病院紹介
当院は山形市北部に位置し,県全域を診療圏とする高度で良質かつ適正な患者中心の医療提供を使命とする病院である.また,がんや生活習慣病の治療・予防対策の中核機関としての役割を担う「県立がん・生活習慣病センター」,および高度救急医療を提供する「県立救命救急センター」を併設し,総合医療センターとしての機能を有している.救急医療体制としては,ドクターヘリの配備に加え,自動車専用道に救急車専用ゲートを整備し,陸路・空路の両面から迅速な救急搬送が可能な三次救急指定病院である.画像診断部門においては,年間30,000件のCT検査を3台のCT装置で運用しており,救命救急センターと同様に24時間体制で稼働している.
はじめに
2022年にJCSガイドラインフォーカスアップデート版が公開され,心臓CT検査の需要が一層増加していることは周知の事実である.当院においても,心臓CT検査枠の拡充が強く求められていた.しかし,医師による前処置や静脈路確保に関する課題に加え,CT装置の性能に起因する技術的な問題もあり,従来の体制では適切な対応が困難であった.
そこで,要望を実現するために以下3つのKAIZEN策を考案した.これらを実現するためには,他社製面検出器搭載CTからRevolution Apex Elite への更新は必須であった.
1. 高時間分解能によるβブロッカー静脈投与の廃止
Revolution Apex Elite の 19.5ms という高い実効時間分解能により,高心拍症例や不整脈症例においても安定した画像取得が可能となった.そこで,静脈投与から薬効発現まで時間を要していたβブロッカーの静脈投与を原則廃止とし,それに合わせた心臓CT検査フローを再構築した.
2. 静脈路確保運用の効率化
従来,心臓CT検査において医師が担当していた静脈路確保を看護師が実施する運用を構築し,院内コンセンサスを得た.これにより,検査フローの効率化を目指した.
3. 高度な画像解析環境の構築
従来,高心拍症例や不整脈症例の画像解析には多くの時間とマンパワーを要していた.Revolution Apex Elite と新しい Workstation を組み合わせることで,解析業務の負担を軽減し,心臓CT検査枠の拡充を目指した.
上記KAIZEN策の効果は次頁以降に記載している.
問題点を解決する3つのKAIZEN策
心臓CT検査における新旧装置比較
当院が考えるRevolution Apex Eliteの心臓CT撮像領域における3つの特長
Revolution Apex Eliteは,あらゆる部位の検査で有用な装置ではあるが,特に心臓CT撮像領域では以下3つの大きな特長があると考える.
① 1 Volume 撮像 & 高速回転時間 0.23秒
世界最速の回転時間 0.23 秒と,動き補正アルゴリズム SSF2.0 により,βブロッカーを使用せずに高心拍症例への対応が可能.
② 自動最適撮像プロトコル選択
技師のスキルに依存せず,一貫した最適撮像プロトコルの選択が可能.オペレーションの標準化を実現.
③ 照射前・照射中の不整脈回避機構
不整脈症例においても,照射前および照射中の心電図同期を最適化し,より良い撮像を実現.
For Patients:患者負担の低減
~心拍コントロールなし・造影剤量20%低減&被ばく線量75%低減~
Revolution Apex Eliteは,世界最速となる0.23秒の回転速度による撮像が可能であり,さらにMotion Correction機能を備えたSnapShot Freeze 2.0の導入に伴い,βブロッカーを使用しない運用を実現できた.また,AI再構成アルゴリズムであるTrueFidelity DLの適用により,低管電圧撮像時の画像ノイズの影響が抑制され,100kVの積極的な運用が可能となった.その結果,造影剤の使用量を約20%低減しつつ,被ばく線量を約75%低減することができた.これにより,患者の検査時における負担軽減に大きく寄与できたと考えられる.
造影剤量およびDLPにおける新旧装置比較
For Staff①:安定した画質の提供と心位相検索作業の負担削減
管電圧100kVを採用することで,造影剤の使用量を従来比約20%低減しつつも,冠動脈のCT値を345HU以上に維持することが可能となった.また,従来運用と比較してCT値のばらつきが抑制されており,より安定した画質が得られている .
撮像後はSmart Phase機能により最適な心位相が自動選択され,その後SnapShot Freeze 2.0が適用された画像が自動生成される.これにより,最適な心位相を検索する時間が大幅に短縮された.さらに,画像の診断精度についても検証を行った結果,医師の評価において「全ての画像において読影に問題はない」との判断が得られた.
冠動脈CT値における新旧装置比較
位相検索・画像評価における新旧装置比較
Clinical Image①
Revolution Apex Eliteを用いた新たな心臓CT検査により,不整脈を伴う高心拍症例や呼吸制御が困難な症例においても,診断に十分な画像を安定して提供できている.また,SnapShot Freeze 2.0は冠動脈のみならず心臓全体に対してMotion Correction機能が有効に働くため,弁膜症の評価にも大きな影響を与えている.この技術の導入により,心臓血管外科医からも高い評価を得ている.
