全身型(腰椎、大腿骨)DXAの重要性
骨粗鬆症の診療において最も重要な検査は骨密度測定であるが、一言に骨密度測定器といっても様々な装置がある。
現在、診療現場で使用できるものとして、①全身型(腰椎・大腿骨)Dual-energy x-ray absorptiometry(DXA)、②前腕骨DXA、③中手骨Microdensitometry(MD)/Digital image processing(DIP)、④踵骨Quantitative ultrasound(QUS)、⑤腰椎・大腿骨Radiofrequency echographic multi-spectrometry(REMS)の5つがある。
腰椎・大腿骨DXAは、骨粗鬆症の確定診断および経過観察(モニタリング)において、最も推奨されている評価法である。本法の詳細については後述する。
前腕骨DXA、および、中手骨MD(DIP)法は、腰椎・大腿骨DXAがない施設において、代替的に診断に用いることができる。しかしながら、腰椎・大腿骨DXAとは乖離した測定結果となることも多く、また、治療による増加も乏しいため、患者への説明は容易ではない。踵骨QUSおよびREMS法は、そもそもガイドライン上、診断に使用することができない。ただし、これら4つの装置は小型で簡易であるため、本邦で広く普及しており、骨折リスク患者のスクリーニングに有用である。
本稿では、骨粗鬆症評価のゴールドスタンダードである、腰椎・大腿骨DXAについて、以下に、基礎知識、検査結果の見方、解釈とピットフォール、問題点について概説する。
腰椎・大腿骨DXAの基礎知識
腰椎・大腿骨DXAは、現在の骨粗鬆症診療において最も推奨されている骨密度の評価法であり、定量性、精度(再現性)に優れ、被曝線量も少なく、過去に蓄積された多くのエビデンスにより、骨粗鬆症の診断基準や治療効果判定に用いられている。
DXAは2種類の異なるエネルギーのX線を用いて骨密度(areal bone mineral density:aBMD、g/cm2)を測定する手法であり、全身型(躯幹型)と末梢骨型(前腕骨用)の装置がある。全身型DXA装置は、腰椎と大腿骨の骨密度測定を主としているが、全身の骨密度や前腕骨の骨密度、体組成(筋量・脂肪量)などの測定も可能であり、またTrabecular bone score(TBS)やAdvanced Hip Analysis(AHA)、3D-DXA(DXA-based 3D modeling)といった多彩なオプション解析もある。
腰椎・大腿骨DXAの評価は、腰椎は第1〜4腰椎の正面像、大腿骨では大腿骨近位部の正面像で行われる。撮影は被写体の位置や肢位などによって計測値が変動するため、ポジショニングに十分注意を払った上で行われ、撮影後の画像においては、正しい計測領域となるようにトリミングなどが行われて、骨塩量(bone mineral content:BMC、g)と骨面積(bone area、cm2)を計測することで、最終的に骨密度(areal bone mineral density:aBMD、g/cm2)が得られる。さらに日本人の若年成人平均値(Young adult mean:YAM)から、SD値で評価したT-scoreとYAM%比較値が得られる。
検査結果の見方の基本
日常診療において、腰椎・大腿骨DXAをオーダーした際、多くの医師はYAM%比較値の代表値の結果だけを見ることが多いと思われるが、DXAの結果シートは実は多くの情報が詰まっている。DXAの検査結果は、通常、実際に撮影された画像、計測値が記載された表、レファレンスカーブへのプロット図の3つから構成されている。
計測値の表には多数の計測部位と計測項目が記載されており混乱するが、本邦では最も重要な計測項目はYAM%比較値である。YAMは腰椎の場合20-44歳、大腿骨の場合20-29歳を100%として、80%未満(79%から71%)を予備軍である骨量減少とし、70%以下を骨粗鬆症と定義している。YAM%比較値は日本だけの概念であり、国際的にはT-scoreが用いられているが、%比較のほうが患者さんへの説明が非常にしやすく、患者さんにも理解しやすいと筆者は感じている。
腰椎ではL1-4のYAM%比較値を見ることが標準とされている。日本ではかつてL2-4を標準としてきたが、国際的にはL1-4が使用されていたため、2012年よりL1-4、L2-4領域のいずれでも可となった1)。大腿骨は、Femoral neckとTotal hipのYAM%比較値を見ることが標準とされている。Total hipは 直訳すると全股関節となり、初見では何を指すのかわかりにくいが、これは大腿骨頚部と転子部の両方を合わせた大腿骨近位部の全体のことを意味する。
腰椎L1-4(またはL2-4)、Femoral neck、Total hipのいずれかのYAM%比較値が70%以下であると、骨粗鬆症と診断される。治療開始後は、これらの全てYAM%比較値が少なくとも70%を超えることを目標に治療が続けられる。
検査結果の解釈とピットフォール
DXAによる骨密度測定にはいくつかのピットフォールがあり、日常診療のデータ解釈において重要である。
