121
[7] 後藤 光範、 佐藤 和宏、森 一生、他。異なる逐次近似応用再構成法における挙動の違いについて。第1回日本CT技術学会学術大会Pros., 2013;1:20-23

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