はじめに
当院の骨代謝センターについて
東部病院では2016年よりさまざまな職種から構成されるOLS(Osteoporosis Liaison Service)チームを発足した。現在はそのうち8名のスタッフが骨粗鬆症マネージャーの資格を取得している。2021年には国際骨粗鬆症財団(IOF)のベストプラクティスフレームワークの最高ランクの『GOLD』に認定された。この認定制度は、二次骨折予防の取り組みに対する認定制度であり、世界でも認知されている制度である。2023年には糖尿病内分泌内科や産婦人科、歯科口腔外科とも連携して診療科横断的に骨粗鬆症の治療と予防に努めるべく「骨代謝センター」を設立した。現在は管理栄養士・理学療法士・薬剤師・診療放射線技師・看護師・Medical Assistant等の職種のスタッフが連携し、骨折の予防や骨粗鬆症治療率の向上を目指す、院内でも注目のチーム医療を実践している。
本記事では、筆者の臨床経験をもとに診療放射線技師およびDXA (Dual Energy X-ray Absorptiometry)に携わるスタッフに意識してほしい臨床的なポイントを、DXA装置の特性も交えて解説する。
DXAの概要
正確性
DXAは直訳して「二重エネルギーX線吸収測定法」と訳されるように、2種類のエネルギーのX線を照射し、その吸収率の差を利用して骨密度を計測している。その大きな利点は骨領域以外(筋肉や脂肪)の個体差の影響を最大限軽減し、純粋な骨量のみを算出できる点である。そのため、他の骨密度測定法よりも高い正確性(測定精度)をもつ検査方法である。
撮影部位
腰椎および大腿骨近位部は最も多く骨粗鬆症性骨折をきたす部位であり、骨折後の予後も不良であることが多い部位である。そのため腰椎と大腿骨をDXAで測定することが、骨粗鬆症診断とモニタリングのゴールドスタンダードとなっている。
DXAにおける測定部位
・腰椎と大腿骨近位部の両者を測定することが望ましい。
・腰椎DXAでは前後方向L1~L4またはL2~L4を計測する。
・側方向測定は診断に使用しない。
・大腿骨近位部DXAでは、頸部、転子部、全大腿骨近位部(頸部、転子部、骨幹部の3領域)を測定する。
・女性、男性ともに大腿骨近位部と腰椎の骨密度を用いる。
・高齢者において脊柱変形などのために腰椎骨密度の測定が適当でないと診断される場合には大腿骨近位部骨密度を用いる。
・これらの測定が困難である場合や副甲状腺機能亢進症では、前腕骨の骨密度を参考にする。非利き腕を用い、骨折既往歴があれば反対側で計測する。
DXAにおける測定部位
DXA検査に関わる測定部位として、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン-2025年版-には上記のように定められている。
保険点数
DXAは約10分で検査可能であり、患者にとっても負担なく骨量を把握できる。また、同日に腰椎+大腿骨を検査した場合、最大450点の保険点数が算定できる1)。これは月200件の検査で90万円の収益が見込まれ、比較的、放射線科の検査の中でも収益性も高い検査といえる。
以上のように、DXAは骨粗鬆症診療において欠かせない検査であるが、同一患者を一定期間ごとに検査し、治療効果や骨密度変化を評価する際に再現性が重要であることは周知のとおりである。そこで、本記事ではDXAの計測値に影響する要素について、内因的要素(被検者の体内情報に関連する要素)・外因的要素(検者の検査方法に関連する要素)に分けて解説する。
計測値に影響する内因的要素
前述のように、DXAはX線の吸収値から骨量を算出するため、X線透過性に影響を与える下記の要素は骨密度の測定結果に影響する可能性がある。
1. 骨の変化による影響
最も多いのは骨棘や骨硬化といった慢性的な加齢性変化であり、高齢患者にしばしば見られる。これらは局所的な骨密度変化に影響するとされており、特に骨密度高値の原因になりうる。実際に当院にて以前腰椎骨密度を測定した女性患者723例(年齢50-80歳、平均70.0歳)を対象に各椎体の骨密度を調査したところ、L1:83.8% L2:83.8% L3:91.9% L4:94.9% と、変性の出やすい下位腰椎が有意に高値であった2)。そのため、腰椎は単一椎体での数値は用いないことが、ガイドラインにも明記されている。
