DXA法は骨密度評価の“golden standard”とされ、骨粗鬆症診療には必須の測定法である。一方、DXA法によって軟部組織に関する情報も得ることができるため、体組成評価の方法としても活用されている。体組成の指標の一つに体脂肪率があるが、近年体脂肪率への関心は「ブーム」と呼べるほどに高い。しかし実際に体脂肪率の厳正な評価を必要とする対象は限られており、アスリートはその代表である。一部のアスリートにおいて体組成はパフォーマンスを左右する因子であり、古くからコンディショニングや食事内容の制御に活用されてきた。現在DXA法はアスリートの体組成評価の主流となりつつあり、新たな“golden standard”として評されることもある。本稿ではスポーツ医学におけるDXA法の役割・活用について、実際の事例にふれつつ紹介していきたい。
DXA法は測定誤差が比較的小さいため、競技の時期に応じて体組成が変化するアスリートの経時評価に適している。特に陸上長距離走のように、自身の質量を負荷とした距離移動の時間を競う競技では、もともと選手の体脂肪率が低くコンディショニングに伴う変化も比較的小さいため、DXA法のような精度の高い評価法が有用である。
図1は高校女子中長距離走選手(3名)の体脂肪率の変化をDXA法で評価して、高校1年から3年まで準備期(春)、競技期(夏、冬)別に表したものである。選手の水準は高く、インターハイ選手、日本記録を持つ選手を含んでいる。一般の女子と比べると入部時の体脂肪率は既に低い水準だが、競技シーズンに入るとさらに低下する。準備期から競技期への大きな低下は毎年繰り返して観察されるが(赤線)、シーズン中の変化(黒線)は比較的大きくない。これらは競技のシーズナリティに合致した体格変化である。またシーズンインに伴う体脂肪率の減少は入部してすぐの1年目に顕著である。しかしそれ以降3年間を通して減少の幅は−5%ポイントより小さいことがほとんどである。
図1 高校女子陸上長距離選手の体脂肪率変化(DXA法)(Uchiyama E. & Kinoshita N., ECSS, 2020)
このようなシーズンインに伴う体脂肪率の減少は、競技水準がより高い選手や男子の選手でも観察されるが、その幅は小さくなる。図2は大学男子陸上長距離走選手の体脂肪率の変化(平均値)をDXA法で評価したものである。学年によらずシーズン前の体脂肪率は非常に低い水準であり、シーズンインに伴う減少幅も、−2%ポイントに満たない。なおこれらの対象集団において、同日に繰り返しの測定を行いleast significant change(LSC)を別途計算しているが、体脂肪率のLSC95 は前者の高校女子選手において0.03、後者の大学男子選手では0.11と小さく、これは選手らの体脂肪率の水準から計算すると、同一選手でおおむね1%ポイント以上の変化があれば有意と見なしうることを意味する。
このように陸上長距離走選手では、元々体脂肪率の水準が低く、シーズンに応じて少しずつ変化しつつ競技歴を通じて徐々にその水準を下げていくが、変化の幅が小さいということは、もしそれを測定誤差が大きい方法で評価した場合、本来は体脂肪率が低下しているにもかかわらず、増加したと測定されてしまう危険があることを意味する。前述の高校女子選手(N=25)における体脂肪率の変化幅を、DXA法と多周波生体インピーダンス法(m-BIA法)とでBland-Altman解析によって比較すると、シーズンインにおける体脂肪率の減少幅はそれぞれ−6.3±4.7%ポイント、−5.3±4.4%ポイントと有意差は認めたものの差は小さかった1)。これはm-BIA法が横断的に集団の平均値を評価する上では有用な方法であることを示唆している。しかしランダム誤差は大きく、limits of agreement (mean−2SD~mean+2SD) は−3.4%ポイントから5.5%ポイントであった。体組成変化の幅を考慮すると、生体インピーダンス法の中で比較的精度が高いとされるmBIA法であっても、選手個人の経時的変化を適切に追跡できない可能性があることになる。日頃からウェイトコントロールをしている競技選手では、体脂肪率の変化に極めて敏感に反応して摂食行動を変えることもあるため、測定精度や結果の解釈に細心の注意が必要である。
次に「女性選手の三徴(female athlete triad: FAT)」におけるDXA法の役割について解説する。FATは古くからあるoperationalな概念で、女性選手がこうむりやすく互いに連関する重大な障害を3つまとめたものである。最新のFATの考え方は、①運動で消費するエネルギーに見合った十分な摂取エネルギーが確保されていない状態(low energy availability)の継続によって、②生殖ホルモンの分泌異常(月経異常)や、③骨密度の低下(骨粗鬆症)をきたす、という3つである2)。FATは体脂肪率と同様に一般医療でもやや「ブーム」の兆しがあるが、治療行為に結びつく概念であるため適切に理解する必要がある。比較的よく耳にする言説に「やせている選手は月経がなく骨も弱い」というものがある。