※お客様のご使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

製造販売:GE ヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称:Revolution HD 医療機器認証番号: 21100BZY00104000

Cardiac CT 検査における GSI Cardiac の新たな利用価値について

独立行政法人国立病院機構 まつもと医療センター 放射線科
飯塚 一則 様



Cardiac CT 検査は Coronary 診断のGold standard である心臓カテーテル検査の情報と近いCoronaryの狭窄の有無やその程度、それに加え血管近傍の石灰化やプラーク性状評価等の情報を得ることができる。
さらに心筋Perfusion撮影、Delayed Enhanced 撮影を追加実施することによって、形態的な狭窄評価に加えて機能的な虚血評価を行うことも可能となった。しかし、これまでのCardiac CT検査での判断材料は全てエックス線の減弱を示すCT値のみであった。

今回GE社製 Revolution GSI のDual Energy機能を用いることにより、今までのCT値のみであった情報に加え、新たに 1.Monochromatic (Mono) 画像、2.Material Density (MD) 画像、3. Spectral HU Curve (SP Curve)解析、 4.Effective Z (EZ) 解析 が可能となり、さらなるCardiac CT検査の利用価値を探ることができたので、そのうちの4症例を提示する。


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撮像プロトコル
当院でのCardiac CT検査プロトコルを図1に示す。


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図1. Cardiac CT 撮像プロトコル



当院のプロトコルはCalcium Scoring、Static Perfusion、Coronary Scan、Delayed Enhanced の4 series で構成されており、患者様の病状や検査時心拍数などを考慮し、循環器科医師が必要なシーケンスを判断し選択している。
Calcium ScoringはScan type Cine、Rotation time 0.35sec、Scan mode Segment で撮影を行い、 Static Perfusion、Coronary ScanおよびDelayed EnhancedはScan type Snapshot Pulse(R-R 75% Phase, Delayed Enhanced のみR-R 45% Phase), padding 150 msec で行っている。

造影手法はTest Bolus Tracking(TBT)法を採用し、造影剤量は24.5mgI/kg/sec、撮像開始位置にて1相目の造影剤到達確認15秒後からScan Startとしている。(図2)



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図2. 撮影タイミング概略図



症例1 Static Perfusion 80歳台 女性
図3に安静時胸部もやもや感がある患者のStatic Perfusion 症例画像を示す。Static Perfusion 画像は平均CT値を基準に2σ以下の心筋部位を虚血部位と判断し描出している。

Static Perfusion VR画像よりLAD mid 領域およびApex領域がEarly Defect 部位として描出された。まずLAD mid 領域を見てみると、LAD midと対角枝の描出は良好で血管は保たれている。SP Curve は正常心筋領域よりCT値は低いがほぼ平行に同じ形状を示し、EZ も正常心筋領域と overlap している部分があることが分かる。この結果より同部位が軽度取り込み不良もしくは微小循環不良領域の可能性が示唆された。

次にLAD mid 領域と同様にEarly Defect 部位として描出されたApex 領域を見てみる。LAD distal は描出不良であり、LAD mid と違い正常心筋領域と形状の違う SP Curve を示し、 EZ も正常心筋領域より低い実行原子番号を示している。この結果より同部位が高度取り込み不良もしくは梗塞領域の可能性が示唆された。

従来CT値のみでしか判断できなかったEarly Defect 領域も、組織の構造を反映するSP Curve や物質を構成する元素の原子番号を推定することができるEZ解析により、その性状の違いをより詳細に調べることができたと考える。



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図3. Static Perfusion症例画像 安静時胸部もやもや感のある患者



症例2 Coronary Scan(高度石灰化病変の内腔評価)70歳台男性
図4にLAD近位部(♯6)に高度石灰化病変のある患者の症例画像を示す。70keV Lumen view、Cross cut共に石灰化によるBlooming artifactが強く内腔の評価が困難であることが分かる。この石灰化箇所をEZ解析したところ、主成分がCaoxymono であることが示唆された。

そこで、同結果を基にIodine強調、Caoxy 成分nullのMD画像と 高keVのMono 画像(100 keV,140 keV)を作成し血管内腔評価を行った。MD 画像は Caoxymono成分が null として表示されるため、石灰化成分の大部分を消失させることができたが、画像の特性上S/Nと分解能の低下がみられ、この画像のみで血管内腔の評価(血管径や狭窄率の判断)をすることは難しいと考える。

一方高keVのMono 画像は石灰化のBlooming artifact を抑制し近傍の視認性が向上した。その結果、通常の70keVではCross cut上で血管の2/3程度石灰化に占拠されているように見えた箇所も、140 keVのMono画像を用いることにより、石灰化も実際の形状に近く描出することができ、血管内腔をより正確に診断する事が可能になるのではないかと考える。