また、脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症患者が最も多く経験する骨折であるが、これも局所的な骨密度高値の原因となる。特にL1など胸腰椎移行部は好発部位であり、例えばL1が圧迫骨折をきたすことでL1-4の骨密度平均値が持ち上がる、ということが散見される。L1を含めて検査することは骨折リスク評価の観点で重要であるが、一方で、骨折した際には腰椎骨密度評価に影響することに留意し、そのような除外椎体がないか確認する必要がある。ガイドラインでは、局所的な変化(硬化性変化など)やアーチファクトのある椎体は除き、それ以外の椎体の平均値骨密度とそのYAMに基づき評価すること、隣接椎体と比べて1.0SD以上の差がある場合はデータとして採用しないことと明記されている。
腰椎DXAの測定値の適応基準:
・通常L1-4またはL2-4の平均値を用いる。ただし局所的な変化(硬化性変化など)やアーチファクトのある椎体は除き、 それ以外の椎体の平均値骨密度とそのYAMに基づき評価する。
・1椎体しか評価できない場合はデータとして採用しない。
・隣接椎体と比べて1.0SD以上の差がある場合はデータとして採用しない。
・椎体ごとの数値は用いない。
腰椎DXAの測定値の適応基準
腰椎DXA検査時の測定値の適応基準として、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン-2025年版–には上記のように定められている。
大腿骨の場合、股関節にOA(osteoarthrosis:変形性関節症)の変化がある場合、特に大腿骨頚部(femoral neck)では骨密度高値の原因となる。しかし臨床では仮にOAがあっても検者側では認識されていないことが多いと推測される。そこで、両側大腿を撮影し、骨形態が正常な方で評価することが推奨されるが、検査の時間延長・複雑化にもつながるながるため、その運用については院内の状況に応じて選択するとよいと思われる。
大腿骨DXAの測定値の適応基準:
・全大腿骨近位部と頚部の骨密度のうちYAMに対するパーセンテージが低値の方を採用する。
・ウォード三角部骨密度は診断に使用しない。
・左右のいずれの測定でもよい。
・左右両方を測定した場合は低値側の値を診断に用いる。
・モニタリングには両側平均骨密度を用いることが可能で、全大腿骨近位部が望ましい。
大腿骨DXAの測定値の適応基準
大腿骨DXA検査時の測定値の適応基準として、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン-2025年版–には上記のように定められている。
2. 骨以外の領域による影響
軟部組織領域に異常な吸収値を含む構造物が存在すると骨密度計算に影響する。例えばステントグラフトや胆石、消化管ガス、造影剤などが挙げられるが、特に臨床でしばしば出会うのが動脈の石灰化である。腰椎腹側を走行する大動脈に高度な石灰化がある場合、骨領域の吸収値上昇に伴い骨密度高値の原因となる。一方でDXA撮像時の画像からは石灰化を認識できないことが多い。
椎体に重なる大動脈の石灰化の影響を避けるために、側面撮影という方法もあるが、現在のガイドライン上ではこの撮影は推奨されていない。理由としては、側面撮影時のポジショングの不安定さからその再現性が悪いこと、また、側面の体位をとると、今度は軟部組織内に動脈の石灰化が含まれるため、結局測定値の誤差が大きくなってくること等が考えられる。つまり、椎体と石灰化の重なりを避けたとしても、それ以外の誤差要因が避けられず、測定値が不正確となってしまう。
2次元のDXA検査である以上、被写体に重なる石灰化の影響を避けるのは限界があるものの、その際は大腿骨など他の部位での測定結果も参考にするとよいと思われる。実際、国際的には大腿骨近位部骨密度が広く用いられている。
当院が使用しているGEヘルスケアの装置では、撮影範囲内に胆石等の極端に吸収値が異なる構造物が存在するとき、自動で「アーチファクト」として処理される。また、「骨領域」「軟部領域」だけでなく「ニュートラルポイント」という概念があり、骨量計算のうえで重要な機能だと感じている。これにより、腰椎横突起部など2次元画面上に軟部組織と骨が混在する部分や、大腿骨撮影範囲内の厚みが違う部分を計算から除外することができ、正確な検査の一助となっている。
軟部組織領域とニュートラル領域
計測値に影響する外因的要素
DXAでは検者による検査方法も計測結果に影響する可能性があり、これを筆者は外因的要素と呼んでいる。意識すべき点として大きく「ポジショニング・撮影範囲・解析方法」を挙げる。
1. ポジショニング
