はじめに
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015版によると、骨評価としてdual-energy X-ray absorptiometry(DXA)を用いて、腰椎と大腿骨近位部の躯幹測定が望ましいとされているが、国内でこの2部位が測定可能な施設は少なく、前腕DXAが汎用されている(表1、日本臨床整形外科学会2016会員調査結果)。そこで、躯幹と前腕DXA測定値の差異を検討し、治療方針に及ぼす影響を検討した。そこから浮かび上がる問題と今後の改題について考察した。
表1. 躯幹と前腕DXA測定値の差
― 対象と方法 ―
腰椎(L2-4正面)・大腿骨近位部(頚部)・前腕(橈骨遠位1/3)部の3部位でDXA測定(GE Healthcare社PRODIGY Primo)した骨粗鬆症治療歴のない518名(男性39名、女性479名)、平均年齢72.3歳(29-99歳)について、腰椎・大腿骨YAM値と前腕YAM値との解離を検討した。本検査は、骨粗鬆症財団主催のDXA講習会を修了し、骨密度測定に精通した放射線技師1名が担当した。
― 結果 ―
腰椎・大腿骨・前腕の平均YAM値は86.1, 75.1, 69.6で、前腕は腰椎・大腿骨と比べて有意に低値であった(図2)。腰椎と前腕の値が10以上解離したのが352例(68.0%)、大腿骨と前腕のそれは237例(45.6%)であった(図3)。本症例において、大腿骨と椎体脆弱性骨折のある患者は217名であった。それを除いた301例中、薬物開始基準に即した治療対象者は、躯幹測定で114名(37%)、前腕測定で152名(50%)と差を認めた。
図2.腰椎・大腿骨・前腕の平均YAM値
図3.腰椎-前腕 および大腿骨-前腕のYAM値の差
考察
― 骨粗鬆症の治療率 ―
日本の高齢者人口は2040年までは増加すると予想されている。それに伴い高齢者の大腿骨近位部骨折の発生も増加し続けており、医療費・介護費の膨張などからも社会問題となっている。大腿骨近位部骨折を受傷された方のうち、骨粗鬆症の前治療を受けていた割合は、僅か10%程度と報告されている*1。当院でも新規椎体骨折の患者50名/年のうち、骨粗鬆症の前治療の割合は約10%でした。つまり何の予防手段ももたないまま脆弱骨折を生じてしまう人が多いのが現状である。骨粗鬆症と他疾患の推定患者数を表2に示すが、まだまだ治療率の悪さが課題となっている。
表2. 骨粗鬆症と他疾患の推定患者数
― 骨粗鬆症外来としての役割 ―
骨粗鬆症に対して高い水準の治療ができるかどうかは、医師の関心に左右されるのが現状である。骨粗鬆症の骨密度検査は前腕のDXA法で測定する施設が全国的に多いものの、腰椎・大腿骨の測定値と前腕の測定値には非常に解離がある。YAM値で10~20も変われば診断基準も役に立ちません。そしてそれは治療対象者も変わり、治療効果判定にも役立ちません。躯幹測定法だけでは患者に不利益になることもあるし、もちろん前腕DXAだけでは不十分である。
そこで当院では腰椎・大腿骨・前腕の3部位測定を同一機器で実施し、判断項目を増やす取り組みを行っている。他院で施行されたデータとの適合性も図れるようになり地域連携においても非常に役立っている。また高齢者の中には変形性腰椎症、腰椎圧迫骨折の既往、大腿骨に内固定材料が挿入されている患者も多くなってきている。そのような方にも、前腕部の測定精度が高いメリットを活かして対応することが可能である。腰椎・大腿骨部での躯幹測定法が最近、認知されてきていることは大変喜ばしいが、前腕部測定も見直さなくてはいけない。(図4)。
図4 躯幹と前腕DXA測定値の差
― 地域医療連携・多職種連携 ―
骨粗鬆症単独で治療されている患者はそれほど多くない。骨粗鬆症は、変形性疾患の合併だけでなく、老年医学や生活習慣病とも密接にかかわってくることから、一つの診療科だけで完結できるものではない。特に脆弱性骨折を生じてしまった方には、二次骨折予防に多職種でアンテナを張ることで骨粗鬆症治療率の底上げを図っていく必要がある*2。
躯幹測定法と前腕測定法との間には、5~16%の解離があり、治療対象者も13%の差が出てしまう問題があるが、前述の骨粗鬆症治療率の低さから、また今後の地域連携の面においても、基準を下回ったらどの部位の測定法でも治療介入するべきでしょう。躯幹測定しかしない施設と前腕測定しかしない施設で治療方針が異なり、患者が不利益ならないように連携をすすめていく必要がある。
参考文献
*1 Hagino H, Sawaguchi T, Endo N, Ito Y, Nakano T, Watanabe Y. The risk of a second hip fracture in patients after their first hip fracture. Caicif Tissue Int. 2012;90(1):14-21.
*2 Tachiiri H, Okuda Y, Yamasaki T, Kusakabe T. Weekly teriparatide administration for the treatment of delayed union: a report of two cases. Arch Osteoporos. 2014;9:179.