はじめに
当院は北海道西胆振地区の室蘭市に存在する創業54年の脳神経外科単科病院である。医療圏の約18万人をカバーし地域医療を支えている。ベッド数は137床、急性期病棟、医療圏内唯一のStroke Care Unit(SCU)、回復期病棟、障碍者病棟を有し急性期から在宅まで脳神経外科領域に特化した垂直型の医療を提供してきた。
手術件数は年間約300件、年間CT件数は約4700件、CT Angiography(以下CTA)の件数は550件施行している。脳神経外科専門医7名、放射線技師12名が常勤で在住し24時間365日体制での診療を行っている。
大川原脳神経外科病院 外観
SnapShot Freeze2.0導入の経緯
2021年から循環器内科外来が当院に開設された。脳卒中は冠動脈疾患の合併リスクも高く周術期のリスク評価を目的に冠動脈CTAの実施件数が増加した。
2020年には年間24件であった冠動脈CTAは2021年には163件と件数が大幅に増加し、ワークフローの改善が必要になってきた。
また2022年からは脳神経外科医師と循環器内科医師との間でブレインハートカンファレンスが開かれるようになり、脳卒中再発予防を目的とした心臓内血栓や心臓内構造物をより明確に描出する必要性がでてきた。
しかし、そのような症例では不整脈や脳疾患による意識障害により息止めができないなど冠動脈CTAを施行する上での悪条件が重なっていることが多く、従来法では評価困難であった。
そこで当院はモーションアーチファクト低減、構造的心疾患診断の精度・心位相選びにかかるワークフローの向上が期待できるSnapShot Freeze2.0(以下SSF2.0)の導入を決定した。
冠動脈CT検査数の増加
2021年に循環器内科が設立されたことで、冠動脈CTの検査数は年間約163件であったが、2023年のSSF2.0導入をきっかけに冠動脈CTの件数が著しく増加し、2024年には年間300件以上に増加し、従来の約2倍の検査を実施することが可能となった。この件数増加の背景には、診療体制の強化と技術革新が相まっていることが挙げらる。
Table1. 冠動脈CT検査数推移
冠動脈CT検査数増加の理由
上記の通り冠動脈CTの検査数が増加できた理由としてSSF2.0の導入が大きな要因であると感じている。具体的には、以下の2つの重要な改善が実現し、冠動脈CTの件数を増加させることができた。
・高心拍患者へのモーションアーチファクト低減
・心位相選びに係るワークフローの向上
高心拍患者へのモーションアーチファクト低減
SSF2.0は、Advantage Workstationで利用可能なGE HealthCareが提供する心臓CTの精度を向上させるために開発された動態補正技術である。
SSF1.0と比較して、冠動脈だけではなく心臓全体のモーションアーチファクトが抑制でき、SSF1.0では難しかった120bp以上の高心拍数でも安定した画像がえられる。また構造的心疾患の診断精度が高く治療支援にも有効といわれている。
SSF2.0ではターゲットの前後80msecの心位相データを用いて3次元的な動態解析を行い、拍動の影響を抑えて、モーションアーチファクトを低減させた画像を作成することが出来る。回転速度が0.35秒の場合、SSF2.0を使用すると実効時間分解能は0.029秒となる。そのため、高心拍症例・息止め不良例でも静止した冠動脈の画像が可能になった。
Fig1.高心拍症例
SSF2.0導入前の位相検索ワークフロー
従来法では、拡張中期70-80%、収縮末期40-50%を非分割式ハーフ再構成法と分割式ハーフ再構成法で各2%刻みで自動再構成されるように設定していた。再構成された画像を比較して、血管が綺麗に静止している位相を、さらに絶対値で細かく再構成して1番綺麗な位相を使用していた。
Fig2.従来の位相検索ワークフロー
SSF2.0導入後の位相検索ワークフロー
冠動脈CTAの画像作成時間は適切な心位相を見つけるまでの時間が大半を占めている。 SSF2.0導入後は心位相選びに掛かっていた時間をほぼ自動解析に置き換えることができるため、SSF2.0導入前に掛かっていた位相検索時間を他の業務に割り当てることができ、結果的に大きくワークフローの改善に繋げることができた。
また、SSF2.0を使用する事で技師の経験に左右されず適切な心位相を選択ができ、統一した画像が作成できるところも評価できる。
Fig3.現在の位相検索ワークフロー
SSF2.0導入前に施行された冠動脈CTAの5症例を対象として、当院の放射線技師12名で適切な心位相を見つけるまでの具体的な時間を計測した。
集計結果より、平均で44分/5件、最大で86分/5件の時間が心位相検索にかかっていることが分かった。
SSF2.0を導入することで、これらの時間を次の検査の準備や他の検査のサポートに使うことができ、時間の効率化が図れ、1日の最大撮影件数を増やすことができ、冠動脈CT検査件数の増加につながったと考える。
Table2. SSF2.0導入前の位相検索時間
当院循環器内科医師からのコメント
SSF2.0は、循環器領域での先進的な画像診断技術として、弁膜症や大動脈アテローム、ステント内の評価において優れた性能を発揮している。微細な構造を可視化する能力に優れ、臨床現場での診断を支援するツールとして高く評価している。
【弁膜症の評価】
高解像度で弁の構造や動きが捉えられ、弁尖の薄化や石灰化の評価、重症度の分類、手術の適応判断に役立っている。
【大動脈アテロームの検出】
大動脈壁におけるプラークの特性を詳細に描写し、脳塞栓症のリスク評価や術前計画に役立っている。
【PFOの検出】
当院の対象患者はほとんどが脳卒中の既往歴がある。特に問題となるのが脳梗塞の原因となる心房細動症例の左心耳内血栓やPatent Foramen Ovale (PFO)などの心臓内構造物である。
【ステント内腔の評価】
ステントの再狭窄や血栓形成を評価する際に、モーションアーチファクトを抑えるアルゴリズムによって、ステント周囲の組織特性や内腔狭窄率を分析することが可能である。
SSF2.0は、循環器内科医が求める「診断精度」「臨床応用力」「効率性」をバランスよく実現するソフトウェアである。今後は、AIを活用した自動病変分類機能の追加にも期待をしている。
Fig4.SSF2.0症例
SSF2.0×IBRによるアーチファクト低減
SSF2.0を使用することでモーションアーチファクトを低減することはできるが、64列CTを使用している以上、バンディングアーチファクトの問題がある。
バンディングアーチファクトを低減させる機能としてIntelligent Boundary Registration(以下IBR)があり、本機能を用いることでデータ間の境界をぼかすことなく補正することができる。このIBRとSSF2.0を用いることでモーション及びバンディングアーチファクトが低減された冠動脈CT画像を提供することができる。
Fig5.IBR症例
まとめ
SSF2.0の導入により、高心拍や息止め困難な症例でもモーションアーチファクトを抑えた高精度な冠動脈CTA画像の取得が可能となった。これにより診断精度が向上し、心位相選定の自動化によってワークフローも大幅に改善した。また、検査時間の短縮が実現し、技師の負担軽減や他業務への効率的な対応が可能となった。
結果として冠動脈CTAの年間実施件数は約2倍に増加し、循環器診療の質と効率が大きく向上した。
今後は、呼吸停止が困難な患者様に見られるバンディングアーチファクトの低減や解析時間の更なる短縮に関する開発に期待したいと考えている。
Fig 6.診療放射線部職員