腰椎が斜位になっている場合や、大腿骨が内転位または外転位にある場合、さらに腰椎や大腿骨が左右方向の正中から大きくずれている場合などは、測定の正確性に影響を及ぼす可能性がある。特に大腿骨の場合、下肢を軽度内旋する肢位をとるが、高齢患者の場合内旋の維持が困難なことも多い。例えば当院の場合、下腿外側に砂嚢を置くことでそれを補助している。「DXAによる骨量測定3)」によると「大腿骨内転・外転・下肢内旋の中で、下肢内旋不良が最も再現性低下につながる」と記述されていて、各施設でもいかにして毎回同様の肢位で検査できるようにするか、検討することが大切だと考える。
当院での工夫内旋の維持が困難な場合に下腿外側に砂嚢を置いて補助を行う様子
このように、ポジショニングは非常に重要であるがために技師の業務負担となりえる。これに対し、GEヘルスケア社のDXA装置では、大腿骨と腰椎撮影時にポジショニング変更が不要なOneScan機能がある。足を伸展した状態で検査を行うことができるため、高齢患者の負担が少なく、安定した測定が行える。また、ポジショニング変更にかかる技師の業務負担も軽減できて検査時間の短縮にもつながる。安定した測定と業務負荷の軽減の点で、非常に有用な機能だと筆者は感じている。
理想的なポジショニング(腰椎&大腿骨の場合)照射方式に鋭角ファンビーム方式を採用しているGEヘルスケアのDXA装置の場合、
幾何学的拡大誤差が少ないため、腰椎と大腿骨は足を伸展したまま撮影することができる。
2. 撮影範囲
一般的なDXA装置の解析範囲の決め方には2種類ある。撮影範囲に基づいて解析範囲が自動設定される方式と、撮影範囲内から操作者が手動で解析範囲を設定する方式である。GEヘルスケア社のDXA装置は前者を採用しており、入力された身長の情報から自動的に適切な撮影範囲が設定され、その撮影範囲がそのまま解析範囲となる。そのため、後者に比べて解析範囲を毎回手動設定する必要がないというメリットがある。しかし、この自動設定の方式であっても、実臨床では患者様の状態は様々であるため、実際に適切な撮影範囲になっているかどうかは常に確認してほしい。
例えば腰椎の場合、尾側から頭側に向けて撮影していくが、患者によっては上方を撮りすぎると肋骨や肺などが撮影範囲内に含まれてしまう。その結果、さまざまな吸収体が解析領域内に存在することとなり、適切な軟部組織領域の設定に支障をきたし、測定結果に影響してしまう可能性がある。つまり、検査部位(腰椎/大腿骨近位部)が入っていればいい、というわけではなく、適切な撮影範囲にとどめることが大切であるといえる。
腰椎撮影時に上方を撮りすぎた例
理想的な撮影範囲(腰椎&大腿骨の場合)
また、ポジショニング時に被検者の外観のみを見て、撮影開始位置をおよそ腰椎正中かつL5の下端に設定するのは、経験の多い技師でも困難な場合がある。この場合もまた、不適切な撮影範囲になるため、撮影開始後に測定開始位置が適切な位置でないと認識したら、一時中止して、改めて適切な開始位置にて再撮影するべきである。
リポジショニング機能
GEヘルスケアのDXA装置の場合、測定開始位置が適切でないことが発覚した際に、
コンソール上で修正して再撮影が可能。
3. 解析方法
3-1. 初回解析時のポイント
DXAの撮影で得られた画像は単純X線写真と比べると往々にして鮮明でなく、解析領域(ROI)の設定に難儀なことも多い。L2をL1と捉えるなど椎体を誤認したり、椎間に引く椎間設定の線を椎体の中に引いてしまうこともある。その結果、測定されたYAM値比較(%)が大きく変わってしまった、ということも経験する。そのため筆者は、DXAを施行する患者はガイドラインにも記載されているように、腰椎X線写真も撮影しておくことを推奨する。X線写真と見比べてROIを設定することで正確な解析につながる。
大腿骨解析時は「全大腿骨近位部」と「頚部」を用いる。前述の大腿骨DXAの測定値の適応基準に記載のとおり、全大腿骨近位部と頚部の骨密度のうちYAMに対するパーセンテージが低値の方を採用する。
全大腿骨近位部(左)と頚部(右)
全大腿骨近位部で評価部位を統一している、という施設も多いかもしれないが、一方でYAM値比較70%以上であっても一方では70%未満、ということもしばしばあり、骨密度の過大評価となる可能性がある。実際に当院が以前大腿骨骨密度を測定した女性患者309例(年齢60-89歳、平均78.2歳)を対象に二部位の骨密度を調査したところ、頚部の方が低値であった症例が53.7%あった4)。そのため、可能な施設は両部位ともに評価することを推奨する。
解析時の確認ポイント
腰椎の場合
①腰椎の各椎体の同定:L1-4が同定されているか
②ボーンエッジが適切に設定されているか
