Revolution CT 導入経緯
当院は診療科:26科 病床数:287床 横浜市西部地域を中心に診療を行っている急性期総合病院である。これまでGE HealthCare社 LightSpeed VCT(64列)とBrightSpeed(16列)の計2台体制で業務を行ってきた。
昨今の心臓CT需要の伸びは目覚ましく、2018年には優に年間400例を超える冠動脈CTを行うまでに至った。しかし64列CTで適切な画像作成のためには①厳密な心拍コントロール(HR<60)、②最適心位相の選択(心臓静止相)③煩雑な画像再構成の3つが必須であり、これが更なる心臓CT需要の高まりに対し大きな障壁になっていた。
そこでCT機器更新の際、我々が最も重要な条件と考えたのが「救急外来で使える冠動脈CT」と「地域での共同利用」を見据えた汎用性の高いスペックである。各社ハイエンドモデルを対象に比較検討した結果GEHC社 Revolution CTを導入するに至った。決め手は256列ワイドカバレッジやガントリー回転速度0.28msec/rotといった高い基本性能に加え、Smart Cardiacによる卓越した撮影補助機能、Snapshot Freeze2.0(以下SSF2)による画像補正機能によって実現した「誰でも簡単に冠動脈CTが撮影可能」になった点である。本稿ではRevolution CTにおける実臨床での有用性を報告する。
循環器内科 松田 督 先生
総合病院の循環器医師から見たRevolution CT導入の効果
2021年1月より256列Revolution CTが導入されたことによって、当院の救急外来における胸痛診療は一変した。 救急において速やかに「冠動脈疾患・大動脈解離・肺塞栓」の3大胸痛疾患を鑑別(Triple rule out)する必要がある。このTriple rule outに関して心臓CTが有用であると報告されているが、これまでの64列CTでは先述したように、心拍コントロール、最適心位相の選択、煩雑な画像再構成が大きな障壁となり実際の救急診療に生かすのは困難であった。しかしRevolution CTに更新後、心拍数80以上の頻脈、心房細動、期外収縮の症例であっても十分に臨床に耐えうる画像を即座に提供してくれている。そこで冠動脈CTおよび冠動脈カテーテル検査(CAG)の検査数年次推移(Fig.1)をみると、2017年には冠動脈CTがCAGの件数を超え、Revolution CTに更新した2021年以降はコロナ禍にも関わらず総件数450件前後にまで増加した。特筆すべきはRevolution CTに更新後、緊急冠動脈CT件数が飛躍的に増加し、2023年9月現在において既に総件数450件を超え、緊急冠動脈CTは全体の20%以上を占めるに至っている。
臨床例
症例 1 たこつぼ形心筋症
心拍数83 洞調律 認知症/不穏 (息止め不可能) 発熱/COVID19(デルタ株)疑い
本症例は高心拍、息止め困難であったが、ワイドカバレッジによる1心拍撮影、回転速度0.28s/rotの高時間分解能に加え、Smart cardiacとSSF2の恩恵で鮮明な画像を安全且つ迅速に救急現場に提供する事ができた。 Revolution CTの「類い稀なる汎用性」は有事にも強い事を目の当たりにした一例である。(Fig.2)
胸部症状を訴え路上で倒れている所を発見され救急搬送された。不穏で高度な認知症があり、体温38.5℃ SpO2=94%(RA)。心電図は胸部誘導で広範囲にT波が陰転化。採血データは心筋トロポニンI (11.060 ng/ml)とともにD-ダイマー( 2.8 μg/ml)も異常高値であった。通常であれば緊急カテーテル検査の適応であるが、不穏で安静が保てず酸素マスクが装着できない、かつ、デルタ株が猛威を振るっていた時期で、まだ迅速診断キットなど普及しておらずCOVID19の感染も不明のまま安全にカテーテル検査を行う事が躊躇される症例であった。幸いにも、血圧は安定しており胸部症状も消失していたため、冠動脈CTに白羽の矢がたった。撮影時、HR80台の頻拍、息止めは全く不可能であったが出来上がった画像は鮮明に冠動脈を描出。LADを含め冠動脈には一切有意狭窄は認めず、また肺塞栓・大動脈解離も否定する事が出来た。壁運動は心尖部が著明な壁運動低下を認め心基部は過収縮だった。典型的なたこつぼ型心筋症である。患者は陰圧管理可能なICU個室に入り経過観察のみで元気に独歩退院となった。
症例2 PVC頻回 Smart Arrythmia Management(SAM)でPVCをskip
造影剤注入後もPVC頻回であったがSAMによりPVCを検知し最適位相を自動収集し撮影できた。心静止位相はSmart PhaseがR-R 55%を選択。 SSF2の効果で画像に全くartifactはなく正常冠動脈と診断しえた。(Fig.3)
PVC精査。負荷心電図は陽性の症例。
PVC頻回であるが洞調律でHR60前後のため βブロッカーは使用せずボーラストラッキング法で撮影。PVC頻回で撮影タイミングが遅れる事が予想されたため注入時間を16秒に延長(通常10~12秒)。
Smart Cardiacの技術
緊急冠動脈CTの敷居を下げ、どんな症例においても安定した画像を迅速に得ることを可能にしたRevolution CTの技術について解説する。
Auto Gating
心臓CT撮影時の被検者の心拍・心拍変動に対して、最も至的な撮影プロトコルを自動設定するアプリケーションである。世界中の心臓撮影時の心拍状態および実施された撮影プロトコルを収集、解析を行い(Fig.4)、あらゆる被検者の心拍状態に適応できる撮影プロトコルがプリセットされている。
また、このプリセットは各施設で修正・追加することが可能である。