71y Female BMI30 134BPM 頻脈性心房細動
46y Female 呼吸制御不能 112 BPM 狭心症疑い
45y Female 肺動脈弁狭窄症 & 卵円孔開存
For Staff②:タスクシフトによる医師業務負担軽減&検査時間50%短縮
医師が担当していた静脈路確保および血管拡張薬の投与を看護師が実施するタスクシフトを実現し,医師拘束時間を解消することができた.さらに,βブロッカー静脈投与の廃止やワークフローのKAIZENにより,検査所要時間が50%短縮され,時間外勤務の削減にも貢献できたと言える.
医師拘束時間および検査所要時間における新旧装置比較
For Hospital:心臓CT検査件数の増加やFFR-CT検査の導入による増収
心臓CT検査件数の増加やFFR(冠血流予備量比)-CT検査の導入により,当院においては大幅な増収が見込まれる.
✓ 冠動脈CT件数倍増による約920,000点/年の増収
【内訳】CT撮像手技料:1,000点 造影剤使用加算:500点
冠動脈CT撮像加算:600点 画像診断管理加算3:235点
合計:2,335点/件 394件/年(検査枠拡充分)
✓ FFR-CT検査による約252,000点/年の増収
【内訳】72件/年
当院がFFR-CTの運用を開始した理由の一つとして,SnapShot Freezeがハートフロー社の“FFR‐CT”に適応する唯一のMotion Correction Algorithmである点が挙げられる.
また,新たに構築したTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)用CTプロトコルにより,高精度な冠動脈画像の提供が可能となった.これにより,従来必要とされていた術前の心臓カテーテル検査を省略でき,患者の負担軽減と業務の効率化を実現している.実臨床においても,その有用性が認められ,医師から高く評価されている.
緊急・臨時心臓CT検査にも対応可能 心臓CT検査の新たなステージへ
このたび,心臓CT検査枠を2倍に拡充したが,これまで述べたKAIZENの効果により,実際の検査件数は2.5倍に増加した.これは,検査のスループットが大幅に向上し,緊急・臨時心臓CT検査にも対応できるようになったことが,主な要因と考えられる.
多方面において大きな恩恵をもたらしたRevolution Apex Elite で実現する心臓CT検査は,更なる可能性を秘めている.当院では形態評価はルーチン化できているが,機能評価はまだ確立に至っていない.現在は,循環器内科医とのコミュニケーションを通じて遅延造影やECV解析などの有用性を理解してもらい,機能評価のルーチン化を目指している段階である. さらにECG-Less心臓CT検査やECG-Lessトリプルルールアウトの運用構築にも取り組んでいる.これまでの症例数は限られるものの,救急医療における有用性を強く実感しており,今後さらなる臨床応用の拡大が期待される.心臓CT検査は,次なるステージへと進化を遂げつつある.
Clinical Image②
Revolution Apex Eliteを用いた新たな心臓CT検査は,救急領域においても極めて大きなインパクトをもたらしている.救急診療においては,診断や治療開始の遅れが患者の予後に直結するため,迅速かつ正確な画像評価が求められる.特に,冠動脈の評価や大動脈基部・上行大動脈の描出,さらにはトリプルルールアウト(冠動脈疾患・大動脈疾患・肺動脈疾患)を診断目的とした撮像では,心拍動によるモーションアーチファクトが画像評価の妨げとなることがある.従来,心電図同期撮像を行うことで画像のブレを抑えることは可能であったが,そのためには電極の装着や心電図取得の手間が伴い,検査時間の延長が課題となっていた.ECG-Less運用では電極装着が不要となるため,検査準備時間を短縮でき,迅速な診断が求められる救急領域において極めて有用である.
68y Male ECG-Less Cardiac 胸痛
78y Male ECG-Less Triple Rule Out 胸背部痛
Revolution Apex Eliteを用いた心臓CT検査運用は「患者よし ・ 職員よし・ 病院よし」の三方よし
新しく構築した心臓CT検査運用により,従来の課題であった医師による前処置や静脈路確保の問題,さらにはCT装置の性能に起因する技術的な制約を克服することができた.これにより,検査の迅速化と画像精度の向上が実現し,患者にとっては造影剤量や被ばくの低減といった負担軽減につながった.また,業務の効率化により職員の負担も減少し,より質の高い医療提供が可能となった.さらに,検査の円滑な運用は病院の収益性向上にも寄与することができた.よって,Revolution Apex Eliteを用いた心臓CT検査運用は,当院において「患者よし ・ 職員よし・ 病院よし」の三方よしを実現する大きな恩恵をもたらした.
最後になるが,本運用の構築にあたり,Revolution Apex Eliteの導入は不可欠であった.その先進的な装置性能と高度な技術は,当院の診断精度の向上に大きく貢献している.GEヘルスケア社には,より高精度な画像診断の実現に向けた技術革新に期待するとともに,今後も一層の連携を図り,共に発展していければと考える.
「患者よし ・ 職員よし・ 病院よし」の三方よし
山形県立中央病院 放射線部 CT部門を支える2名の診療放射線技師