③軟部組織領域が適切に設定されているか
④椎間設定が適切に設定されているか
大腿骨の場合
①ボーンエッジが適切に設定されているか
②軟部組織領域が適切に設定されているか
③大腿骨頚部軸の設定:頚部中央をとおり、大転子下端に達する。
④大腿骨頚部ROIの設定:メーカーによって異なるので注意が必要。頚部軸とは直角に設定する。 GEヘルスケア社の場合は頚部最狭部に設定する。
3-2. 2回目以降の解析時のポイント
「ROIを全て自分で設定する」という装置もあるが、GEヘルスケア社のDXA装置では、椎体のROIや大腿骨転子部・頚部のROIが撮影後個々の骨形態に合わせて自動で設定される。一度設定したROIは、次回以降の検査でコピーして使用することもできるため、誰が検査しても同様の解析ができ、再現性の点で有用である。普段X線写真について見慣れないスタッフにとっては特に重宝される。もちろん微妙なズレは適宜修正できるようにもなっている。
コピーROI機能
一度設定したROIは、次回以降の検査でコピーして使用することができる。
また、検査2回目以降の患者では時系列の骨密度を表示した「トレンド」を確認することも大切である。短期間で大きな変化があった場合にはこれまで示したような検査不良が起きている可能性がある。再解析、場合によっては再撮影することも検討すべきであろう。
トレンド表示
BMDに短期間で大きな変化があった場合、検査不良が起きている可能性がある。
ここまで、計測値に影響する要素について述べた。なぜこれらの点が重要であるのか、一言で表すと「検査不良により軟部組織情報やROI内の骨領域情報が変化する要因となり、結果として計測値に影響する」からである。そのため、検者による影響を最小限にすべく、各施設では検査方法の厳密なマニュアルを整備することを推奨したい。
おわりに
2025年現在、国内の骨粗鬆症患者数は推定で1,600万人ほど存在するといわれ、その約8割は未治療であるTreatment Gapが問題となっている。その大きな要因として骨粗鬆症検診受診率の低さと、治療継続の困難さが挙げられる。
骨粗鬆症検診受診率に関して、国際骨粗鬆症財団では40歳以上の女性には骨粗鬆症検診を受けることを推奨しているが、その受診率は約5.5%で、乳がん検診(47.4%)や子宮頸がん検診(44.8%)よりもはるかに低い5)。骨粗鬆症検診が普及しない主な理由は、たとえ自分が骨粗鬆症かもしれなくても「痛くない」「困ってない」「(骨粗鬆症といわれても)怖くない」と捉えてしまうためだと思われる。そこで当院では下記に示すようなポスターを独自で作成し、院内で掲示および地域連携先の病院等に送付し、骨密度検査についての啓発活動を広く行っている。骨粗鬆症マネージャーとして、DXAに携わるスタッフとして、骨粗鬆症のリスクを地域住民に伝え、検診を通して1人1人が骨密度を意識するようになることを願ってやまない。
当院の啓発ポスター
このような現状の中、厚労省は2024年4月1日からスタートした「健康日本 21(第三次)」の中で、生活習慣病の発症予防・重症化予防として『骨粗鬆症検診受診率15%』の目標を掲げた。今後、多くの潜在的骨粗鬆症患者が拾い上げられてくることは大変喜ばしいが、その精査を受け持つDXA検査は、正確な診断のための高い測定精度が求められることになる。
また、診断がついた後は患者に治療効果を実感してもらい継続治療に繋げていく必要がある。多業種による連携体制を整えていくことはもちろんであるが、DXA検査についていえば、モニタリング時に治療効果を捉えることのできる、しっかりとした再現性を担保することが重要だと言える。
そのためにも、導入したDXA装置それぞれの特性を知っておく必要がある。DXA装置はメーカーによって装置特性が異なる。DXAに携わるスタッフには、本稿で紹介したような内因的/外因的要素に対して、使用しているDXA装置の特性を知り、様々な機能を活用しながら、正確かつ再現性の高い検査を目指していただきたい。その正確な検査結果は、医療スタッフのみならず、患者が自身の病態を理解し、治療に対するモチベーションを維持するうえで最も大切なものである。本稿がその一助になることを願う。
参照文献:
1)厚労省 令和6年 医科診療報酬点数表
2)平野智貴 他「腰椎骨密度検査における椎体高位の検討」第25回日本骨粗鬆症学会
3)「図説DXAによる骨量測定—腰椎と大腿骨近位部—」
ライフサイエンス出版
4)平野智貴 他 「大腿骨近位部における骨密度評価」
第24回日本骨粗鬆症学会
5)公益財団法人 骨粗鬆症財団 骨粗鬆症検診率