腰椎DXAでは、例えば図1のように、L1-4やL2-4ではYAM%比較値が70%を超えているため、一見すると問題ないと誤解釈される症例が存在する。腰椎DXAにはL1、L2、L3、L4それぞれにYAM%比較値が存在し、筆者はそれらも見ることを推奨している。本症例の場合、L1やL2は60%程度で、L3やL4が80〜90%あり、乖離が生じている。そこで実際に撮影された腰椎の画像を見てみると、下位腰椎にOA変化を有しており、これが原因でL3とL4が異常高値となって、平均値を引き上げていることが理解できる。本症例は、本来はL3、L4、または少なくともL4は除外して、L1-2またはL1-3を代表値としなければならない。このように、腰椎DXAはしばしば、OAや側弯、椎体骨折などで測定値が上昇するため注意を要する。DXAを解析する放射線技師は除外すべき椎体を判断し、結果シートを作成することが推奨されているが、実際の診療現場では割愛されていることも多い。
そのため、医師自身がデータの解釈をしなければならない場面も多く存在する。また、OA変化は下位腰椎に多く発症するため、L1-4よりもL2-4が高値となりやすく、国際基準に合わせることも含め、L2-4よりもL1-4で評価することを筆者は推奨している。
図1 腰椎DXAのピットフォール
プリントされたDXAの結果シートを示す。DXAの結果シートは通常、①実際に撮影された画像、②計測値が記載された表、③レファレンスカーブへのプロット図の3つから構成されている。
腰椎DXAは、L1-4(またはL2-4)のYAM%比較値だけでなく、各椎体のYAM%比較値やDXA画像を見て、OA、側弯、椎体骨折などによる異常高値がないかを確認する必要がある。本症例は、 L1-4は75%、L2-4は80%であるが、L1は61%、L2は64%、L3は84%、L4は90%と、下位腰椎がOA変化のために高値となっており、平均値が引き上げられてしまっている。本症例の本来の骨折リスクは、L1-2の63%で評価すべきある。
GEヘルスケア社のDXA装置の結果シートは、L1-4、L2-4はもちろん、L1、L2、L3、L4それぞれの椎体ごとのYAM%比較値、さらには、骨折などで特定の椎体を除外した、例えばL1-2,4(L3除く)のYAM%比較値、といった様々な測定結果の表記が可能となっており、正確な結果を取得することができる。
大腿骨DXAのピットフォールで代表的なものは、左右差である。大腿骨DXAは、ほとんどの施設では片側のみで撮影されている。しかしながら、股関節にOAがある場合は、特にFemoral neckで骨密度が異常高値となる。また、患者に下肢の麻痺や骨折既往がある場合、その下肢は骨密度が低下していることが多いが、もしそれが撮影されていない
大腿骨側だった場合は、骨粗鬆症を見逃されることになる。このように、大腿骨DXAは本来ならば両側で撮影することが推奨されるが、これは、ただでさえ時間のかかる検査をさらに煩雑にするため、正確な骨密度検査に関心のある施設のみで行うことができれば良いかと筆者は考えている。
GEヘルスケア社のDXA装置は、両側大腿骨の簡易で正確な撮影ができることが1つの強みである。鋭角ファンビームの技術により投影される骨面積に拡大誤差がなく、左側の撮影後にX線管と検出器が自動的に移動して右側の撮影を行うため、ポジショニングを左右ごとにやり直す必要がなく、簡易で正確な両側撮影を行うことができる。また、両側の大腿骨の結果が1画面で表示され、結果の左右差も簡便に認識できる(図2)。
図2 両大腿骨DXAの結果画面
再現性の重要性
DXAにおいて最も重視される概念は、正確性よりも精度(再現性)である。正確性はDXAが二次元解析であることから限界があることは当然で周知のことであり、それを踏まえた上で医師がデータを解釈する。再現性が重要である理由は、骨粗鬆症治療がそもそも、わずか数%の骨密度増加を、長い年数をかけて繰り返し得るという体系をとっており、その評価機器であるDXAの再現性が不良であると、治療効果を正当に評価することができないからである。
DXAの再現性は、計測部位の面積に依存しており、面積が小さいと計測値が変動(ばらつき)しやすい。よって、腰椎の評価は1椎体でモニタリングをすることは推奨されておらず、L1-4またはL2-4、最低2椎体以上で行うことが原則とされている。大腿骨の評価はFemoral neckよりも5倍以上の面積をもつTotal hipの方が再現性が良いため、モニタリングにおいてはTotal hipで評価することが推奨されている2)。
DXAの再現性は、施設や放射線技師によって異なり、その算出方法は、DXAの国際学会であるInternational Society for Clinical Densitometry(ISCD)おいて標準化されている3)。15人の被験者を3回、または、30人の被検者を2回撮影し、計測値の変動係数(CV)の二乗平方根(RMSCV%)で評価される。ISCDでは、RMSCV%が、腰椎(L1-4)では1.9%、Total hipでは1.8%、Femoral neckでは2.5%に以内に収まることを推奨しており、そのためには各施設の放射線技師はDXAの撮影と解析の手技を厳密に統一化する必要がある。