確かにアスリートの急速大幅減量の際にはlow energy availabilityとなり、これに伴い視床下部性の続発性無月経となったり、骨形成にも支障をきたしたりする可能性があるが、やせていること=low energy availabilityではないため、やせている選手でも正常月経周期であったり、骨形成が正常であったりする。なお「やせ」についてはthinnessとleannessが混同されることがあるが、ここでは体脂肪率が低いこと(leanness)と月経異常の関連性についての自験例を紹介する。図3は先述の高校女子選手の体脂肪率をDXA法で測定し、年間の月経回数から無月経、稀発月経、正常月経周期の判定をして比較したものである。体脂肪率の低い選手が必ずしも月経周期異常ではないことがわかる。また図4は正常月経周期の選手と無月経の選手でDXA法による頭部を除外した全身骨密度(TBLH)の変化を経時的に比較したものである。総じてBMD、Z-scoreとも正常月経周期選手(選手A)の骨密度が高く骨形成も順調に見えるが、この選手は図1の点線で示した選手で、在学中の体脂肪率は10.7±1.2%と一貫して低かった。一方、無月経の選手BのZ-scoreは、選手A と比べると低いものの正常範囲で、経年的にBMD、Z-scoreとも増加している。ただし増加は漸減しZ-scoreで見ると獲得水準は正常月経周期の選手Aと比べて低い。選手Cも無月経であるが、こちらは経年的にBMD、Z-scoreが低下している。これら3選手のenergy availabilityも評価しているが、選手A、Bは適正レベル(>45 kcal/kg除脂肪体重/day)であったのに対し、選手Cはlow energy availability水準(<30 kcal/kg除脂肪体重/day)であった。
図3 月経周期別に見た体脂肪率分布(DXA法)(内山, 木下, 佐賀. 体力医学会, 2017)
アメリカスポーツ医学会を中心としたFemale Athlete Triad Coalitionは、FATの治療指針の中で、DXA法による骨密度評価が必要な選手を表1の様にまとめている3)。思春期女子選手の場合、可能であれば全身を走査してTBLHを評価することが望ましい。なおこのような選手が医療と接点を持つのは、多くが疲労骨折や月経周期異常をきっかけとする。したがってこれらの診療ではFATも念頭において治療方針を立てることが必要となる。
表1 DXA法による骨密度評価が必要な選手3)
続発性無月経にlow energy availabilityの関与が疑われる場合には、最初に栄養指導や行動療法などの非薬物療法を行わなければならない3)。またBMD Z-score≦−2.0で疲労骨折の既往がある選手に、このような非薬物療法を1年以上の行っても、さらにZ-scoreが低下したり新たに疲労骨折をしたりした場合3)には薬物療法を検討する。図4の3選手においてもDXA法の評価から異なる対応となる。このようにFATの評価・診療方針の決定にはDXA法による継続的な骨密度評価が必要であり、DXA法はウェイトコントロールが必要な女性選手のスポーツ医学診療に不可欠な検査法である。
図4 月経周期別に見た骨密度変化(DXA法)(木下,鴇田, 内山, ほか. 臨床栄養学会, 2017)
参考文献
1) Uchiyama E, Kinoshita N, Okuyama K. Accuracy of multi-frequency BIA in %fat change during weight loss among competitive girl runners. The American College of Sports Medicine 2020 Virtual Experience. Med Sci Sports Exerc. 2020;52(7S):64.
(https://virtualmeeting.ctimeetingtech.com/acsm2020/attendee/eposter/poster/550?q=uchiyama. 2020.12.31までアクセス可)
2) Nattiv A, Loucks AB, Manore MM, et al.American College of Sports Medicine position stand: the female athlete triad. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(10):1867-82.
3) De Souza MJ, Nattiv A, Joy E, et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition consensus statement on treatment and return to play of the female athlete triad: 1st International Conference held in San Francisco, California, May 2012 and 2nd International Conference held in Indianapolis, Indiana, May 2013. Br J Sports Med. 2014;48(4):289.