本資料について
本資料は,GEヘルスケア社製CTを使用している3施設における、股関節のDual Energy CTの物質弁別画像を用いた骨髄浮腫画像の運用情報をまとめたものである。近年、高齢者転倒後の股関節痛・荷重時痛・歩行困難を呈する症例に対し,特にMRIが即時施行が困難な場面においてDual Energy CTによるVNCa画像の活用が広がってきている。
しかし、表示条件や物質ペアは十分に標準化されておらず、施設間や画像作成者間での差異があるという課題がある。そこで本資料では,股関節周囲骨折評価に用いるDual Energy CTの撮像条件,使用物質ペア,画像表示条件の標準化を目指し,実際の運用情報を整理した。
40代以降の患者におけるWW/WLの例
実際のVNCa画像において,股関節周囲骨折をきたした部位と正常部位のWater-Hydroxyapatite(HAP)の密度値を測定し,その結果より骨折部の密度値の平均は992.1±16.3(mg/cm3)であった.これより、40歳代以降の中高年から高齢者で,高エネルギー外傷ではない転倒後股関節痛を有する患者における推奨条件として、Water-Hydroxyapatite(HAP)のカラー表示の際のウィンドウ幅/ウィンドウレベル(WW/WL)を270/1000と定義した。
この数値を初期設定値とし、変形性股関節症や骨変形がある場合、また人工骨頭置換術後,THA後などの金属が入ってくる場合については、本資料の注意点を参考にして頂き、多くの施設で臨床運用が進むきっかけとなれば幸いである。
はじめに
本資料は、以前公開された腰椎の骨髄浮腫描出に関する画像解析を、股関節領域へ応用する際の考え方を整理したものである。高齢者の転倒後に生じる股関節周囲骨折、とくに大腿骨頸部骨折や転子部骨折は、早期診断と適切な治療方針決定が重要である。一方、不顕性骨折では単純X線写真や通常CTで明らかな骨折線を認めない場合があり、診断に難渋することが少なくない。骨髄浮腫の評価にはMRIが有用であり、股関節外傷におけるゴールドスタンダードとして位置づけられているが、救急外来、夜間休日、強い疼痛、体位保持困難、金属デバイス、予約制約などにより即時施行が困難な場面も存在する。
近年、Dual Energy CT(以下、DECT)の物質弁別解析を用いたVirtual Non-Calcium image(以下、VNCa)により、骨成分を抑制し骨髄内の水成分変化を可視化することが可能となり、不顕性骨折の補助診断への応用が期待されている。本資料では、GEヘルスケア社製CT装置における股関節領域のVNCa画像運用について、撮像条件、画像表示条件、注意事項および臨床活用例を含めて概説する。
股関節における骨髄浮腫画像について
骨折した大腿骨近位部や骨盤輪では、受傷直後から骨髄内に浮腫や出血が生じる。こうした骨髄浮腫は、骨折線が明瞭でない場合でも描出されうるため、不顕性骨折診断の重要な手掛かりとなる。とくに大腿骨頸部不顕性骨折、転子部不全骨折、恥坐骨枝骨折、仙骨不全骨折では、単純X線のみでは見逃されることがある(図1)。MRIは骨髄浮腫評価の標準的モダリティであるが、救急外来や時間外診療では即時施行が困難な場面も少なくない。そのため、CTで骨皮質や骨梁の破綻を評価しつつ、骨髄浮腫の情報を補助的に得ることができる手法が有用である 1-4)。
Dual Energy CT(DECT)におけるVirtual Non-Calcium image(VNCa)は、骨梁内カルシウム成分を抑制することで、骨髄内の水分増加を反映した変化を可視化する手法である。VNCaは骨髄浮腫の評価において通常CTに追加情報を与え、外傷領域を中心に有用性が報告されている。GEヘルスケア社製のfast kV switching型DECTでは、Gemstone Spectral Imaging(GSI)によるtwo-material decompositionに基づく骨髄評価が臨床応用されており、施設運用上はWater-CalciumおよびWater-HAP画像を併用することで、骨髄内変化の把握を補助できる 5、6)。
股関節領域は、椎体と比較して骨皮質が厚く、解剖構造も複雑であり、さらに骨盤輪を含む広範囲の評価が必要となる。そのため、70 keV画像などの通常画像に加え、VNCa画像を併用して、大腿骨頭、大腿骨頸部、転子部、寛骨臼、恥坐骨枝、仙骨周囲まで観察することが望ましい。実際、不顕性股関節骨折に対するDECTの有用性は早期から報告されており、近年の報告では、とくに転子部骨折で高い診断能を示す一方、大腿骨頸部骨折ではMRI追加が望ましい可能性も示されている。また、仙骨不全骨折に対してもVNCa画像はMRIと比較して高い診断能を示している 3、4)。
