はじめに
岐阜ハートセンターは岐阜県下初の循環器専門病院として、2009年2月に開院しました。
この地域の急性期医療の要として、24時間体制で迅速かつ安全な検査・治療を行っております。心臓疾患のある患者様が多く来院されるため、造影CT検査においてはそのほとんどが心臓CT検査であり年間3000例近くの検査を行っております。
放射線科としては、医師の診断に適する画像を迅速に提供することを心掛けており、医師ともコミュニケーションをとりつつその要望に応えるために日々研鑽しております。
当院では、2024年5月よりGEヘルスケア・ジャパンのRevolution CTを導入しました。最速0.28秒の回転速度、160mmのワイドカバレージによるvolume scanが可能であり、さらにSmart Cardiac機能が搭載されているため、motion artifactが問題となる心臓CT検査において非常に有用な機械だと考えています。
包括的心臓CTとは
冠動脈CTの発展は目覚ましく、冠動脈疾患の診断に欠かせないツールとなっております。しかし、冠動脈治療の適応判定・予後判定には解剖学的な狭窄の程度よりむしろ生理学的虚血の方が重要であることが報告されております。生理学的虚血の診断はこれまで非観血的方法として心臓核医学、MRIで行われてきましたが、最近ではCTでも生理学的虚血が判別できると報告されてきております。当院に導入しているRevolution CTでは、造影剤を投与しながら連続で撮影するCT心筋Perfusion(以下CTP) が可能となり、ATP負荷を行うことで解剖学的な冠動脈の情報に追加して、生理学的虚血も判別できます。
さらに、心筋遅延造影を組み合わせることで、心筋症の評価までも行うことが可能となります。心臓核医学やMRIでの心筋血流イメージングを受けるために病院を再受診することに比べ、患者様にとっての時間的・身体的なメリットが大きく、一度の検査で適切な治療を開始できる検査法として期待されています。
包括的心臓CTで得られる情報の例
Dynamic CTPについて
Dynamic CTPとは、造影剤を急速静注しながら複数心拍を連続撮影して、心筋における造影剤のfirst passを観察することで心筋血流値を算出する検査法です。心筋血流を定量評価することが可能となり、また負荷像と安静像をそれぞれ撮影することで、予後評価に有用なPETのMFRに近しい値を算出することが出来ます。ただし、負荷を行うにはATPが必要となるので検査前のカフェイン制限が必須となりますし、ルートも造影剤用とATP用の2つが必要になります。
冠動脈の解剖情報とともに心筋虚血評価を行うことが可能である一方で、その実施には40分から1時間程度の時間を要し、通常の冠動脈CTに比べて造影剤量や被ばく線量・検査時間が増加してしまうといった問題もあります。またStress CTPの場合は、ATPを使用して高心拍となることでmotion artifactが出現し、冠動脈評価に影響することも懸念されます。
しかし、Revolution CTに搭載されたSnapShot Freeze2.0を用いることでmotion artifactを抑制し、冠動脈評価への影響を最小限に留められる可能性があり、Stress CTPを行う上では非常に有用な機能であると考えます。
遅延造影を利用した心筋評価について
心臓MRIでの心筋評価では、遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)が確立した手法として広く普及しており、T1マッピングによる心筋細胞外容積分画(extracellular volume fraction:ECV)の有用性が示されております。一方、CTにおいても、逐次近似画像再構成法・ディープラーニング画像再構成法・低管電圧撮影・dual energy CTといった技術の発展があり、CTでも遅延造影やECVによる心筋評価が可能であるとの報告があります。
・ヨード遅延造影(late iodine enhancement: LIE)
LIEは、造影遅延相における心電図同期撮影を行って心筋症を評価する手法です。Dual energy CTを用いることでコントラスト分解能を向上させて、MRIのLGEと同等の評価が可能であるとの報告があります。しかし、当院のRevolution CTではdual energyによる心電図同期撮影が行えないため、後述するSMILIEとECVで心筋症の評価を行っています。
・Subtraction Myocardial Image for LIE: SMILIE
造影遅延相の撮影画像から冠動脈相の画像をサブトラクションし、さらに非剛体位置合わせ処理を行うことでミスレジストレーションの少ない差分画像を得ることが可能となる手法です。従来のLIEに比べて、コントラスト分解能が格段に上昇するため、心筋の線維化がより評価し易くなります。
・ECV
LIEやSMILIEは定性評価であり、あくまで見た目の判断にはなりますが、左室内腔と心筋のCT値、 ヘマトクリット値を元に心筋のヨードを定量評価する手法がECVになります。算出法には、通常のsingle energy CTで実施可能な造影効果に基づいたサブトラクション法とdual energy CTでのヨード密度値に基づいたヨード法があります。ECVが40%以上の場合が異常値であると報告されています。
包括的心臓CTを実施した症例
当院における包括的心臓CTの撮影プロトコル
海外の学者の研究1) では、カテーテル室でワイヤーを使って計測する冠血流予備量比(FFR)とO-15 water PETを用いた心筋血流の研究を行い、負荷時の心筋血流量の方が診断能力が高いと報告しています。この報告を受け、ATP負荷時のみのCTPを行うことで検査時間を短縮しつつ、解剖学的な狭窄判定と生理学的情報を同時に得る撮影方法を考案しました。さらに、遅延造影を追加することで、心筋症の評価も同時に行うことが可能となります。
しかし、当院で包括的心臓CT検査が始まってからは、その検査難易度と、想定より負荷時心筋血流値が上昇しないことから、試行錯誤を繰り返しました。現行では、Test injection分の造影剤の影響を避けるため、Stress CTP後にCCTAを撮影するプロトコルになりました。被ばく線量については、DRL2020のCCTAの値以下であり、検査時間についても、ルート確保から撮影終了までの総検査時間は25分程度で終えることが可能となります。
ATTR型心アミロイドーシスの症例
今後の展望
現状では、検査時間の長さや被ばく線量の増加、検査の難易度や得られた値の解釈が難しいなどの問題があり、限られた施設でしか包括的心臓CT検査が行われていないのが現実です。
しかし、心不全パンデミックとも言われるこれからの時代において、心筋症の評価を行うことは非常に重要であり、患者様の負担が少ない包括的な心臓検査の需要は高いと考えます。
今後、撮影技術の進歩やエビデンスが蓄積していき、より低侵襲且つ短時間に検査を行うことが可能となり、包括的心臓CT検査が普及していくことを期待します。
文献
1) Esa Joutsiniemi, et al. Absolute flow or myocardial flow reserve for the detection of significant coronary artery disease? European Heart Journal - Cardiovascular Imaging, Volume 15, Issue 6, June 2014, Pages 659–665, https://doi.org/10.1093/ehjci/jet274