はじめに
当院は越後山脈を望む魚沼盆地に新潟県の魚沼地域の医療再編に伴い2015年6月に南魚沼市に新規開院した、まだ歴史の浅い病院である。
新潟県は7つの医療圏に分割されており当院が位置する魚沼医療圏(3市2町で構成)は面積が約2600km2と最も広いが、人口は約15万人と2番目に少ない医療圏となっており、この広大な医療圏に初の三次救急医療機関として開院した。開院以前は隣の中越医療圏まで重症救急患者を搬送していたが、現在では年間ドクターヘリ55機、救急車3024台(2023年度実績)を受け入れ、地域の救急医療はもちろん高度専門医療、急性期医療の拠点を担っている。
CT装置は開院以来、他社製の64列CT(同機種)2台にて運用していたが、2023年12月にそのうち1台をRevolution Apex Eliteに計画更新した。更新前は、64列CTでの運用であったため、使用し改めてハイエンド装置の性能がもたらすインパクトの強さを日々感じている。GE HealthCare社製のCT使用を含めすべてが初体験という稚拙な使用経験ではあるが、これを踏まえRevolution Apex Elite(以下、Elite)の性能の一端を紹介する。
病院周囲の外観
放射線技術科 CTメンバー
性能① 160mmワイドボリュームスキャン
まず紹介したいのが256列検出器による160mmワイドボリュームスキャンが可能となったことである。
これに回転速度0.23sec/rotとSnapShot Freeze 2.0を組み合わせた心臓領域の画像は、言うまでもなくEliteを使用して最初に驚いたことである。
すでに心臓領域のアドバンテージは様々なケースで既出であり詳細については割愛するが、やはり使用して衝撃を受けた領域であるため、ここでは当院での被ばく線量の変化にとどめ紹介する。冠動脈検査のCTDIvolは従来装置38.2mGyに対し10.4mGyと約70%の線量低減を実現しており、心臓弁評価目的での1beat撮影におけるCTDIvolは35.3mGyと、従来装置の冠動脈検査の線量でバンディングのない心臓全体の検査が可能となっている。(CTDIvolはいずれも被検者体重50~70kgの平均値)
言い換えると、Eliteは、従来装置の被ばく線量で得られる情報が格段に多くなることを示唆しており、心臓検査で提供する画像情報を考え直す必要があると感じている。
さて、ワイドボリュームスキャンと言えばどうしても心臓領域に注目が集まるが、使用経験上その恩恵を同程度受けている領域に小児検査がある。特に頭部撮影では撮影の速さとともに画像の質が良いことに驚かされている。小児撮影時は特に体動が無いように、専用固定具を用いて患者さんを固定するがそれでも状態によっては体動を抑制しきれないことがある。このような場合、スキャン速度を速くし撮影するがピッチファクタの増加や、装置によっては回転速度の高速化によるView数の低下により画質の劣化を招いてしまう。(Elite含めGE HealthCare社製のCT装置では回転速度によらずView数は一定である)
図1 2歳男児(撮影条件:ビーム幅160mmボリュームスキャン、120kVp、0.28sec/rot、NI3.0@5mm Stnd ODM、CTDIvol 27.64mGy)
性能① 160mmワイドボリュームスキャン
当院の従来装置における頭部撮影はヘリカルスキャンにて撮影しており、通常撮影条件はビーム幅20mm、ピッチファクタ0.531、回転速度0.7sec/rotであり16cmの範囲を撮影する場合12秒かかってしまう。一方、Eliteのヘリカルスキャンでの最速撮影条件(Scan FOVをHeadとした場合)であるビーム幅40mm、ピッチファクタ0.984、回転速度0.28sec/rotにて撮影した場合は1.3秒にて撮影可能であるが、ビーム幅とピッチファクタの増加に伴うアーチファクトが目立ってしまう。一方、ワイドボリュームスキャンにて撮影すると撮影時間は回転速度と等しくなり、最速0.28秒で撮影が完了するため体動抑制が困難な場合には非常に有用な撮影方法である。
ここで上記ワイドボリュームスキャンの最速条件にて撮影し再構成した画像を下に示す(図1)。症例は2歳男児、痙攣精査目的であり薬物鎮静無しでの検査であった。ベルトなどを用い体動抑制を行っていたが、体動の無い一瞬を狙って撮影する必要があった。見ての通り、最速条件であっても診断を妨げるアーチファクトも無く皮髄コントラストも明瞭に観察できるため、体動の可能性がある場合には積極的にワイドボリュームスキャンを使用している。これは焦点指向型3Dコリメータ、MMAR(Multi Material Artifact Reduction)、VHD(Volume High Definition Recon)などハードウェアとソフトウエア双方の優れた技術により成せる画質であると考える。
性能② Deep Learning 3Dカメラ
最後にDeep Learning 3Dカメラ(以下DLカメラ)を活用したワークフローについて紹介する。天井に設置されたDLカメラとガントリーに設置されたタッチパネルを併用したワークフローはEffortless Workflowと呼称されており、こちらもその有用性は既出であるが実際に使用してみるとその操作性の良さに驚愕する。
機能の詳細については説明を省くが、ガントリーに設置されたタッチパネルにてRISからのMWM、スキャンプロトコルの選択が可能であり、選択後はDLカメラからのリアルタイムの映像を確認しながら位置決め撮影の範囲を決定できる。範囲の決定後は1回タッチするだけで寝台が自動的に開始位置まで移動するのはもちろん、患者さんの体厚などを計算し高さを合わせてくれる。当然、時間短縮は可能であるのだが私は別の面でこの機能が優れていると思っている。
それは前述のタッチのあと、患者さんの目を見ながら撮影の説明ができることである。従来はどうしてもガントリーの操作スイッチを押しながら説明のほとんどを行うことが多かったため、患者さんの表情を伺う機会が少なかった。しかし、Eliteでは患者さんの目や表情を見ながら会話する感覚で話せるため、より患者さんに寄り添った説明が行えるようになった。またこのように丁寧に説明を行っても、操作室に戻るタイミングでちょうどX線照射スイッチが押せるようになるので時間のロスが無い。
従来では絶対に存在しなかったこの状況は、短い検査時間のなかで少しでも患者さんに寄り添うことが可能な時間であると感じている。完全に私見となるが、これはDLカメラを用いることによる隠れた利点である。
総括
Eliteを使用して約6か月間ではあるが、使用経験を踏まえて性能の一端を紹介した。まだ紹介できていない機能や性能はたくさんあるが、それだけ多機能かつ高性能な装置である。これらを使いこなすことは容易ではないが、Eliteを使い始めて感じたことはGEヘルスケアCTのユーザー会が充実しており、ヘビーユーザーの方をはじめ多くの方々から有益な情報を得ることができる。また困ったことも丁寧に教えていただけるため、使用開始当初に抱いていた不安は払拭できている。
今後はより一層知識の習得に努め、同じ志を持つ方々と共に患者さんのために最高の画像を届けられるよう尽力していきたい。