骨転移診断におけるdual-energy CT (DECT) の意義
骨転移の画像診断において,従来の単一エネルギーCTは,骨皮質破壊,骨硬化,骨梁変化などの形態学的異常を評価するうえで有用である.一方で,骨髄内にとどまる早期病変や,明らかな骨構造変化を伴わない病変の描出には限界がある.MRIは骨髄病変の検出に優れるが,撮像時間,検査可能枠,禁忌,患者負担などの制約を受ける.こうした背景から,近年では dual-energy CT (DECT) を用いて,従来CTでは得られない組成情報を付加し,骨病変評価に応用する試みが進んでいる.
DECTは,異なる2つのエネルギーで取得した減弱情報を利用し,物質ごとのエネルギー依存性の差から組織成分を分離する撮像法である.単一エネルギーCTでは区別しにくい物質であっても,DECTでは物質分解により,組成の違いを反映した画像を作成できる.すなわち,DECTは単なる形態画像にとどまらず,物質特性に基づく追加情報を提供できる点に特徴がある.とくに骨転移評価では,骨ミネラルに隠れた骨髄内変化を可視化しうる点が重要である.
物質密度画像とVirtual non-calcium (VNCa) の考え方
DECTの後処理の中でも,骨転移評価で重要となるのが物質密度画像である.物質密度画像は,2種類の基準物質を設定し,各画素におけるそれぞれの寄与を推定することで作成される画像であり,従来のCT値画像とは異なり,特定物質の分布や相対量を反映する.骨病変の評価では,水成分と骨ミネラル成分を分離して表現できることに意義があり,これにより,骨梁や皮質骨の高吸収に埋もれた骨髄内変化を評価しやすくなる.
Virtual non-calcium (VNCa) 画像は,この物質分解を応用し,骨の無機成分を仮想的に抑制することで,骨髄内の水分変化を相対的に見やすくした画像である.VNCaの本質は,骨を“消す”ことそのものではなく,骨ミネラル成分の影響を減らし,骨髄内の変化を強調して表示する点にある.したがって,VNCa画像は従来CTでは把握しにくい骨髄置換や浮腫性変化を補助的に示す手段として有用である.
当院のGEヘルスケア社製CT装置では,二物質分解に基づくVNCa関連画像を利用している.今回扱う Water-Calcium画像および Water-HAP画像は,いずれも水成分を一方の基準物質とし,もう一方に骨ミネラル成分を置いた物質密度画像である.Water-Calcium画像では水とカルシウム,Water-HAP画像では水と hydroxyapatite (HAP) を基準物質として扱う.カルシウムとHAPはいずれも骨の主要な無機成分であるが,基準物質が異なるため,同じ骨病変であっても画像上の描出に差が生じる.
Water-Calcium画像とWater-HAP画像の臨床的な捉え方
Water-Calcium画像とWater-HAP画像は,いずれも骨髄内の水分変化を評価するための画像であるが,解釈は同一ではない.Water-Calcium画像は,骨形成性変化を伴う病変で定量値の変化が比較的反映されやすく,骨硬化性変化を含む病変の評価に有用となる場合がある.一方,Water-HAP画像は,背景の骨梁構造を抑制することで骨髄内変化の描出に優れる場合があり,溶骨性病変や,従来CTでは等吸収に近く目立ちにくい骨髄病変の検出に寄与する可能性がある.
したがって,両者は優劣の関係として捉えるよりも,基準物質の違いに基づく相補的な画像として理解するのが適切である.骨転移に対するDECTの先行報告では,Water-HAP画像を追加することで,従来CT単独よりも骨転移検出能が向上することが示されている.また,従来CTにVNCa画像を追加することで感度およびAUCが改善し,骨転移検出における有用性が示された報告もある.溶骨性病変は Water‑HAP で検出しやすく,Water‑Calcium ではコントラストがやや不十分となる.一方,造骨性病変は Water‑Calcium で検出しやすく,Water‑HAP では正常骨とともに減算されやすいため目立ちにくい.骨梁間型転移では,溶骨優位の部分は Water‑HAP で,造骨優位の部分は Water‑Calcium でそれぞれ描出されやすく,両画像を併読することで検出能の向上が期待される(表1).
