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 核医学検査装置 お客様の声
 定量解析ソフトウェア「Q.Metrix」の臨床応用~肺血流SPECT~

一般財団法人 住友病院
診療技術部 放射線技術科
川口 弘之 様

当院ではSPECT/CT装置として,新たにDiscovery NM/CT 670 Q.Suite Proを導入した.本装置は従来のSPECT/CT診断に定量評価を加えることが可能であり,核医学の強みである機能評価をより客観的に評価できるようになった.その定量評価はQ.Metrixソフトウェアで可能となるが,SPECTとCTのSegmentationツールを利用し,放射性医薬品の摂取量をMBq/mlで表すことができる.さらに,患者情報(身長や体重など)を合わせることで,PET検査のようなSPECT SUVも算出できる.これにより,治療前後のフォローアップ検査や術前予測等を客観的に評価出来ることが期待される.
今回は当院においてQ.Metrixによる肺血流SPECT定量を目標として初期検討した呼吸停止下において施行した症例を紹介し,最後に安静呼吸時収集の可能性についても少し触れる.

SPECTの収集条件を下記に示す.

放射性医薬品(投与量): 99mTc‐MAA(185MBq)
コリメータ: ELEGP
マトリックスサイズ: 128×128
収集モード: Dynamic SPECT
Total Angular Range: 360°
Time/Rotation: 30sec
Number of Rotation: 10
酸素投与量: 1L/min

肺血流と肺換気検査を同一日に連続して行うことが多い為,肺換気シンチ(81mKr)に合わせコリメータはELEGPを用いている.また,30秒の息止めを複数回行うため,より安定的に呼吸停止が行えるよう酸素投与(1L/min)を行っている.

次に,CTの撮影条件を下記に示す.

Rotation Time: 0.5sec/rotation
Detector Configuration: 16×1.25
Helical Pitch: 0.938
管電圧;管電流: 120kV;20mA
ASiR: 30%

上記プロトコールにて実施した呼吸停止下肺血流SPECTにおけるQ.Metrixの結果を示す(図1).SPECT画像とCT画像間にco-registrationのミスマッチは見られず,精度よく肺葉分けを行うことができた.また,肺葉分けはCT画像上の葉間に沿って行った.

図1
(図1)

肺葉VOIはCT画像をベースに作製. 右上葉・右中葉・右下葉・左上葉・左下葉に肺葉分けし,各肺葉でのVolumeやMBq/mlなど算出.

一方,肺血流に限らず呼吸停止下SPECT検査は,1回の呼吸停止で1つのprojectionデータ(もしくは,1step)を収集するため比較的短時間のデータが複数回分必要となる.そのためprojection加算する際において問題となるのが,呼吸停止時に患者の吸気量が変動することである.当院では呼吸モニタニングシステムAbches(APEX Medical社)を所有しており,これを利用しSPECTとCT共に吸気呼吸停止下で施行した.Abchesを使用することによって患者は自身の吸気量を確認しながら呼吸停止ができるため,安定した呼吸停止が可能となる.

図2
(図2)

過去に呼吸モニタニングシステムAbchesを用いて、吸気呼吸停止の再現性を検討したので紹介する(図2).15秒間の吸気呼吸停止と15秒間の安静呼吸(休憩)を交互に32回連続して行い,Abchesのメーターを被験者に見せながら呼吸停止を行った場合と,見せずに呼吸停止を行った場合でメーターの触れ(吸気量)の推移を検証した.Abchesのメーターを見せずに呼吸停止を行った場合(赤線)では,呼吸停止の回数を重ねるごとに徐々にメーターの触れ(吸気量)が減少した.これは,呼吸停止を繰り返すことによる疲れや集中力の低下が原因と考える.これに対しAbchesのメーターを見せながら呼吸停止を行った場合(青線)では,視覚的に自身の吸気量を把握できるため安定した吸気呼吸停止が可能となった.

しかし,呼吸停止下SPECT収集は患者にとって大きな負担となる.肺血流SPECTを施行する患者は多くの場合肺疾患を患っており,複数回の吸気呼吸停止ができないケースが多々ある.そこで,SPECTの加算回数の最適化を定性・定量的な指標で検討した(図3,図4).図3はSPECTの加算回数による視覚評価である.今回の症例では7-8回加算以上で良好な画像が得られた.図4はQ.Metrixを用いて,定量値の変化を検討した結果である.5回加算から定量値がプラトーに達した.これらは,コリメータをLEHRより感度の高いELEGPを用いていることや,放射性医薬品を185MBq(正午検定)のもので午前中に検査を施行しカウントが十分に得られたため,3-4分相当のSPECT収集で良好な結果が得られたと考える.

図3
(図3)


図4
(図4)

最後に,吸気呼吸停止下収集と安静呼吸下収集の差を画像にて示す(図5).全ての症例で,AC(吸収補正),SC(散乱補正),RR(分解能補正)は行っていないため,純粋なSPECT画像とCT画像とのhardware co-registrationである.図5左上がSPECTとCT共に吸気呼吸停止下にて撮像した例である,co-registrationのミスマッチがほとんど無く,精度よい重ね合わせができている.その他に示す例では,SPECTとCT共に安静呼吸状態で撮像した.安静呼吸時の撮像では吸気呼吸停止時に比べると多少co-registrationミスマッチはあるが,筆者が予想していたほどの差はなかった.
呼吸モニタリングシステムは多くの場合,放射線治療の分野で利用されており核医学(特に,SPECT)の分野では普及していない.その為,肺血流SPECT定量が普及するには呼吸モニタリングシステムを用いた呼吸停止下ではなく安静呼吸下で検査が施行されることが望まれる.今回の検討結果では将来性が見込めるものであった.

図5
(図5)SPECTとCTそれぞれにおいて、吸気呼吸停止下収集と安静呼吸下収集のco-registrationを比較.

今回,Q.Metrixによる肺血流SPECT定量の初期検討を行った.コリメータはELEGPを用いDynamicSPECTで7-8回以上の加算SPECT収集を推奨する.また,必ずしも吸気呼吸停止下SPECT収集を用いなくても安静呼吸下での収集で定量データが得られる可能性が示唆された.今回書ききれなかった所ではあるが,肺血流SPECT定量を行う上で問題も幾つか存在する.今後は症例を重ねながら,そういった問題を一つ一つ改善し,「患者さんにとって負担の少ない検査手法」で「精度の高い定量値」を追求して,臨床現場に活きる検査結果を提供していきたいと考える.

 

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