1.骨粗鬆症のスクリーニングの重要性
骨粗鬆症は頻度が高く、70歳代の女性の半数は骨粗鬆症と推計され、50歳女性が生涯に大腿骨近位部骨折を起こす確率は20%と推計されている。しかし、骨粗鬆症は無症状で、骨折を起こして初めて骨粗鬆症に気づくことも多い。いったん骨折すると、次の骨折の危険性は2~4倍に高まり、骨折の連鎖を起こす。骨折は、高齢者の要介護原因の1つであり、高齢者の日常生活機能やQOLを低下させるだけでなく、家族への負担にもなっている。
骨粗鬆症の診断は、原則として二重X線吸収装置(Dual X-ray Absorptiometry、DXA)による大腿骨近位部あるいは腰椎の骨密度測定で行われる。無症状の潜在的な骨粗鬆症患者を見つけ、診断に繋げるためにはスクリーニングが有効である。
骨粗鬆症検診は、2003年に施行した健康増進法に基づき開始され、市町村が市区町村の区域内に居住する40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳及び70歳の女性を対象として、問診及び骨量測定(QUS、DIP、CXD、DXAなど)で行われている1)。しかし、自治体の検診実施率は約63%、受診率は約5%と低率であることから、2024年に施行した健康日本21(第三次)では、検診受診率15%を目標とする新たな指標が設定された。その目標を達成するべく、現在、検診受診率向上のために骨粗鬆症検診が見直されていて、従来の方法、あるいはOSTAやFRAX(Fracture Risk Assessment Tool)の危険因子を使う方法が提案されている。今後、検診受診率の向上とともに、検診の対象にならない年齢の女性や男性に対しても、日常的な診療の場などで、 OSTAやFRAXのような簡便な方法を用いて骨密度測定の必要な人を判別し、診断・治療に繋げることは重要である。
このような近年の動向の中で、ますます活用されていくであろうOSTAについて本稿で解説する。
2.OSTA(Osteoporosis Self-assessment Tool for Asians)とは
OSTAは骨量測定機器を使わず、簡単に問診で得られる危険因子を使って骨粗鬆症の高リスク者を判別するツールとして2001年に発表された2)。OSTA作成のきっかけは、1994年にWHOの骨粗鬆症診断基準が発表された際に、骨密度に基づいて骨粗鬆症を診断し治療開始することが、世界中に広まったが、アジアの多くの国ではDXAの数が限られていて、DXAを受けるべき人を簡便に判別する方法が必要となったからである。
OSTAは、アジア8か国(シンガポール、台湾、韓国、香港、マレーシア、フィリピン、タイ、中国)860人を対象として作成され、日本人(広島コホート)でその妥当性が評価された2)。対象者は、DXAで大腿骨頸部の骨密度を測定され、WHO診断基準(DXAを使って大腿骨頸部骨密度若年平均値(YAM)の-2.5SD以下)に基づき骨粗鬆症と診断された。また、問診表を使い、骨粗鬆症の危険因子として、年齢、身長、体重、人種、身長低下、骨折歴(本人と家族)、閉経年齢、薬剤(エストロゲン、甲状腺ホルモン、糖質コルチコイド)、関節リウマチ、カルシウムサプリメント、食事からのカルシウム摂取、喫煙、身体活動時間、臥床歴、日光曝露と骨粗鬆症との関係が検討された。最終的に、この中の11の危険因子が骨粗鬆症と有意な関係があった。11の危険因子を使った予測式は、カットオフ値を-1とすると感度95%、特異度47%、AUC0.85であった。
一般的に、スクリーニング・ツールは、危険因子を加えるほど予測力はよくなるが、簡便性は低下する。そのためこの予測式から有意性の弱い危険因子を順に削除し、最終的に、年齢と体重の2因子の予測式(図1)でも、感度91%、特異度45%、AUC0.79と、十分な感度がえられたことから、この2つの危険因子からなる予測式が作成された。
図1.骨粗鬆症のリスク評価ツールOSTA
(Osteoporosis Self-assessment Tool for Asians)
作成に用いたアジア人集団においては、高リスク群の61%は骨粗鬆症と診断され、中リスク群では15%、低リスク群では3%が骨粗鬆症であった(表1)。 OSTAは、2変数で計算できるので、図2を用いれば、簡単にリスクが評価できる。
表 1. OSTAのカットオフ値別の骨粗鬆症有病率
図2.骨粗鬆症のリスク評価ツール(OSTA)
3.OSTAの国内における評価(感度、特異度について)
OSTAの妥当性は広島コホート(日本人閉経後女性1,123人)で検証され、WHO診断基準の大腿骨頸部骨密度を用いるとカットオフ値を-1とした場合には、感度98%、特異度29%であった。高リスク群のうち44%、中リスク群では10%、低リスク群では1%が骨粗鬆症であった(表1)2)。
日本でよく使われている「腰椎骨密度YAM70%未満」を診断基準として使うと、感度88%、特異度43%で、高リスク群の43%、中リスク群の24%、低リスク群の5%が骨粗鬆症と判定され、有効性は変わらなかった3)。
現在までに、いくつかの危険因子を用いた骨粗鬆症のスクリーニング・ツール(ORAI、SOFSURF、SCORE)が発表されているが、OSTAは年齢と体重の2項目でこれらのツールとほぼ同程度、あるいはそれ以上の感度を示した3)。