実検査では、本スキャン直近の息止め状態の心拍情報を記録、解析することで、装置は自動的に至適撮影プロトコルを設定。このプロコル選択過程において、これまでの習熟した知識・経験が少なくても高いクオリティを実現する撮影が可能で、かつワークフローを改善するアプリケーションである。
Fig 4. 心拍位相と至適心位相の関係
Smart Arrythmia Management
Smart Arrythmia Management(以下SAM)はX線照射中に不整脈を検知し、自動的に最適なデータ収集を行うアプリケーションである。RevolutionCTは、ワイドカバレッジで心臓全体を1volumeでカバーできるため、プロスペクティブゲーティングで画像を収集している。照射中に不整脈が発生すると予測された心拍と異なり、設定されたPhaseを収集できない可能性がある。SAMはX線照射中に不整脈が発生した場合、自動的にX線照射を中止し、次の安定した心拍で再度指定されたPhaseを収集する。( Fig.5 ) 従来の機構では、不整脈の発生を見越してあらかじめ複数心拍に対してX線を照射する保険的な運用が行われていたが、SAMを使用することにより無駄な被ばくが減り、あらゆる患者の状態に対して最大1心拍以内でのデータ収集を可能としている。
Smart Phase
Smart Phaseは,冠動脈が最も静止している至適心位相を自動的に検索するアプリケーションである。
指定した心位相範囲を2%間隔で画像再構成し、冠動脈にフォーカスした独自のモーション分析を行い、各冠動脈のモーションアーチファクトが最も少ない心位相を自動的に再構成するアルゴリズムとなっている。 (Fig .6) 全ての過程を高速自動処理するため、検索時間の問題やオペレーターの知識や経験での差異を解決、そして被検者の心拍状態に依存しない至適心位相の自動検索を可能とし、クオリティーの高い画像再構成を実現しながら、同時にワークフローを改善するアプリケーションである。
Fig6. Smart Phaseにおける至適位相自動検索機能
Snapshot Freeze2.0
GE独自のIntelligence Algorithmにより、冠動脈のモーションアーチファクトを抑制した画像を得ることができるソフトウェアである。ターゲット心位相の前後のデータを用いてボクセルの動体(動きの向き、量など)を3次元的にボクセル解析し、偏移量をフィードバックし、静止画像の生成を行う。(Fig.7) 心臓全体を構成するすべてのボクセルの動態ベクトルを解析することで、冠動脈だけでなく、大動脈弁、僧帽弁、心筋など心臓全体のモーションアーチファクト抑えた画像の取得が可能である。
Fig7. Snapshot Freeze2.0
総合病院が抱える地域医療の課題と病診連携
地域の先生にとって「胸痛」は一番神経を使う症例と考える。心電図・レントゲンが正常であったとしても「冠動脈疾患・大動脈解離・肺塞栓」が隠れている事は稀ならず経験する。しかし、非典型胸痛・冠動脈リスクの低い症例においては高次機能病院への紹介を躊躇される事があるのではないか。恐らく従来の胸痛診断ゴールデンスタンダードは侵襲的CAGが前提にあり非常に敷居が高いものであったと思われる。
「2022年 安定冠動脈疾患の診断と治療-フォーカスアップデート版-」において冠動脈CTは胸痛画像診断におけるFirst Lineとなり同検査の臨床的重要性は格段に増した。恐らく今後は胸痛診療において循環器の専門外問わず標準的な検査になるものと思われる。そのためには、冠動脈CT検査を地域の先生方にもよりアクセスしやすい敷居の低い検査として運用していく必要がある。しかし、検査の特殊性・煩雑性が大きなハードルで、先述のように心拍数コントロールや至適心位相の選択業務などはその最たるものである。
その点においてSmart CardiacやSSF2は大きな助けとなった。両者のテクノロジーにより患者の身体的な負担軽減だけでなく循環器内科医師・放射線科技師の業務負担も大幅に改善され冠動脈CTは「普通の造影CT」になったと考える。そして、検査の簡便性と安全性が大幅に担保された事で「患者さんに勧めやすい検査」となり地域の先生方にとって胸痛症例の紹介域値が下がると思われる。患者・地域の先生双方の「精神的・社会的安心感」に貢献できるテクノロジーと考える。この点もRevolution CTの「類い稀なる汎用性」の恩恵である。
2022年のガイドライン改訂の影響は大きく、冠動脈CTを目的とする御紹介が非常に増えている。地域の一般診療に携わる先生方においては更に手軽に冠動脈CTを活用して頂ける環境整備が重要と考え、今年から冠動脈CTの地域共同使用FAX予約を開始した(Fig.8)現在、循環器専門の先生方を中心に活用頂いており「自院から冠動脈CTがオーダー出来る事で、シームレスな胸痛診療が可能になった」とありがたい声を頂いている。また、最近は患者さん自身からも「冠動脈CTによる精査を希望」といった受診も多く、一般の方々の認知度も飛躍的に変わってきていると実感する。
さいごに
2023年当院の冠動脈CT件数は500件を優に超える事が予測される。しかしSmart Cardiac やSSF2の恩恵で医療スタッフのワークライフバランスを担保しながら業務拡大を実現できた事は非常に重要なことである。またRevolution CTが飛躍的な業務効率改善に貢献しただけでなく「今まで見えてなかった事が見えるようになった!」というワクワク感は労働の質を変え「忙しいけど楽しい」という領域に我々を導いてくれた。-夢中は最高の働き方改革である―
この場を借りてGEHC社に感謝申し上げたい。
Fig8. 病診連携案内のパンフレット