第51回日本神経放射線学会 ダイバーシティ推進プログラム
「医療におけるダイバーシティ&インクルージョン・シンポジウム」開催報告

pic1

 

2022年2月19日(土)第51回日本神経放射線学会のメイン会場にて,ダイバーシティ推進プログラム「医療におけるダイバーシティ&インクルージョン・シンポジウム」が開催された。医療の現場や研究機関でも働き方改革の重要性が認識され,様々な取り組みが開始されている。このような中で,企業で既に実施されている考え方や取り組みなども参考にする試みとして,医療関連企業と医師の両立場から事例や経験を紹介し意見交換を行う2部構成のプログラムが組まれた。第1部では「企業の取り組み・医療の取り組み」と題し,座長は工藤與亮先生(北海道大学大学院 医学研究院 放射線科学分野 画像診断学教室 教授)と阿久津博義先生(日本脳神経外科学会ダイバーシティ推進委員会 委員/獨協医科大学 脳神経外科学 主任教授)が務め,企業2名・医師2名からそれぞれ発表が行われた。第2部では「ダイバーシティ&インクルージョンについて考えてみましょう!!」と題し,定藤章代先生(日本神経放射線学会ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会 副委員長/藤田医科大学岡崎医療センター 脳神経外科 教授),菊田潤子先生(日本神経放射線学会ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会 副委員長/順天堂大学 医学部 放射線診断学講座 助教)がモデレータを務め,第1部の座長,演者とともにパネルディスカッション形式での意見交換がなされた。

 

Key points
  • 松葉 香子 氏:いきなり100点を求めるのではなく、参考となる働き方や考え方を活かすことが大切である。
  • 宇佐見 英司 氏:社員が互いに認められ輝ける環境で共通目標に向かい最大の成果を出すために様々な取り組みを行っている。
  • 木内 俊介 先生:東邦大学では准修練医制度や病児保育など様々な制度を整え、女性医師の継続就労率の向上として成果が表れている。
  • 相田 典子 先生:ダイバーシティを自分事としてとらえ、様々な構成メンバーを入れながら学会改革を行っていきたい。
  • パネルディスカッション:ライフイベントにより誰かの負担が増えるという考え方ではなく、誰にでも起こりうることを皆で支え医療に貢献するという考え方が大切。指導的立場になる心理的ハードルを下げるには、後に続く後輩のために指導者自身の接し方を考えることに加え、医師のマンパワー不足を是正する職場環境の整備が必要。

 

第1部 企業の取り組み・医療の取り組み

講演①:「医療関連企業における“普通の”女性活躍」
松葉 香子 氏(GEヘルスケア・ジャパン株式会社 執行役員 アカデミック本部長 兼 エジソン・ソリューション本部長)

pic2

まず,皆さんが自分なりにダイバーシティ&インクルージョンの定義を考えてみていただきたい。私自身で整理してみると、ダイバーシティ とは「そういう考え・背景の人もいるんだな」という多様性であり,インクルージョンとは「自分はそうは思わないけど,あなたのその意見は理解したよ」と受容すること・受容されることと考える。何が正解ということは無く,自身が考えていることをほかの人も同じように考えているとは限らないということを認識することが肝である。私自身は米国大学病院と日本企業で働く機会があり,米国では国籍や性別はほとんど意識したことがなかった。しかし日本に帰国してみると,『女性の本部長』といわれる経験も多く、企業のダイバーシティ推進はまだまだ道半ばの段階である。企業から医療業界を見てみると,女性は職能ごとに固定化されているような印象を受ける。さて,女性活躍という話題に対し非常に悩ましいと感じるのは「あなたのロールモデルは誰ですか?」 という問いである。全て完璧で次のステージへの階段を上っている人をロールモデルと言わなければならないのか。また、ロールモデルと取り上げられた側に対して、あの人は普通ではないからとスーパースターのように扱われることもある。このように,自身のロールモデル像に完全に当てはまる誰かを捜したり,ロールモデルはどこから見ても100点である必要があるというプレッシャーがあったりする。そのようなロールモデルの罠にはまらないために,「あなたにとっての参考になりそうなのは,どんな人のどんな仕事の仕方ですか?ひとつ挙げてみて」と尋ねてみてはどうだろうか。また,個の内なるバイアスのみならず,企業として施策・制度を作り,様々な背景をもつ社員に周知・傾聴の機会を設けることで,実際にそれが活用されるように現在取り組んでいる(図1)。

pic3
図1

 