GEヘルスケア社のDXA装置は、ポジショニングのばらつきによる再現性の低下が生じにくいことを1つの特徴としている。一般的なワイドファンビームでは、X線束中心から左右方向にずれた被写体は投影される骨面積が拡大するため、低い骨密度値が算出されてしまう。そのため、被写体を毎回厳密に線束の中心に配置する必要があるが、GEヘルスケア社は鋭角ファンビームを採用しているため、ポジショニングによる影響を受けにくく、再現性の高い計測値を得ることができる。また、撮影後の解析は自動で行われ数秒後に結果表示される。測定者毎の介入頻度を極力抑えることで測定者間の変動を抑制できる。特異例などにおいては必要に応じて、測定者がROIの修正等を行うこともできる。その際、過去解析時のROIをコピーして解析を行う機能も搭載されており、再現性を高める工夫がなされている。
医療現場におけるDXA普及の重要性
現在の骨粗鬆症の診療現場における、最も大きな問題は、全身型(腰椎・大腿骨)DXAの普及の少なさ、アクセシビリティの低さである。
骨粗鬆症の診断基準は、国際的にはDXAによる骨密度がT-scoreで-2.5以下であるが、日本における診断基準は、①DXAによる骨密度がYAM%比較値が70%以下(T-score -2.5とほぼ同等)、それに加えて、②椎体骨折または大腿骨近位部骨折の既往、さらに、③橈骨遠位端骨折や上腕骨近位端骨折などの既往+骨密度のYAM%比較値が80%未満でも、確定診断することができる。
日本骨代謝学会および日本骨粗鬆症学会は、日本における骨粗鬆症の診断基準を定める際に、誰もが受けることのできないDXA検査のみでは多くの骨折リスク患者が確定診断されず、骨粗鬆症治療薬が開始できないため、また、椎体骨折や大腿骨近位部骨折の既往はDXAのYAM%比較値が70%以下と同等の骨折リスクをもつため、どのような病院や診療所でも可能な問診(大腿骨近位部骨折の既往)と単純X線(椎体骨折の診断)だけで、骨粗鬆症を確定診断できるような基準を作成した。この判断によって、日本では多くの骨折リスク患者に対して骨粗鬆症治療薬を開始することが可能となり、多数の骨折既往患者が二次骨折から救われた。
注意点として、この診断基準は、骨粗鬆症診療においてDXAをしなくてよいという意味では全くない。骨粗鬆症は重症度によって選択する治療薬の程度も様々であり、また治療開始後もノンレスポンダーが存在するためモニタリングは必要であり、患者も結果を知ることで治療の継続率を維持することができる。適してない治療、効いていない治療、続かない治療、これらを回避するために、DXAが重要であることに異論はない。
DXAの現在の最大の問題点は、患者数に対してDXAが全く足りていない、普及していないことである。骨粗鬆症という患者数1000万人以上のCommon diseaseの確定診断の装置であるDXAは、病院だけではなく診療場への普及も望まれるが、診療所においてDXA装置を設置するスペースの確保と放射線技師の雇用はハードルとなっている。骨粗鬆症診療の重要性の認識が広まった近年、整形外科の新規開業の際に腰椎・大腿骨DXAの導入を検討する診療所は増えているが、それが整形外科以外の診療科にも広まることや、DXA装置の技術向上により撮影や解析がより簡易になることが、現状改善の鍵となるかもしれない。
DXAの普及が十分でない現時点で最も大事なことは、病診、診診連携ということになる。地域でDXA保有の状況を把握し、リスト化することが、まずできることであり、長崎県では2023年にDXA 検査が可能な医療機関のリスト作成を行なっている(図3)。長崎県では後期高齢者の入院費の第1位が常に骨粗鬆症による骨折であり、骨粗鬆症重症化への対策を強化する必要があった。骨粗鬆症検診で要精検となった方が、確定診断をするための受診先がわからない「DXA難民」、また、急性期病院で骨折の治療を受け、骨粗鬆症治療を開始したものの、治療とモニタリングの継続の依頼先がわからないもう1つの「DXA難民」。これらの状態を解決すべく始めたものがこのDXAリストである。現在、長崎県全体でDXA検査の共有を促進する重要な取り組みとなった。これにより、要精検となった患者さんは適切なDXA検査が受けられる近隣施設を選ぶことができ、また医療従事者も、治療とモニタリングができるDXA施設への紹介がしやすくなり、結果として、治療の継続率を向上させることができるのではないかと思われる。こうした取り組みが全国的に行われ、更なる 骨粗鬆症の予防・治療につながることを期待したい。
References
1)原発性骨粗鬆症の診断基準 2012年度改訂版
Osteoporosis Japan vol.21, p9-21. 2013
2)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版 p26-29
3) Leib ES, Lewiecki EM, Binkley N, et al. Official positions of the international society For clinical densitometry.
J Clin Densitom 2004; 7: 1-5.


図3 長崎県が作成した骨密度測定の紹介可能医療機関リスト