このように,骨転移評価におけるDECTの意義は,従来CTの形態評価に対して,物質密度画像を通じて骨髄内成分変化の情報を補完できる点にある.MRIを代替するものではないが,従来CTで判断に迷う症例や,骨髄内進展の把握が重要な症例において,Water-Calcium画像およびWater-HAP画像は,読影を支援する有用な追加情報となる.
表1 骨転移の各病型別におけるWater-CalciumとWater-HAPの検出傾向
DECTを用いた骨病変評価のpitfall
一方で,DECTの解釈にあたっては注意すべき点もある.Water-Calcium画像およびWater-HAP画像が示しているのは,病理そのものではなく,物質分解モデルを介して表現された骨ミネラルと水成分のバランス変化である.そのため,所見の解釈は従来CTや他モダリティ所見と統合して行う必要がある.
また,病変の部位や周囲構造によっては,VNCa画像でもコントラストが十分に得られない場合がある.とくに椎体前縁など,周囲組織との境界が不明瞭となりやすい部位では,Water-HAP画像でも病変が目立ちにくいことがある.さらに,圧迫骨折と病的骨折の鑑別においては,VNCa画像で病変の存在を把握しやすくなる一方,最終的な形態診断には従来CTの評価が重要である.したがって,DECTは従来CTを置き換えるものではなく,形態評価を補完する技術として位置づけるべきである.
臨床例
(1) 従来CTで指摘しにくい腫瘍性病変の検出
症例1 尿管癌右大腿骨転移(放射線照射前後)
70歳台女性.右尿管癌術後,化学療法中.右大腿骨転子部に淡く造影される溶骨性病変が出現し,骨転移と診断された.従来CTでも注意深く観察すれば同定可能ではあるが,骨皮質のアーチファクトや正常骨髄とのコントラストが弱いことから,多忙な読影業務の中では見逃されやすい病変と考えられた.Water-Calcium画像でも病変の指摘は可能であるが,Water-HAP画像ではより明瞭に描出されていた .放射線照射後のCTでは病変部に骨硬化像が出現し,Water-HAP画像での描出は目立たなくなった一方,Water-Calcium画像では明瞭化しており,治療による修飾と考えられた .Water-HAP画像による病変検出が早期治療につながった症例である.
図1 尿管癌右大腿骨転移
従来のCT(A)で注意深く観察すると,右大腿骨転子部に淡く造影される腫瘤が同定される.
骨条件(B)では病変部の骨皮質がごくわずかに菲薄化しているが,病変の指摘は極めて困難である.
Water-calcium画像(C)では密度値上昇が見られるもののごく軽微な変化である.
Water-HAP画像(D)では病変が明瞭に描出されており,病変の検出が容易である.
図2 尿管癌右大腿骨転移(放射線照射後)
従来CTで,右大腿骨転子部の病変部に骨硬化性変化が出現しており治療による修飾と考えられる(A, B).
VNCa画像では,治療前と比較してWater-calcium画像(C)で病変の描出が明瞭化している一方,
Water-HAP画像(D)では病変が不明瞭化している.
症例2 前立腺癌Th10,Th12転移およびL3圧迫骨折
80歳台男性.前立腺癌の未治療経過観察中.腰痛を主訴に近医を受診し,MRIでL3圧迫骨折およびTh10,Th12の転移性腫瘍と診断された.従来CTではL3圧迫骨折が認められるが,転移性腫瘍の所見は指摘困難であった.Water-HAP画像とWater-Calcium画像では,いずれにおいてもMRIの異常信号域に一致する病変が明瞭に描出された.VNCa画像を作成することにより,従来CTで指摘困難なわずかな骨髄変化も検出できる可能性がある.MRI撮像が躊躇される患者における骨転移評価に有用であることが示唆される.