本症例のようにCT値の高い高度石灰化病変ではBeam Hardeningの影響により通常より黒く表示され非石灰化プラークに類似した画像が描出されてしまう事、Blooming artifactの影響により狭窄を過大評価してしまう事などが問題となっているが、Dual Energy 撮影により得られるMD画像やMono画像を併用する事により、このような問題点の改善を図ることが可能であると考える。



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図4. Coronary Scan(高度石灰化病変の内腔評価)症例画像



症例3 Coronary Scan (不安定プラーク評価)60歳台男性
図5にLAD 近位部(♯6)に中等度狭窄有りの症例画像を示す。急性冠症候群(Acute coronary syndrome: ACS)の約70%は不安定プラークの破綻が原因とされ、冠動脈壁を観察できる冠動脈CTはこの診断が最も期待されていると言われている。

その診断基準として
1.Positive vascular remodeling (正常径の1.1倍以上)
2.Lipid rich plaque (CT値<30HU)
3.Spotty calcification (大きさ<3mm) の3つが挙げられる。
(Motoyama S, et al. J Am Coll Cardiol 50: 319-326, 2007)

今回の症例をCT値のみで評価を行うと、Positive vascular remodeling(+)(正常径の1.4倍)、Lipid rich plaque(+)(CT値 21.5HU)、Spotty calcification(+) (大きさ< 2.3mm)であり、不安定プラークの診断基準すべてに合致する所見であった。

このCT値 21.5HU のplaque 部位に対してSP curve とEZ解析を行うと、心外膜脂肪とは異なるSP Curve の形状を示し、Lipid rich ではなくBloodに近い性状を示しているという結果が示唆された。このように plaque のCT値は内腔のCT値や狭窄率によって影響を受けやすく、CT値のみでの性状評価では不確かであると言われている。このような欠点を補い、実際に実行原子番号を測定する事により、より正確な不安定プラークの判断が可能となり、さらにはより正確なACSの診断につながると考える。



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図5. Coronary Scan(不安定プラーク評価)症例画像



症例4 Delayed Enhanced 60歳台男性
図6にLAD Stent後の患者のDelayed Enhanced 症例画像を示す。70keV画像とMD画像(Iodine強調、Water成分null)でスライス厚5mmの左心室短軸画像を作成した。70keV画像に比べてMD画像の方が心筋と左心室内腔とのコントラストが良好な画像が得られた。

70keVでは前壁~中隔、側壁~下壁にかけての2領域で明らかに白く Delayed Enhanced とみられる像を呈したが、MD画像では前壁~中隔のみ白く描出された(赤矢印)。SP Curve をみてみると前壁~中隔の領域と左心室内のCurveの形はほぼ同一であることから、同部位をWashout されていないDelayed Enhanced領域と判断し、PCIにより血流は回復させたが、LAD末梢部分の細胞はOMI状態であり、線維化病巣の状態である可能性が示唆された。

一方70keVで白く描出されMD画像では消失した側壁~下壁にかけての領域と正常心筋領域のSP Curveを比較してみると、CT値の高低はあるもののこちらもほぼ平行で同じ形状を示していることから、Delayed Enhanced 領域ではなくartifact の可能性が示唆された。

上記結果は後日実施された99mTc-tetrofosminを用いた薬物負荷心筋シンチにおいても、負荷時、安静時共にDelayed Enhanced画像で指摘された部位とほぼ同部位の前壁~心尖部(#7)に集積欠損を認め、陳旧性心筋梗塞として診断されており、壁運動も心尖部で顕著に低下している結果となった。



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図6. Delayed Enhanced症例画像



さいごに
今回一連のCardiac CT 検査においてRevolution GSIのDual Energy撮影を用いることにより、主に2つの点で有用性を示すことができた。一つはMD画像やMono画像を用いることにより、artifactの影響を軽減し、CT値の高低の影響を排除することによって、従来の手法に比べてより明瞭に血管や心室の内腔を描出することができる点である。もう一つは今までCT値のみでしか判断することができなかった心筋組織の状態やplaqueの性状を、物質や組織の特性を反映するSP Curve 解析や物質の実行原子番号を示すEZ解析を行うことにより、正確な診断をするための新たな心筋情報を提供することが可能となった点である。

今後Dual Energy撮影を用いた Perfusion撮影からDelayed Enhanced撮影までの一連の検査データをさらに増やし定量的、定性的評価法を示す事を課題とする。