したがって、股関節領域におけるVNCa画像は、MRIの完全な代替としてではなく、不顕性骨折を早期に拾い上げ、MRI施行の要否判断や診療初期対応を支援する補助的画像として位置づけるのが適切である。大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)のOccult fracture(不顕性骨折)に関する記載でも、追加画像評価の重要性が示されており、VNCa画像もその補助的手法の一つとして位置づけられる 7)。

図1.Kawakamiらの論文より引用
大腿骨転子部骨折(a)と大腿骨頸部骨折(b)の代表的な画像。デュアルエネルギーCT画像では、転子間線に沿って骨髄浮腫が緑色で強調表示されている。CT:コンピュータ断層撮影;MRI:磁気共鳴画像法;STIR:短τ反転回復法;T1WI:T1強調画像。
撮像条件(各装置参考条件)
股関節版では、撮像条件そのものは腰椎版の考え方を踏襲しつつも、撮像範囲、体厚、金属アーチファクト、骨盤輪損傷の併存を考慮する必要がある。片側股関節痛であっても対側との評価や骨盤輪評価を考慮し、骨盤全体から大腿骨近位骨幹部までを含めた範囲設定が望ましい。
Revolution Apex
Revolution CT
撮像条件(各装置参考条件)
股関節版では、撮像条件そのものは腰椎版の考え方を踏襲しつつも、撮像範囲、体厚、金属アーチファクト、骨盤輪損傷の併存を考慮する必要がある。片側股関節痛であっても対側との評価や骨盤輪評価を考慮し、骨盤全体から大腿骨近位骨幹部までを含めた範囲設定が望ましい。
Revolution HD
Discovery CT750 HD
推奨WW/WL条件
VNCa画像の課題の一つは、表示条件や使用する物質ペアが十分に標準化されていない点である。そのため施設間で画像が異なることや、症例によっては偽陽性・偽陰性を生じうることが問題である。そこで本概要書では、想定する対象をある程度限定することで、実用的な推奨条件を提示する方針とした。本概要書では、 対象モデル:40歳代以降の中高年から高齢者で、高エネルギー外傷ではない転倒後股関節痛を有する患者を想定する。
・物質密度画像の決定
表1に各VNCa画像の正常および骨折部に対する水密度値を示す。Water-Hydroxyapatite、 Water-Calcium両者の水密度値は骨折部で値が有意に上昇する傾向を示した。表2、 図2に骨折に対する水密度値の診断能ならびにROC曲線を示す。Water-Hydroxyapatite、 Water-Calcium両者は骨折に対する感度の高さを示した。特異度に関してはWater-CalciumではWater-Hydroxyapatiteよりも低下する傾向を示し、それに伴いAUCも低下した。そこで本概要書においては股関節周囲骨折を疑うスクリーニング検査の目的を考え、 使用する物質密度画像はWater-Hydroxyapatite画像とした。
・ WW/WLの決定
まずWLであるが、これは表1の結果を参照し、Water-Hydroxyapatiteにおける病変部の水密度値の平均が992.1±16.3であることからWL:1000とした。
WWについてはWL:1000で固定した際のWWを何種類か変更した画像を視覚評価し、 その結果WW:270を推奨条件として採用した。
表1. 正常と骨折の水密度値
表2. 股関周囲骨折に対するVNCa画像の診断能
臨床症例 ー手稲渓仁会病院 ー
Case1 左大腿骨頸部不顕性骨折
68歳女性。浴室で滑って転倒し、左股関節部を受傷した。独歩で救急外来を受診した。身体所見では左大腿骨頭付近に圧痛を認め、同部を圧迫すると大腿前面にも疼痛が誘発された。明らかな神経学的異常は認めなかった。骨盤および左大腿骨のX線検査を施行したが、明らかな骨折線は認められなかったため、DECTによる精査を行った。
画像 (Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution Apex
図3.左大腿骨頸部不顕性骨折
画像所見
70 keV画像では明瞭な骨折線を認めなかったが、VNCa画像では左大腿骨頸部に骨髄浮腫を認めた。これらの所見から左大腿骨頸部不顕性骨折と診断し、入院となった。翌日に施行したMRIでも、DECT所見と一致する骨髄浮腫を認めた。
臨床的視点
DECTを活用することで骨髄浮腫の描出が可能となり、身体所見との整合を確認したうえで、荷重制限や入院の判断に寄与した症例であった。
Case2 左大腿骨頸部不顕性骨折
77歳女性。電動自転車走行中に転倒し受傷した。股関節単純X線検査にて大腿骨頸部骨折が疑われたため、確定診断目的にDECTを施行した。
画像 (Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution Apex