講演②:「医療に携わる企業が考える女性活躍以外のダイバーシティ&インクルージョン」
宇佐見 英司 氏(GEヘルスケア・ジャパン株式会社 執行役員 アジアパシフィック人事本部長)

pic4

GEでは,企業として成長していくための3つの柱を掲げており,どのようにビジネスに取り組むか(How)を何に取り組むか(What)と同程度重視している。一つ目に一人ひとり多様性をもつ社員が認められ輝ける場を与えられること(Inclusion & Diversity)である。二つ目に社員の安全を重要視しつつ常に改善を続けていくこと(Safety & Lean)である。三つ目に全社員に求めるリーダーの行動指針(Leadership Behavior)である。Inclusion & Diversityの具体的事例として社内のコミュニティを立ち上げ、女性社員による座談会や意識調査,キャリアデザインセミナーなどを行っているほか,無意識のバイアス(unconscious bias)について、障がいをもつ社員とパネルディディスカッションを開催したり,性的指向について法的配偶者以外のパートナーもベネフィットを得られるように就業規則を改正したりと様々な取り組みを行っている。また,リモートワーク制度を上限なく9割以上の社員に認め,短時間正社員制度やサバティカル休暇制度を整備することでワークライフバランスの充実を図っている。GEにおけるリーダーの行動指針は時代とともに変化し続けているが,特にこれからの時代のリーダーは多様な相手を認め輝かせるために,方向付け,コーチング,フィードバック,褒賞の4つの役割を果たすよう会社として奨励し続けている(図2)。GEの考えるダイバーシティ&インクルージョンとは,多様なメンバーが集い,一人ひとりが認められ輝ける場を与えられ,一つの目標に向かってベストな人材がベストな仕事をベストな環境できるように目指している。その結果として,社員がパフォーマンスを発揮し,お客様や社会へのアウトカムを最大化できると考えている。

pic5
図2

 

講演③「東邦大学におけるダイバーシティ推進の取り組み」
木内 俊介 先生(東邦大学 ダイバーシティセンター 副センター長/東邦大学大学院 医学研究科 循環器内科学 講師)

pic6

東邦大学は女性の理科系教育の向上および自由と友愛の学園を目指し、1925年に帝国女子医学専門学校として創立された。女性活躍支援の歴史は1970年の東邦大学保育園開園に始まり,東邦大学女性医師支援室,東邦男女共同参画推進室などを経て,2017年に現在のダイバーシティ推進センターに至る。これまで様々な補助事業へ申請・採択されることで原資を得ながら子育て支援や学内の改革を行ってきたが,中でも特徴的なのは2010年に病院敷地内に開設された病児保育室であり,感染症の病児・病後児も保育対象に含まれている。また同年に医学部准修練医制度が設立され,従来型の時短勤務ではなく1週間のうち半分の勤務・半分の給与で医師の継続就労を認める制度を実現した。本制度は,2011年の6人から2019年の46人まで利用者数を拡大し,今ではその適応範囲を男性や介護目的まで広げている。また新たな支援制度として2015年には外国人研究者セミナー招聘制度,英文校閲経費支援制度,共同研究強化支援制度を設立。2020年には法人人事課と連携し,大学の人事制度を利用者に届きやすいかたちで発信し、利用者の声を反映できるよう努めている。このような支援制度の効果として,2008年と2020年の継続就労者を男女で比較すると女性医師の割合が向上した(図3)。今後は,女性活躍のみならず,男性の育児介護,若手研究者やLGBT,障がい者の支援まで広げ,学び方や働き方の多様性を支援していきたいと考えている。

pic7
図3

 