図3 前立腺癌Th10,Th12転移およびL3圧迫骨折
MRI T1強調像(A)でTh10,Th12椎体の転移性腫瘍およびL3圧迫骨折と診断された.
従来CT骨条件(B)ではL3椎体の骨折線を指摘可能だが,Th10,Th12椎体に異常所見を指摘できない.
Water-calcium画像(C)とWater-HAP画像(D) では, T1強調像での異常低信号域に一致して密度値上昇を認め,
骨髄内の微細な変化が捉えられている.
(2) 圧迫骨折・病的骨折の検出
症例3 L4圧迫骨折
70歳台男性.上行結腸癌術後.腰痛による体動困難を主訴に受診した.従来CTでL4椎体に骨折線を認め,腫瘤形成がないことから圧迫骨折と診断した.VNCa画像では,いずれの画像においても骨折椎体が明瞭に描出され,Water-HAP画像では椎体前面の軟部組織にも浮腫を反映した変化を認めた.脊椎領域の読影に不慣れであっても,VNCa画像により病変の検出は容易となりうる.一方で,病的骨折か圧迫骨折かの鑑別には,従来CTによる形態的診断が重要である.
図4 L4圧迫骨折
L4椎体の魚椎様変形があり,MRI T2強調像(A)で不均一な高信号,T1強調像(B)でびまん性の低信号を認める.
従来CT(C)骨条件ではL4椎体に骨折線を認める.腫瘤形成はなく圧迫骨折と診断した.
Water-calcium画像(D)とWater-HAP画像(E) でも骨髄内の浮腫が明瞭に描出され病変の検出が容易である一方,
腫瘍との鑑別には従来CTでの形態的評価が重要である.
症例4 S状結腸癌骨転移
70歳台男性.S状結腸癌術後,化学療法中に腰痛が出現した.従来CTでL1椎体前部からL2椎体左側にかけて溶骨性腫瘤を認め,椎体周囲に骨外腫瘤を形成していた (一部非提示) .L2椎体の圧壊と骨折線を伴い,病的骨折と考えられた.溶骨性病変はWater-HAP画像で明瞭に描出され,詳細に観察するとL3椎体隅角にも小病変が認められた.このような主病変近傍の小病変は見落とされやすいが,従来CTとVNCa画像を併読することで診断精度の向上が期待される.ただしpitfallとして,本症例のL3病変のように,椎体前縁に存在する溶骨性病変では,Water-HAP画像でも周囲の骨格筋や血管とのコントラストが不良となりうるため,注意深い読影が必要である.
図5 S状結腸癌骨転移
L1椎体前方からL2椎体左後方およびその周囲に,MRI STIR像(A)で不均一な高信号,T1強調像(B)で低信号を示す腫瘤を認める.
従来CT骨条件(C)で溶骨性腫瘤を呈しており,L2椎体の病的骨折を伴っている.
さらに詳細に観察するとL3椎体前上縁にも溶骨性病変を認める(矢印),
MRIでは指摘可能だが,特に従来CTやWater-calcium画像(D)では見逃されやすい病変と考えられる.
Water-HAP画像(E)でも正常骨髄と比較して明瞭な密度値上昇を認め病変を指摘し得るが,
周囲軟部組織の浮腫によるコントラスト低下のため検出しづらくなっている.
まとめ
DECTは,従来CTの形態評価に物質情報を付加することで,骨転移をはじめとする骨病変を従来とは異なる角度から評価することを可能にする.Water-Calcium画像とWater-HAP画像は,それぞれ異なる特性を有しており,病変の性状に応じて相補的に活用することで,従来CT単独では把握しにくい骨髄内変化の検出に役立つと考えられる.
一方で,これらの画像は病理を直接示すものではなく,あくまで物質分解モデルに基づく表現であるため,従来CTや他モダリティ所見,臨床情報と統合して解釈することが不可欠である.DECTの有用性を最大限に生かすためには,その利点だけでなく限界やpitfallも理解したうえで運用することが重要である.