図4.左大腿骨頸部不顕性骨折
画像所見
70 keV画像では大腿骨頸部内側に骨折線を認め、VNCa画像では同部位に骨髄浮腫を認めた。これらの所見から左大腿骨頸部骨折と診断し、入院加療の方針となった。
臨床的視点
DECTにより骨折線の視認性向上と骨髄浮腫の描出が可能であり、診断確定に加えて手術方針の決定にも寄与した。MRIを追加施行することなく治療方針決定が可能であった症例である。
臨床症例 ー長岡赤十字病院 ー
Case1 左大腿骨転子部不顕性骨折
74歳女性。立ちくらみ後に左側を下にして転倒し、その後左股関節痛が持続し、体動困難となったため当院へ救急搬送された。骨粗鬆症の既往を有していた。身体所見では左股関節外側に圧痛を認め、左下肢は軽度外旋位であった。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution CT
図5.左大腿骨転子部不顕性骨折
画像所見
単純X線検査では明らかな骨折線を認めなかった。DECTを施行したところ、70 keV画像でも明らかな骨折線は認めず、皮質の連続性も保たれていた。一方、VNCa画像(Water-HAP)では、疼痛部位に一致して密度上昇を認め、骨髄浮腫を強く示唆する所見であった。MRIでも同部位に骨髄浮腫を認め、大腿骨転子部不顕性骨折と診断された。
臨床的視点
本症例では、通常CTで骨折線が描出されない段階でも、VNCa画像により骨髄浮腫を捉えることができた。これにより、疼痛部位との整合性を確認しながら、不顕性骨折を疑う根拠を得ることができ、追加MRIによる確定診断につながった。
Case2 右大腿骨転子部骨折
92歳女性。居室入口で座り込むように転倒し、右大腿部の内出血を認めたため、受傷翌日に当院へ救急搬送された。認知機能低下のため疼痛の訴えは明確でなかった。骨粗鬆症および左大腿骨近位部骨折の既往を有していた。身体所見では明らかな圧痛は乏しかったが、右大腿骨近位部外側に違和感を認めた。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution CT
図6.右大腿骨転子部骨折
画像所見
単純X線検査では明らかな骨折線は不明瞭であったが、DECTの70 keV画像では骨折線を認めた。さらに、VNCa画像(Water-HAP)でも同部位に一致した密度上昇を認め、骨髄浮腫の存在が示唆された。対側には骨接合術後の金属インプラントを認めたが、診断に影響する明らかなアーチファクトは認めなかった(掲載画像はMAR非併用)。
臨床的視点
本症例では、症状評価が困難な状況においても、DECTにより骨折線および骨髄浮腫を確認することができ、診断補助として有用であった。また、対側に金属インプラントを有する症例でもVNCa画像は評価可能であった。一方で、髄内釘(ガンマネイルなど)挿入例では、MARを併用した再構成が望ましいと考えられる。
Case3 右大腿骨頸部不顕性骨折
94歳女性。明らかな転倒歴はないものの右臀部痛が持続し、起立困難となったため、症状出現4日後に当院を紹介受診した。身体所見では右股関節他動時痛を認め、超音波検査では右股関節に少量の関節液貯留を認めた。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1010)装置:Revolution CT
図7.右大腿骨頸部不顕性骨折
画像所見
単純X線検査およびDECTの70 keV画像では明らかな骨折線を認めなかった。一方、VNCa画像(Water-HAP)では右大腿骨頸部に密度上昇を認め(矢印)、骨髄浮腫を示唆する所見であった。MRI(患側のみ撮像)でも同部位に骨髄浮腫を認め、大腿骨頸部不顕性骨折と診断された。
臨床的視点
本症例では、単純X線検査および通常CTで骨折線が描出されない段階でも、VNCa画像により骨髄浮腫を示唆する所見を捉えることができ、不顕性骨折の診断補助として有用であった。
※読影上の注意点
VNCa画像の作成では、表示ウインドウ条件の調整を要する場合がある。本症例でも、大腿骨頸部の密度上昇を適切に描出するためのWW/WL設定に苦慮した。大腿骨頸部は骨梁構造の影響により、正常でも大腿骨転子部と比較して密度値が高い傾向にあるためである。そのため、密度上昇を評価する際には対側との比較が重要であり、対側比較を前提とした読影がVNCa画像の解釈において有用である。本症例のウインドウ表示は、推奨条件(WL:1000)から+10調整し、WL:1010とした。
臨床症例 ー熊本整形外科病院 ー
Case1 右大腿骨頸部不全骨折