OSTAは、その簡便さから、現在では、さまざまの状況において使われ、大腿骨近位部手術を受けた人に対してDXAの検査に回す患者の絞り込み時や、骨折リスクが高いといわれる慢性呼吸器疾患においても、DXA検査につなぐスクリーニングの際の有効性が報告されている4)-6)。
4.OSTAの国外における評価(感度、特異度)
OSTAの妥当性は、韓国、フィリピン、マレーシア、中国、タイ、ベトナム、台湾、インドなど多くのアジアの国あるいはアジア以外の国においても検討され、各国に応じたカットオフ値を決め、感度は80~90%前後で有効性が報告されている。
男性については、中国、ポルトガルなどで検討され、感度、特異度、AUCは女性と変わらなかった。
5. OSTAとFRAX ® (Fracture Risk Assessment Tool)の使い分け
骨密度は骨折リスクを決める重要な因子ではあるが、それ以外の多くの危険因子も骨折リスクに関わっていることが分かってきて、2008年に、骨折高リスク者を判別するツールとしてFRAX ® (https://frax.shef.ac.uk/FRAX/tool.
aspx?lang=jp)が発表され(図3)、各国において骨粗鬆症薬物治療開始のガイドラインに取り入れられ、カットオフ値が設定されている。ただし、骨粗鬆症の診断基準は変わっていない。
FRAX®は世界保健機関(WHO)の国際共同研究グループが作成したツールで、40歳以上を対象に、骨粗鬆症による骨折が向こう10年のうちに発生する確率を計算するもので、総数6万人の前向きコホートを用いて作成され、国別のFRAX®は、その国の骨折の発生率と平均余命に基づいて調整されている。
骨粗鬆症による骨折の発症にかかわる様々な危険因子のうち12の因子(大腿骨頸部のBMDを入力しない場合は11の因子)について入力すると、主な骨粗鬆症性骨折の今後10年間における発生率(%)を得ることができる。
FRAX ®にも、年齢、体重は含まれているが、「骨折リスクの高い人」を判別することが目的である。一方、OSTAの目的は、「骨粗鬆症リスクの高い人」の判別である。骨粗鬆症は50歳代から増加し始め、骨折は70歳代以降に急激に増加する。したがって、50歳代、60歳代にFRAX ®の治療開始のカットオフ値(主要骨粗鬆症性骨折で15%)以上を適応すると該当となる人は少ない。一方、OSTAは、50歳代、60歳代において、「まだ、骨折リスクは高くないが骨粗鬆症のリスクの高い人」をスクリーニングすることができる。
図3 .骨粗鬆症財団が公開するFRAXのリーフレット引用元 :骨粗鬆症財団
6.OSTAを使ってスクリーニングして腰椎・大腿骨DXAへ繋げる
日本は、比較的DXAが普及しているが、DXAを持たない医療施設においては、OSTAを使って、DXAによる骨密度測定が必要な人を判別し、骨密度測定に繋げることは重要である。さらに、ステロイド内服やRA、2型糖尿病、COPD、CKD、胃摘出、骨代謝に関係がある内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群など)などは、骨折リスクが高いことが知られている。整形外科だけでなく、これらの患者が受診する科などにおいても、OSTAをスクリーニング・ツールとして用いて、潜在的な骨粗鬆症を見つけ、腰椎・大腿骨のDXAでの確定診断とモニタリングにつなげることは、今後も続く超高齢者社会において高齢者の要介護や寝たきり予防に役立つと期待される。
参照文献
1) 骨粗鬆症 検診・保健指導マニュアル第2版 ライフサイエンス出版
2) Koh LT, Sedrine WB, Torralba TP et al. A simple tool to identify Asian women at increased risk of osteoporosis. Osteoporos Int 12:699-705,2001.
3) Fujiwara S, Masunari N, Suzuki G et al. Performance of osteoporosis risk indices in a Japanese population. Curr Ther Res 2001 62:586-93
4) Uemura K et al. Assessing the utility of osteoporosis self-assessment tool for Asians in patients undergoing hip surgery. Osteoporos Sarcopenia 2024 10: 16-21
5) Higuchi R et al. Osteoporosis screening using X‑ray assessment and osteoporosis self‑assessment tool for Asians in hip surgery patients. J Bone Miner Metab 2025 43:158–65
6) Watanabe K et al. Association Between Osteoporosis Self-Assessment Tool for Asians and Airflow Limitation in Japanese Post-Menopausal Women. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2024 19:1547-59