DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声
 DXAを組み入れた骨粗鬆症性椎体骨折に対するBalloon Kyphoplasty(BKP)を
 用いた地域連携パス






 聖隷佐倉市民病院
 院長補佐
 小谷 俊明 先生

 【BKPを用いた地域連携パスの導入の背景】

骨粗鬆症性椎体骨折の治療は保存療法が原則であるが、十分な保存治療を行っても疼痛が改善しない症例がある。近年、このような症例に対してBalloon Kyphoplasty(BKP)が行われているが、BKPを行って疼痛が改善しても術後早期に続発性椎体骨折が生じることがある1-3)。また、脆弱性による椎体骨折は原発性骨粗鬆症の診断基準となっており、BKP後の椎体再骨折の予防のためにも骨粗鬆症の評価や治療の継続が必要である。われわれはBKP後の再骨折防止と骨粗鬆症治療の継続を目的にテリパラチドの中でも週1回注射製剤(以下PTH週1製剤)を第一選択としている。

しかし、BKPを病院で施行し、その後のPTH週1製剤注射をすべて病院で行うとすると、患者にとっては自宅から遠い病院へ週一回、一年半通うことは、通院時間や通院費用の面でも難しく、その結果PTH週1製剤治療が中断される危険性が高い。また、病院の立場では、1年半継続する週1回の外来患者枠の確保が難しい。また、診療所としては、術後の骨粗鬆症治療まで病院が行ってしまうと、患者が診療所に戻ってこないこととなる。つまり、病院との関係が一方通行となり、互いのメリットがいきてこない。

 【地域連携パスの作成】

そこで、われわれは骨粗鬆症性椎体骨折に対するBKP手術患者に対して病院入院中にテリパラチド週1回製剤を開始し、退院後は診療所で同製剤注射を継続するBKP・テリパラチド地域連携パス(以下同パス)を考案し、DXAによる骨密度測定を同パスに組み入れて行っている。これは、病院でBKPの適応があると判断した場合、BKPを施行し、入院中にPTH週1製剤を開始する。退院後のPTH週1製剤継続は診療所に依頼し、病院でもあわせて数ヶ月~半年に1回程度経過観察を行う双方向型パスである(図1)。

また、パス手帳を作成し、注射回数、注射による副作用、骨密度、骨マーカーなどの情報を病院、診療所双方で共有する(図2)。

骨密度は当院のGEヘルスケアジャパン株式会社 骨密度測定装置を使用し(図3)、BKPを行う直前、6ヶ月、1年、1年半、2年の時点で測定しパス手帳に記録している。

 【対象と方法】

2012年10月-2013年10月まで初回BKPを施行した骨粗鬆症性椎体骨折症例は58例であった。そのうち、病的骨折症例、1年未満にドロップアウトした症例を除外した42例を調査対象とした。骨粗鬆症治療薬を継続の有無、また、再骨折の有無について調査した。

 【結果】

対象は男性6例、女性36例で平均年齢は77.2±6.6(66-92)歳であった。骨粗鬆症治療薬としてPTH週1回製剤(以下PTH週1剤)は28例、PTH連日製剤(以下PTH連日剤)は6例、ビスホスホネート製剤(以下ビスホス剤)は4例、使用なしは4例であった。PTH週1剤は導入1年後に、28例中18例(64.3%)継続していた。全症例42例では、再骨折は11例(26.2%)に生じており、再骨折11例中、BKP後2ヶ月未満が5例(45.5%)であった。PTH週1剤使用を1年以上継続している18例中、再骨折は4例(22.2%)あり、再骨折までの期間は15,25,90,810日であった。

骨密度の測定は、BKPによるセメントの影響がありうるため、大腿骨近位部で評価した。PTH週1製剤を1年半継続使用し、その後ビスホス製剤を投与した症例で調査したところ、大腿骨近位部の骨密度はBKP直前では0.628±0.128、6ヶ月後は0.613±0.121、1年後は0.628±0.108、1.5年後は0.625±0.124、2年後は0.628±0.153であり、いずれの時点でも有意差を認めなかった。

 【まとめ】

本パスの導入の結果、骨粗鬆症性椎体骨折の患者に対して病院と診療所が一体となって地域全体で治療を行うことが可能となった。その結果、患者にとってはBKPを受ける機会を得るともに、早期に痛みやQOLが改善するメリットが生まれた。また、病院で骨折直後からPTH週1製剤を開始することで、骨粗鬆症治療の必要性が理解できて治療継続のモチベーションを高めることができた。本研究ではBKP施行後の再骨折率は全体で26.2%であり、PTH週1製剤を1年以上継続例の再骨折率は22.2%であった。

上野らはBKP周術期から術後のPTH週1製剤を使用した群では,非使用群に対し続発性椎体骨折の発生率が有意に低く、BKP 後の続発性椎体骨折の予防対策として考慮すべき方法である、と報告している4)。われわれの症例では、PTH週1製剤1年以上継続例での大腿骨近位部の骨密度はいずれの時期でも差はなかったが、導入後3ヶ月から1年以内で再骨折した症例はなかった。

再骨折例4例のうち、導入後3ヶ月未満に3例骨折しているが、これらの症例は導入直後であったために骨折予防効果が少なかったものと推測される。以上の結果から、PTH週1製剤は骨密度を上昇はさせないものの、BKP後の再骨折予防に有効であることが示唆された。

大腿骨近位部骨折に対する地域連携パスを用いた診療ネットワークが近年全国各地で広く行われるようになってきている5)。BKPを用いた骨粗鬆症性椎体骨折に対する地域連携パスは、病院と診療所を連携する初めてパスであり、疼痛、QOLの早期の改善と続発性骨折の予防、骨粗鬆症の評価や治療継続に有効であった2)。本パスが広く普及し、骨粗鬆症性椎体骨折の評価、治療が病院・診療所で連携し、地域全体で効率的に行われることを期待している。


   【参考文献】

  1. 戸川大輔, 松山幸弘: 【椎体形成とkyphoplastyの最新情報】 Balloon kyphoplastyの手技と日本における現状. 脊椎脊髄 25: 183-188, 2012
  2. 小谷俊明、赤澤努、佐久間毅・他:Balloon kyphoplastyとテリパラチド週1回製剤を用いた骨粗鬆症性椎体骨折に対する地域連携パスの試み. 臨整外 50: 467-471, 2015
  3. Fribourg D, Tang C, Sra P, et al: Incidence of subsequent vertebral fracture after kyphoplasty. Spine 29: 2270-2276; discussion 2277, 2004
  4. 上野正喜, 中澤俊之, 斎藤 亘・他: バルーンカイフォプラスティー後の続発性椎体骨折に対する週1回皮下注射製剤テリパラチドの有用性. J Spine Res 4: 1399-1404, 2013
  5. 宮腰尚久, 萩野 浩, 遠藤直人・他: 大腿骨近位部骨折に対する地域連携パスの運用実態 全国調査による地域差の検討. 整形・災害外科 56: 991-998, 2013

薬事情報

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