講演④:「私がダイバーシティを少し理解するまでの道のり」
相田 典子 先生(神奈川県立こども医療センター 放射線科 部長)

pic8

私自身が医学部で学んだ1980年代はまだまだ男性優位のバイアスがあり,女性が四年制大学や医学部に行くこと自体少なかった。卒業後結婚したが,一人の医者として見られないこともあった。自身も男女の区別を受け入れるのを仕方がないし当然と思っていた。妊娠・出産を経験したが,人手不足の放射線科から退く自由や時短勤務などはなく,ほどなくして放射線科一人スタッフの現在の職場に異動することになった。2000年代に入ると世間ではダイバーシティという言葉を耳にするようになったがまったく実感がわかず,正直興味もわかなかった。というのも,幼少時代から男女の区別は当たり前で育ち,困難は個人のマネージメントで乗り越えるものであり,女性優遇といわれるのも嫌だったこともあり,ダイバーシティに素直に向き合えなかった。逆に女性なので学会役員などの社会的仕事しなくてもよいという考えもあり,差別は甘えと表裏一体だった。しかし日本小児放射線学会の理事そして理事長になったことを契機に,徐々にシニアとしての自覚が芽生え始めた。そして,2021年には医学放射線学会(JRS)特任理事として,女性理事を誕生させる仕組みを作ることを使命に,クオータ制などの代議員選挙改革,理事選挙改革を進めた。放射線科だけでなく医療業界でも若い世代ほど女性の割合が高く,所属や年齢,出身大学,経験など男女だけではない様々な構成メンバーの声をまんべんなく反映しない組織に未来はないと考えている。すべての人がダイバーシティを自分事と考えられ,個が活かされるようにすることが重要である(図4)。

pic9
図4

 

第2部 ダイバーシティ&インクルージョンについて考えてみましょう!!
pic10

パネルディスカッションでは,「女性が職場にいることで男性の負担が増えるという考え方に対する意見および管理者としての対応」について,木内先生より,全ての人が働きやすい職場環境の一つとして医師の働き方改革に伴うシフト制の導入が例に挙げられた。宇佐見氏からは,裁量の大きい就業形態を与えながら担当する職責や期待値を明文化したうえでパフォーマンスマネージメントをすることが重要と述べた。相田先生からは,女性がいることで男性の負担が増えることは必ずしも真実ではなく,フルタイムで働けないハンディキャップをもつことは誰にでも起こりうることを念頭に自分事として支え合うことが大切であると述べた。

pic11

また,「女性が院長や理事などの指導的地位になることに対する心理的ハードルを下げる方策」について松葉氏は、自身も心理的ハードルは確かに感じるが,管理職として見られているという自覚をもったうえで接し方に気を付けることで,後輩たちの心理的ハードルが下がるのではないかと述べた。工藤先生からは,自分の後輩を役職に推薦した際に男女関係なく遠慮されることがあり,気負う必要はないことを強調し応援するようにしている。女性の社会進出のためには男性の家庭進出が必須であることも加えた。阿久津先生からは,脳神経外科における女性医師の比率は放射線科よりさらに少なく,指導的立場になる候補者自体が少ない。勤務時間や緊急呼び出しなどの体制を整えることから始めないとすぐに男女比率は変わらない。時短勤務にはマンパワーが必須であり,採用定員のカウントや職場環境の整備が心理的ハードルを下げるためには必要であると述べた。

pic12

 

最後に、安藤久美子先生(日本神経放射線学会 ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会 委員長/神戸市立医療センター中央市民病院 放射線診断科 医長)が挨拶し,本プログラムを通じていろいろな考え方があることを知り,刺激を受け,新しいアイデアがまた生まれるように願っていると述べた。さらに、それぞれができることで補い合いながら目標に向かって大きな力となってほしいという意味を込めて,委員会の名称をダイバーシティ推進委員会からダイバーシティ&インクルージョン推進委員会に変更したと紹介した。そして、本委員会の活動に理解と支援をされている三木幸雄先生(日本神経放射線学会 代表/大阪市立大学大学院 医学研究科 放射線診断学・IVR学教室 教授),日本神経放射線学会関係者,岩渕聡先生(第51回日本神経放射線学会 大会長/東邦大学医療センター大橋病院 脳神経外科 教授),林盛人先生(同前 事務局長/講師),大会関係者,シンポジウム登壇の先生,共催のGEヘルスケア・ジャパン株式会社関係者に謝辞を述べ、シンポジウムを締めくくった。

pic13

 

 

お電話以外でのお問い合わせの場合は、こちらをご利用ください。

お問い合わせ