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 拡散強調画像における最新の歪み低減技術とAIR Technology
東京大学医学部附属病院
放射線技術部
鈴木 雄一 様
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 はじめに

拡散強調画像(Diffusion Weighted Image; DWI)のメリットは、急性期脳梗塞を鋭敏に検出できる1、生体内の細胞密度や粘度を反映できる2、脳白質神経走行を表現できる3などがあり、臨床には欠かせない画像の一種であることは言うまでもない。しかし、デメリット=「歪み」があることも、周知の事実である。この「歪み」は、一対の運動検出傾斜磁場(Motion Probing Gradient; MPG)に起因するものと、エコプラナーイメージング(Echo Planar Imaging; EPI)法に起因するものに大別できる。前者はMPG印加に伴う渦電流の影響であり、affine変換やdual spin echo法4などによる歪み対策がある。しかし後者に関しては、single shot型EPI法を用いている限り改善が難しく、周波数エンコードマトリックスを減らす、パラレルイメージングを併用する、位相方向のFOVの割合を減らすなど撮影時の工夫が幾つかあるが、劇的な解決策は今まではないに等しかった。

今回、当院に導入された3.0テスラ MRI SIGNA Premierには、高い信号雑音比(Signal Noise Ratio; SNR)の画像が取得可能なAIR コイル(技術)と最新アプリケーションDV27が搭載されている。これらのハードおよびソフトウェアを用いることで、今まで難しかったsingle shot型EPI法を用いたDWIの歪みを低減させ、画質を向上することが可能となった。

加えて、multi shot型DWIの技術による歪み低減技術も臨床現場で気軽に使用可能となった。本稿では装置導入に伴い、我々が臨床現場で実際に用い始めたDWIの歪み低減技術とそれを用いた画像および臨床例を紹介する。

 

 PROGRES

この技術は、B0不均一やEPI法におけるリードアウト、渦電流が原因で発生する画像の歪みを補正する技術である。同様の歪み改善方法としては、オックスフォード大学が開発したTOPUP5があるが、ほとんどが研究分野での使用である。MRI装置外のPCにデータを吐き出し、専用ソフトで処理する必要があることやMPGを最低6軸以上かけたDWI(拡散テンソル画像)でなければならない等の制約があることに加え、データ数やPCのスペックに依存するが最低でも数十分の計算時間がかかるため、臨床現場での使用報告はほとんどない。

一方PROGRESは、オンコンソールでの処理が可能であり、処理時間も非常に短く、ほとんどないに等しい。そのため、臨床現場における有用性は非常に高いと言える。

一連の流れは以下の通りである。

  1. T2強調画像(b0画像)を撮像する際に、位相エンコード方向を2方向(順方向[例 PA方向]と逆方向 [例 AP方向])が撮像される。
  2. 得られた2つのb0画像から磁場の不均一や動きの補正を行い、補正されたb0画像が作成される。
  3. ②で求められたパラメータをDWI(PA方向)に適応し、DWIについてもEPIに起因した歪み補正を行い最終的な画像が得られる(図1)。
図1. 各エンコード方向の画像と補正後画像
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左:順方向でのエンコーディングによるb0画像
中:逆方向でのエンコーディングb0画像
右:歪み補正されたb0画像

実際に我々がすることは、Distortion Correctionにチェックを入れるだけである(図2)。非常に簡単ではあるが、使用に当たって注意点がいくつかある。1つ目はSNRが低い場合である。SNRが低いと、歪み補正画像にブラーリングが発生する場合があるとのことである(GE提供資料)。しかし、AIRコイル(48chコイル)を使用することで高いSNRを得やすいため、現在のところ、我々の施設の撮像条件ではブラーリングは確認していない。2つ目は、使用部位である。頭部での使用が推奨されている。もちろん腹部などでも使用は可能であるが、極性の異なる2つのb0画像取得の間で、腸管の蠕動運動などによる磁化率変化の影響があるため、精度の高い歪み補正画像が得にくくなると考えられる。3つ目は、生成される画像が処理画像であるということである。従って、何らかの原因による計算エラーの可能性がある、ということに注意が必要である。しかし幸いなことに、必ずオリジナル画像(補正されていない画像)も画像再構成されるため、2つを比較して歪み補正が有効かどうか、臨床画像として提供できるか判断することができる。