73歳女性。3日前に段差につまずいて転倒した。歩行は可能であったため経過観察していたが、右股関節から大腿部にかけての疼痛が持続し、脱力感も伴ったため受診した。同日にCT検査を施行した。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution HD
図8.右大腿骨頸部不全骨折
画像所見
70 keV画像では明らかな骨折線を指摘できなかったが、Dual Energy解析では右大腿骨頸部に限局性の骨髄浮腫を認め、不顕性骨折が疑われた。翌日にMRIを施行したところ、同部位に骨髄浮腫と骨折線を認め、右大腿骨頸部不全骨折と診断された。
※画像表示のポイント
当院では、放射線科医1名および放射線技師4名により、大腿骨頸部における浮腫性信号のWL設定について検討を行った。WL 1000を基準とし、その前後10の範囲で変化させた画像(図2)を比較した結果、以下の知見が得られた。
当院で使用しているAWの「Rainbow」カラーテンプレートでは、WL 1000、WW 270において正常骨髄は青色調、浮腫性変化は黄色調として表示されやすい。また、周囲筋は黄〜赤色調を示し、組織間コントラストが得られる。
WLを下げると、骨髄全体の信号が強調され、浮腫性変化はより明瞭となる。また、周囲筋が赤色調に近づくことで、正常骨髄、浮腫、筋組織のコントラストが強まり、浮腫性信号の視認性は向上する。一方、WLを上げると、浮腫性信号が正常骨髄に近い色調へ分類されやすく、さらに周囲筋とのコントラストも低下するため、視認性が損なわれる傾向があった。
ただし、放射線科医からは、「WLを下げすぎると正常骨髄信号も上昇して見えるため、MRIなどの事前情報がない場合には解釈に迷う。一方、WLを上げすぎると浮腫性骨髄が正常骨髄に埋もれる可能性があるため、大きな変更は避けるべきである」との意見が得られた。
これらの結果を踏まえ、当院では WL 1000を基準とし、±10の範囲で調整する 運用としている。
図9. 図8症例におけるWLの比較図
臨床症例 ー熊本整形外科病院 ー
Case2 左大腿骨頸部不全骨折
89歳女性。30年前より腰痛の既往があった。前日までは杖歩行が可能であったが、徐々に歩行困難となり、臀部から膝下にかけてのしびれも認めたため当院を受診。同日、腰部脊柱管狭窄症が疑われMRI検査を施行したところ、左大腿骨頸部不全骨折が指摘された。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:990)装置:Revolution HD
図10.左大腿骨頸部不全骨折
画像所見
翌日に施行されたCT検査では、70 keVで明らかな骨折線を指摘できなかったが、MRIと同部位に浮腫性変化を確認されCT所見でもMRI同様左大腿骨不全骨折と診断された。
※画像表示のポイント
画像(Water-HAP WW:270 WL:990/ MRI)の順で表示
MRIで確認された骨髄浮腫の範囲は比較的限局しており、Water-HAP画像ではWL 1000の設定では浮腫性変化の視認性が十分ではなかった。そこで本症例では、既に骨折部位が特定されていたことを踏まえ、浮腫性変化を強調する目的でWL 990に調整した。
このように、骨髄浮腫が限局する症例では、標準設定では視認性が不十分となる場合があり、既知病変の評価においてはWLをわずかに下げることで描出性が改善することがある。
臨床症例 ー熊本整形外科病院 ー
Case3 右大腿骨転子部骨折
76歳女性。段差を降りようとして足を踏み外し、約1 m転落した。その際に右側胸部および右股関節部を強打し、体動困難となって受診した。同日にCTおよびMRI検査を施行し、多発骨盤骨折および右大腿骨転子部骨折と診断された。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution HD
図11.右大腿骨転子部骨折
画像所見
単純X線画像およびCT骨条件画像では、大腿骨近位部に明らかな骨折所見を認めなかった。一方、VNCa画像では右大腿骨転子部に浮腫性変化が示唆され、MRI所見と整合した。
※画像表示のポイント
大腿骨近位部に明らかな骨折線がみられない場合には、VNCa画像を作成して骨髄浮腫の有無を確認することが有用である。本症例では、健側との比較が可能となるよう両側股関節を含むMPR画像を作成した。HD系装置におけるWater-HAP解析はbeam hardeningの影響を受けやすく、特に股関節領域では健側との比較を行うことで浮腫性変化の判別が容易になる。
臨床的視点
当院が提示した症例からWater-HAP解析は以下の点で臨床的価値を持つと考えられる。
• 骨折線が描出されない段階でも骨髄浮腫を可視化できる
→ 不顕性骨折の早期診断に寄与する。
• MRIと整合する所見を示し、診断の確信度を高める
→ MRI前の判断材料として有用。
• 表示条件(WL/WW)の最適化により、再現性のある評価が可能
