DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声
 高齢女性におけるDXA骨密度判定の取り扱い
pic13 医療法人社団誠和会
牟田病院理事 (元医療技術部長)
義本 正二 先生
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 はじめに

加齢に伴う骨粗しょう症が原因で骨折が起こると、一時的又は永続的なActivities of daily living(ADL)の低下や、特に高齢者の場合は寝たきりの原因となります。すなわち健康寿命の延伸において、骨粗しょう症の早期の的確な診断と治療は、重要なポイントの一つだと言えます。
骨粗しょう症という病名が一般に広く知られるようになって久しいですが、日常診療における診断や治療については、まだまだ研究の余地があると感じています。

 

 DXAを導入して気づいたこと
当院にDXA測定装置Prodigy Advance‐C(GEヘルスケア)(写真)が導入されたのは2012年9月の事でした。それまではMD法により中手骨の骨密度を測定していました。
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DXA測定装置Prodigy Advance‐C


導入当初から測定結果に違和感を覚えるケースがありましたが、導入から3カ月が過ぎた辺りでその違和感を整理してみると以下のようなものでした。(図1)

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(図1)


1 何となく(MD法に比べ)全体に数値が高くないか!?
2 異常に高いYAM値はなぜ?
3 骨折との相関があるのか?
4 モニタリングに適してるのか?

ではなぜこのように感じたのでしょうか?

 

 原因究明

そこで我々は、2012年9月28日から2012年12月4日に、当院でDXAを測定した94例中、女性でかつ腰椎単純X線撮影のある38例のデータを詳細に見直しました。この研究については、当院の坂本らが対象を拡大し論文にまとめ、日本放射線技師会雑誌2015.7 Vol.62/No.753(p19-23)に掲載されましたが、そのきっかけとなったのがこの検証でした。
具体的には38例(61歳~90歳 平均年齢78.8歳)のうち測定し得た全228椎体を、一つずつ腰椎単純X線撮影と照らし合わせてみました。
すると大変興味深いことが分かりました。一般に測定結果はL1からL4、またはL2からL4の平均値で評価することとなっていますが、それだとその人本来の骨密度とは言えないのではないかと思われる要素が明らかになりました。『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』には「局所的変化やアーティファクト」という表現が使われていますが、以下に症例を示して説明します。

症例1.68歳女性 L2-L4平均値(%YAM)101%(図2)
各椎体別に見ますとL1:85%に対しL4:111%となっています。これは図3に示すように腹部大動脈の高度石灰化がL4の%YAMを上昇させていると考えられます。

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(図2)※画像クリックで拡大します。
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    (図3)



症例2.82歳女性 L2-L4平均値(%YAM)84%(図4)
各椎体別ではL1:94%に対しL2:78%となっています。これは図5に示すように椎体の圧迫骨折がL1の%YAMを上昇させていると考えられます。

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(図4)※画像クリックで拡大します。
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    (図5)


症例3.81歳女性 L2-L4平均値(%YAM)134%(図6)
各椎体別ではL1:118%、L2:126%、L3:139%、L4:138%となっています。これは図7に示すように椎体辺縁に骨棘を形成していることがそれぞれの%YAMを上昇させていると考えられます。

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(図6)※画像クリックで拡大します。
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    (図7)

また38例の中には、腰椎単純X線撮影と近い時期にCTスキャンを行っている症例があり、CTでは腹部の動脈硬化性変化が著しいけれど、単純X線撮影ではあまり目立たない症例などもありました。
このように腰椎DXA測定においては、見かけ上%YAMを上昇させる因子(以下上昇因子)が存在します。そしてこれらの上昇因子の発生は、中高年において珍しくありません。また通常DXA測定を行った症例が、必ずしも腰椎単純X線撮影を行うわけではありませんので、日常の骨粗しょう症診断において、本来の骨密度よりも高い%YAMで判断している可能性があります。

では、その人の本来の骨密度を見極めるためにはどうすれば良いのでしょう。

 

 最低値を見る
今回の検証では上昇因子を特定しましたが、逆に見かけ上%YAMを下降させるような要素は同定していません。また当時装置メーカーに見解を求めたところ、「椎体の最低値がその人本来の骨密度を下回ることはない。」ということでした。
前出の94例と、そのうち大腿骨近位部を測定できた90例の測定結果をグラフにしてみると図8のようになります。

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(図8)

傾きと%YAMが70%以下のプロットの数は、明らかに違っています。そこで、腰椎平均値ではなく最低値をグラフにしたものが図9です。

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(図9)

傾きと70%以下のプロットの数は、かなり近くなっていることが分かります。
大腿骨近位部は腰椎に比べ、上昇因子の発生は極端に少ないですから、大腿骨近位部の測定結果は、本来の骨密度に近いと考えられます。つまり腰椎の最低値での評価は、平均値での評価より有用ではないかということが示唆されます。また前出の論文には、最低値で判定した場合に一般的な有病率と差異はなかったことが記述されています。ただし、理想的にはDXA測定と腰椎単純X線撮影をペアで行い、上昇因子を除外した椎体の平均値で評価するべきですが、コストや被曝などの問題もあり、実際には難しいのではないでしょうか。

 

 腰椎と大腿骨近位部の相関
これまでは各部位の骨密度は相関するという前提で、中手骨や橈骨、踵骨などの測定結果を基に、骨粗しょう症診療が行われてきました。今回の詳細検証を行う中で、腰椎の骨密度は高いが、大腿骨近位部の骨密度は低いケース(図10右)やその逆のケース(図10左)も見受けられました。ですから可能な限り腰椎と大腿骨近位部の両方を測定し、骨粗しょう症の診療にあたるべきであると考えます。

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(図10)

 

 まとめ

これまで述べたことをまとめます。

1. DXAでの骨密度は、腰椎と大腿骨近位部の両方を測定する。
2. 腰椎DXAの骨密度は以下の因子により高くなるので、単純X線撮影を行い、これらを除外して骨密度評価を行う。
  ・腹部大動脈石灰化
  ・圧迫骨折
  ・椎体骨骨過形成
3. 腰椎単純X線撮影を行わない場合、椎体における最低値を見る。

本邦のみならず世界で骨密度測定のゴールドスタンダードとされているDXAでありますが、測定方法や測定結果の取り扱いについて、詳細かつ慎重に行うことが大切です。特に中高年の患者さんにおいては、腰椎最低値を見て行くことで予防や治療の早期介入が可能となり、医療コストや患者さんの身体的負担の軽減にもつながります。年齢や状態など患者さんに応じた診断と経過観察が重要であると考えます。

 

薬事情報

※お客様の使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

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