図2. PROGRESの設定
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それでは実際の画像を供覧する。頭部DWIにおけるPROGRESのONとOFF比較画像である(図3)。当院の通常臨床で用いられる条件レベルで、筆者本人の脳を撮像した画像である。撮像時間は30秒である。PROGRESによる補正の違いは、一目瞭然であると言える。特に白太矢印領域にあるような磁化率の差が激しい領域(副鼻腔・側頭骨近傍)や脳幹部で認識していただけると思う。

図3. PROGRES ON/OFFによるDWI比較
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(a) PROGRES ONにおけるDWI
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(b) PROGRES OFFにおけるDWI

加えて、b0画像(T2WI)における白細矢印(眼球)においても歪み補正の精度の高さが伺える(図4)。上述したが、必ず出力されるオリジナル画像(補正されていない画像)も生成されるため、歪み補正効果の程度確認だけでなく、そもそもPROGRES処理が有効であったか(補正処理がマイナスに働いていないか)を確認できるのも心強い。また画像再構成も、ほとんどリアルタイムで表示されるため、一刻を争う緊急MRI検査で使用しても全くストレスはない。

図4. PROGRES ON/OFFによるb0比較
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(a) PROGRES ONにおけるb0画像
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(b) PROGRES OFFにおけるb0画像

 

 MUSE(Multiplexed Sensitivity Encoding)

続いて紹介するのは、MUSEである。これは位相エンコード方向に沿って、データ収集を分割するmulti shot型DWIである。技術自体は新しいものではないが、従来の装置ではリードアウトの延長によるブラーリング、磁化率アーチファクトの発生や撮像時間の延長などから、積極的な臨床応用はされてこなかった。しかしSIGNA PremierならびにAIRコイルの登場を皮切りに、臨床での使用頻度が今後増えていくと思われる。

一連の流れは以下の通り。

  1. 位相エンコード方向に従ってセグメント化された読み出しを有する拡散でデータを収集する{図5(左)}。
  2. 様々な動きによる位相誤差をセグメント毎(ショット毎)の位相情報から補正する{図5(中)}。
  3. 補正したDWIが作成される{図5(右)}。
図5. MUSE
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左:4ショットによるk空間データ収集の例
中:位相誤差補正前のDWI
右:補正されたDWI

我々は、アプリケーションでMUSEを選択、ショット数(k空間へのデータ充填を分ける回数)を決定した後、その他の撮像条件を組むという流れになる(図6)。MUSEは、ショット数が多くなるほど、トレードオフとして撮像時間延長になる。その反面、歪みを低減した上で、従来のDWIでは難しかった位相方向への高分解能化を実現できるのが特徴の一つである。

図6. MUSEの設定
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使用できる部位に限りはないが、頭部と前立腺が推奨されている。現時点で脂肪抑制としてのプレパレーションパルスはCHESS法のみであり、STIRを付加することはできない。またFOCUSとの併用が出来ないため、今後の開発が待たれるところである。

それでは、上腹部におけるMUSEを用いたDWIと従来のDWIの画像比較である(図7)。同一患者画像で、上段はSigna HDxtにて過去に検査をした脂肪抑制パルス付加T2強調画像(左)、single shot型EPIのb0画像(中)、single shot型EPIのDWI(下)である。一方、下段はPremierによるMUSE(2ショット)の画像である(左・中・右の種類は上段と同じ)。撮像時間は前者が3分14秒、後者が6分46秒とショット数が増えた分(約2倍)時間は要しているが、歪みの改善度合いは点線(ドーム下の位置)や脾臓の形状や位置を見れば明らかであると言える。また分割してのデータ収集により、ケミカルシフトアーチファクトの低減効果も大きいことがわかる。加えて、Air AA coilによる高いSNRの画像取得も可能となったことから、位相方向の分解能を大幅に向上させても(前者の位相方向マトリックス数160に対し、後者は264)、臨床画像として十分なSNRを担保した高分解画像を取得することができている。