→施設内の診断精度を安定化。
• 救急・外来での迅速な意思決定を支援する
→ MRIがすぐに撮像できない状況でも診断遅延を防ぐ。
• MRI困難例における現実的な代替手段となる
→ ペースメーカー装着例や体動困難例でも評価可能。
これらの点から、Water‑HAP解析は股関節周囲の不顕性骨折・不全骨折の診断精度を向上させ、治療開始の遅れを防ぐうえで、臨床的に極めて有用な解析手法である。
注意書き(注意内容・画像)
運用にあたってはいくつか注意事項があるため,下記項目を参照していただきたい.
◆ 推奨する撮像条件およびWW/WLは初期設定値であり、症例背景や装置差に応じて調整が必要になることもある。
◆ 股関節領域では変形性股関節症、骨頭変形、骨嚢胞、骨硬化、陳旧性骨折の影響を受けることがある。
◆ 人工骨頭置換術後、THA後、髄内釘やスクリュー留置例では金属アーチファクトにより評価が困難となる場合があるため、 金属アーチファクト低減処理の使用を考慮する。
◆ 疼痛部位が股関節周囲に限局していても、恥坐骨枝や仙骨を含む骨盤輪骨折が併存することがあるため、撮像範囲に注意する。
◆ VNCa画像で信号上昇を認めても、必ずしも骨折線そのものを直接描出しているわけではない。病歴、身体所見、通常CT所見と統合して判断する。
◆ 初期導入時は、DECT単独で完結させず、MRI対比を通じて施設内の表示条件と読影基準を整備することが望ましい。
注意症例
注意症例Case1 人工骨頭/THAによる評価困難例
84歳女性。骨粗鬆症の既往があり、現在も薬物治療中であった。過去に転倒受傷を契機として左大腿骨頸部骨折を発症し、人工骨頭置換術が施行されていた。骨粗鬆症外来を受診する数日前から左股関節痛が増悪し、歩行および体動が困難となった。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution Apex
図12.左大腿骨転子部不顕性脆弱性骨折
画像所見
人工関節を有していたため、MRIによる評価は困難であることが予想され、CTで精査を行った。MARを併用して再構成したWater-HAP画像では、左大腿骨転子部に骨髄浮腫を認め、転子部不顕性脆弱性骨折と診断された。
※注意点・臨床的意義
MARの有無を比較すると、MARを併用することで金属アーチファクトが大幅に低減され、診断に十分な画像が得られた。本症例は、人工関節周囲や金属インプラントを有する症例において、MAR併用VNCa画像が診断に有用であることを示す例である。
注意症例Case2 股関節痛を主訴とした骨盤輪骨折併存例
80歳女性。骨粗鬆症性椎体骨折に対して入院加療中であり、保存的治療およびリハビリテーションが行われていた。入院中に左股関節痛を訴えたため、骨折精査目的にDECTを施行した。
画像
(Water(HAP) WW:270 WL:1000)装置:Revolution Apex
図13.両側仙骨翼脆弱性骨折
画像所見
股関節部には圧痛を認めたが、Water-HAP画像では疼痛部に一致する骨折線や骨髄浮腫を認めなかった。一方、仙骨から仙腸関節部にかけてびまん性に広がる骨髄浮腫を認めた。整形外科医により脆弱性骨折が疑われ、追加でMRIを施行したところ、同部位に一致して骨髄浮腫を認め、股関節には明らかな骨髄浮腫を認めなかった。以上より、両側仙骨翼脆弱性骨折と診断された。
※注意点・臨床的意義
本症例では、股関節痛を主訴としていたものの、実際の病変は仙骨翼に存在していた。VNCa画像では、疼痛部位だけに注目するのではなく、周辺の骨盤領域まで含めて広く評価することが重要である。本症例では診断後ただちにリハビリテーションを中止し、安静管理へ移行する判断につながった。
各施設での運用例
表3.各施設運用まとめ
・VNCa画像導入施設での運用例;手稲渓仁会病院
日勤帯に来院した股関節周囲骨折症例では,全例でDECTを施行している。また夜間では股関節のMRI検査は行なっていないため、 救急医からもDECTを希望する声が挙がった。そのため夜間帯はセカンドパスでDECT撮影を行う体制となっている。
提出画像は患側と健側の比較を基本とし、Axial、 Sagittal、 Coronalを2 mmで再構成した骨条件画像、 Water-HAPの2種類を作成してPACSへ送信している。また金属が留置されている場合は積極的にMARを使用している。
・VNCa画像導入施設での運用例;長岡赤十字病院
股関節外傷が疑われる症例に対しては、まず単純X線を施行し、骨折の有無を評価する。明らかな骨折所見を認めない場合には、DECT撮影を施行する運用としている。さらに、大腿近位部骨折や脆弱性骨盤輪骨折が疑われる症例において、検査目的に「大腿近位部痛」や「臀部痛」などの記載がある場合には、技師の判断でDECT撮影を施行している。本運用は整形外科医と協議のうえで決定している。
