当院の紹介
市立稚内病院は昭和34年(1959年)に日本最北端の地、稚内市に開院致しました。現在当院の一日平均外来患者数は約800人、病床数は332床、診療科目は21科を標榜し救急告示指定病院、災害拠点病院、へき地医療拠点病院、地域周産期母子医療センター他、多くの各種指定病院であり日本最北の医療圏「宗谷二次医療圏」をカバーする地域中核病院として機能しています。
この医療圏域の人口が約6万人に対して面積は北海道総面積の約5.5%を占め、ほぼ京都府の面積に匹敵する広範囲な医療圏域です。最寄りの三次救急医療機関までは約180㎞あり陸路での救急搬送では約3時間かかります。人口10万人あたり医師数は約140人で全国平均の274人から見ても慢性的な医師不足が著明な医療圏域となっており、その特殊な医療環境の中24時間365日フル稼働しております。
Fig1.市立稚内病院様 外観
はじめに
2022年3月にOptima CT660からRevolution Frontierに更新し、Dual Energy (以下DE)の撮影が可能となりました。導入当初はDEへの知識が乏しくどのようなことが出来るのだろうと思っていましたが、臨床上まず胸腰椎圧迫骨折での撮影に対して取り入れてみました。
その理由として、対象の患者様が多いことと撮影・解析の簡便性があげられます。
撮影時にDEのプロトコルを選択するだけでSingle Energy(以下SE)とほぼ同様に撮影ができ、解析もGEヘルスケア社ワークステーションAdvantage Workstation(以下AW)でレイアウトを設定しておくと開くだけでカラーマップが確認できます。
本稿では、胸腰椎圧迫骨折におけるDE撮影の導入の取り組みと効果を紹介します。
Fig2.Revolution Frontier
Fig3. DECT導入当初担当された高橋技師(左)と筆者(右)
臨床医への説明と運用の構築
DEを運用に載せるためには医師の同意が必須です。まず、私たちは整形外科医に、DEでは胸腰椎の新鮮な圧迫骨折に対してMRIのSTIRに近い画像が撮影出来ることを口頭で説明しました。次に、製品特長書のDEの画像を見ていただくことで、カラーマップ画像においてどのように新鮮な圧迫骨折が描出されるかを理解頂きました。
そこで腰椎圧迫骨折疑いの際には、 CTの撮影オーダーに「Dual Energy撮影も」と入力するという運用を決め、臨床医の依頼のもとDEの撮影が出来るような仕組みを構築することができました。
運用開始当初はDECT、MRIの両方を撮影された患者様の画像を比較しながら相関性があることを確認
し、DEの有用性を認識して頂きました。
WW/WLの設定について
当院では胸腰椎圧迫骨折のDE画像として、70keVとWater(Calcium)(以下Wa(Ca))画像を作成しています。当初、 Wa(Ca)画像のWW/WLの表示条件については見た目の印象で決めていましたが、『GE HealthCareユーザーによるVNCa解析概要書』に記載されているWW/WLに変更すると、 Wa(Ca)画像のコントラストがつき観察しやすくなったので現在ではこちらの条件を採用しております(Fig4)。ただし、患者の年齢や症例によっては従来通りWWを広げた方が観察しやすい場合もあり適宜調整していく必要があります。
AWではレイアウトを設定していますので、開くと指定のカラー、WW/WLのWa(Ca)画像で立ち上がります。立ち上げて範囲だけを決め、保存を行っています。
Fig4. 従来のWW/WL(左)と概要書のWW/WL(右)の比較
Wa(Ca)画像についての医師の評価
実際に運用を開始すると整形外科医からは、今までMRIで判断していた胸腰椎圧迫骨折の新鮮骨折か否かの鑑別や、レントゲンやSEでは判断が難しい不顕性骨折の評価がDEで短時間に撮影ができ、患者さんの負担も少なく判断できるととても高評価をいただきました。
また、Wa(Ca)の画像についても、臨床所見やSTIRとの比較画像(Fig5)から骨折部位の一致が見られるため信頼性が高いとの評価でした。
Fig5. Wa(Ca)とMRIの比較画像
Dual Energy CTによりMRIを省略できる
高齢者の転倒などにより胸腰椎の圧迫骨折が疑われた場合は、まず最初に胸腰椎のレントゲン撮影をします。このレントゲンで骨折が疑われた場合や画像上変化はないが痛みが強い場合、CTを撮影しています。
現在は特にコメントがなくてもほぼルーチンでDEで撮影をしています。新鮮骨折の場合はWa(Ca)画像で骨髄内浮腫による水の高密度画像として描出されますが、陳旧性だと水の密度変化がないため画像の変化がありません(Fig6)。DEのカラーマップで明らかにコントラストがわかるものに関しては、医師の判断でMRIを省略できています。
高齢の方やせん妄がある方のようなMRI検査に耐えられない患者さんにとっては、DEで診断が可能になるためとても有用な検査だと実感しています。
総括
Revolution Frontierの稼働に伴いDEを撮影することで従来の画像に加えて出来るようになったWa(Ca)画像を活用し、今まで通常のCTだけでは新旧の判断が困難だった胸腰椎圧迫骨折の診断や不顕性骨折についての評価ができるようになりました。
特に高齢の方や痛みで長時間同じ体制が難しい患者さんにとって、DEで圧迫骨折の診断が出来MRI検査を省けることは患者さんに対してもメリットのある検査だと思います。
また病院側のメリットとしてもMRIが省けることで救急外来から入院までの検査時間が短くなり、一人の患者さんに対する救急外来での対応時間が短縮できるということが挙げられます。
今後も、装置の性能を活かして患者様や病院側双方のメリットになるような検査を進めていきたいと思います。