図7. MUSEを用いた上腹部DWI
pic7 上左:Signa HDxtにて撮像した脂肪抑制パルス付加T2強調画像
上中:Signa HDxtにて撮像したsingle shot型b0画像
上右:Signa HDxtにて撮像したsingle shot型DWI
下左:SIGNA Premierにて撮像した脂肪抑制パルス付加T2強調画像
下中:SIGNA Premierにて撮像したMUSE(multi shot型)b0画像
下右:SIGNA Premierにて撮像したMUSE(multi shot型)DWI

 

 PROGRESとMUSEの併用

この2つの技術は、同時に用いることが可能である。その応用例を紹介する。真珠腫疑いの患者おけるPROGRESとMUSE(4ショット)の併用とPROPELLER DWIとの比較である(図8)。これまで当院において真珠腫疑い患者のMRIは、PROPELLER DWIを用いてきた{図8(左上)}。この手法は、歪みに対しては強い。しかし原理上、高周波成分の情報量が低下するため、脳実質コントラストなどが低下しやすいことや撮像時間が長くなること、撮像時間を考慮すると、トレードオフで分解能を高くしづらいなどの欠点があった。一方、MUSEを用いることで、PROPELLER DWIと同様の歪み低減効果を発揮できるだけではなく、分解能も向上(PROPELLERが128×128、撮像時間2分12秒に対し、MUSEが192×256、撮像時間2分24秒)することが可能となった{図8(右上)}。しかもPROGRESを併用することで、更に歪みを補正が可能となっている{図8(左下)}。

従来のDWIでは、FIESTA-Cの様ないわゆる歪みのない画像との比較観察は困難であったが、この方法を用いればほとんど位置ずれの違和感なく観察できるレベルに歪みが改善されていることが分かる{図8(右下)}。

図8. PROGRESとMUSEの併用例
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左上:PROPELLER DWI
右上:MUSE DWI (4ショット)
左下:MUSE DWI (4ショット)+PROGRES
右下:FIESTA-C

 

 最後に

従来のDWIは、どうしても「歪み」から逃れることは難しかった。歪み低減に関しては、対策はあるものの、どこかで妥協せざるを得なかった。しかし、今回紹介したPROGRESやMUSEを使用することで、今までDWIとは比べ物にならないレベルの歪みが低減された、また分解能が向上したDWIを医師そして患者に提供できるようになったと実感している。まだ我々も使用期間が短く、初期経験での報告であるが、本稿が皆様のDWI理解への一助となれば幸いである。

 

 

参考文献
  1. Warach S, Chien D, Li W, Ronthal M, Edelman RR. Fast magnetic resonance diffusion-weighted imaging of acute human stroke. Neurology. 1992, 42(9):1717-23.
  2. Jensen JH, Helpern JA. MRI quantification of non-GAussian water diffusion by kurtosis analysis. NMR Biomed 2010, 23(7): 698-710.
  3. Mori S, Crain BJ, Chacko VP, van Zijl PC. Three-Dimensional Tracking of Axonal Projections in the Brain by Magnetic Resonance Imaging. Ann Neurol 1999, 45(2): 265-9.
  4. Reese TG, Held O, Weisskoff RM, Wedeen VJ. Reduction of Eddy-Current-Induced Distortion in Diffusion MRI Using a Twice-Refocused Spin Echo. Magn Reson Med 2003, 49: 177-182.
  5. http://fsl.fmrib.ox.ac.uk/fsl/fslwiki/TOPUP

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