VNCa画像の評価は、患側と健側の比較を基本とし、AxialとCoronal(2 mm)で再構成したWater-CalciumおよびWater-HAPの2種類を作成してPACSへ送信している。特に骨盤領域ではノイズの影響を受けやすく、VNCa画像に反映されやすいため、必要に応じて画像フィルタ(Smooth1)を適用している。また、年齢による影響も考慮し、症例ごとに適切なWW/WLの調整を行っている。
・VNCa画像導入施設での運用例;熊本整形外科病院
股関節・骨盤検査は金属インプラント術後以外、GSIモードでの撮影をルーティンとしている。画像処理は ①骨条件MPR (Axial 、 coronal 、 sagittal 、 大腿骨頸部の角度に併せたoblique) スライス厚は2mm以下 ② VR ③ Water-HAP解析カラー画像MPR (患側健側含めたAxial とCoronal 、 患側のoblique)スライス厚は7.5mm を出力。ただし、明らかな転位のある骨折症例に関しては、Water-HAP解析カラー画像を省略し、医師の追加指示があった場合に作成する。
まとめ
股関節外傷診療では、不顕性大腿骨近位部骨折や骨盤輪骨折の早期診断が重要であり、MRIが即時施行困難な場面ではDECTによるVNCa画像が有用な補助情報となりうる。
一方で、股関節領域は椎体よりも解剖学的に複雑であり、金属アーチファクトや高吸収物質の影響も受けやすい。そのため、70 keV画像とVNCa画像を併用し、MRI対比を通じて施設内で最適なWW/WLおよび読影基準を整備することが重要である。
参考文献
1) Reddy T, McLaughlin PD, Mallinson PI, et al. Detection of occult, undisplaced hip fractures with a dual-energy CT algorithm targeted to detection of bone marrow edema. Emerg Radiol. 2015;22(1):25-29.
2) Kawakami H, Sasaki H, Kamizono J, et al. Dual-energy computed tomography may reduce delayed diagnosis of occult hip fractures: Experiences at a single center. 2025.
3) D’Angelo T, Albrecht MH, Caudo D, et al. Virtual non-calcium dual-energy CT: clinical applications. Eur Radiol Exp. 2021;5(1):38.
4) Wilson MP, Lui K, Nobbee D, et al. Diagnostic accuracy of dual-energy CT for the detection of bone marrow edema in the appendicular skeleton: a systematic review and meta-analysis. Eur Radiol. 2021;31(3):1558-1568.
5) Pan J, Yan L, Gao H, et al. Fast kilovoltage (KV)-switching dual-energy computed tomography hydroxyapatite (HAP)-water decomposition technique for identifying bone marrow edema in vertebral compression fractures. Quant Imaging Med Surg. 2020;10(3):604-611.
6) Tivnan P, Kaliaev A, Anderson SW, et al. Utilization of a two-material decomposition from a single-source, dual-energy CT in acute traumatic vertebral fractures. Front Radiol. 2023.
7) 日本整形外科学会,日本骨折治療学会監修,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編.大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版).南江堂,2021.