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Lunar iDXA

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PRODIGY Fuga

※お客様のご使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。

Lunar iDXA  販売名称:X線骨密度測定装置Lunar iDXA
医療機器認証番号:21800BZX10007000

PRODIGY Fuga  販売名称:X線骨密度測定装置 PRODIGY
医療機器認証番号:21500BZY00582000
PRODIGY FugaはenCORE SW V16.sp1以降のVersionを搭載する
上記医療機器のニックネームです

骨粗鬆症性椎体骨折における全身DXA法の有効性

国立長寿医療研究センター運動器外科(整形外科)
酒井 義人 先生



加齢による骨量の減少と骨粗鬆症
我が国は未曾有の超高齢化社会に突入しており、運動器の障害により移動能力が低下し、要介護の危険が高い状態である「ロコモティブシンドローム」という概念が2007年に日本整形外科学会から提唱されています。そのなかでも骨粗鬆症に伴う骨折が高齢者の日常生活における動作を著しく低下させるため、予防的観点から骨粗鬆症治療が重要であることは言うまでもありません。骨粗鬆症は、骨密度や強度の低下によって骨の脆弱性が高まり、骨折する危険性が増大している病態です。一般的には骨量の計測で評価することが多く、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA ; dual energy X-ray absorptiometry)が用いられています。我が国における原発性骨粗鬆症の診断基準(2015年版)は、若年成人の平均値を基準としたYAM(young adult mean)値が、脆弱性骨折がない例で70%未満、脆弱性骨折がある例で80%未満と設定されています1)。ここでいう脆弱性骨折とは女性では閉経以降、男性では50歳以降で、軽微な外力で生じた大腿骨頚部骨折、椎体骨折を意味します。65歳以上の女性はもとより男性でも70歳以上のであれば骨折リスク評価のため骨密度測定が有効とされています。骨粗鬆症診断にはDXA法を用いて腰椎と大腿骨近位部の両者を測定することが望ましいとされ、YAM値が1SD(10-12%に相当)低下すると、骨折リスクは1.5~2.6倍になるとされています。現在、骨粗鬆症患者は年々増加し、1300万人と推測されています。


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骨粗鬆症性椎体骨折
椎体骨折は最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折ですが、痛みなどの症状がなく発生する場合も少なくなく、正確な有病率は分かっていません。高齢者の転倒後の腰背部痛の際は単純X線撮影を行うことがもちろんですが、外傷がなくとも定期的にDXAを計測したり、円背や前傾といった患者さん自身の姿勢の変化から医療者が気づいてあげることも重要です。また超高齢者や既存椎体骨折などがある場合は単純X線では新鮮骨折か判断できず、MRI脂肪抑制画像を行わないと診断できないこともあります。(図1)


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図1. 92歳女性、第12胸椎骨折例
特に外傷なく腰痛を自覚し単純X線では明らかな骨折を認めず(a)、
MRI脂肪抑制画像で第12胸椎椎体の信号変化を認め骨折と診断した (b)。
上位腰椎におけるDXAではYAM値57%と高度な骨粗鬆症であった (c)。



骨粗鬆症性椎体骨折の治療は手術を行うことは稀で、我が国では90%以上の症例に保存治療が施されています2)。骨折した椎体後壁が脊柱管内に突出して運動麻痺や耐えがたい神経痛などの神経障害を呈する場合や、骨癒合が起こらずに偽関節状態となり強い腰背部痛が持続する場合は外科手術を考慮しますが(図2)、骨折部が安定化するまで安静を取り、適切なコルセットを装着させるなどの初期治療をしっかり行うことで、手術治療はほとんど回避できます。


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図2. 73歳女性、第12胸椎および第1腰椎骨折手術例
転倒により受傷、他院で保存治療を行うも両下肢麻痺出現し手術目的に紹介された。
MRIでは、第12胸椎および第1腰椎骨折により脊髄が圧迫されていた(a)。
椎体形成術および胸腰椎後方固定術を行い(b)、麻痺が改善し自立歩行可能となった。
腰椎DXAでは高度骨粗鬆症であり(c)、術後はビスホスホネート製剤による骨粗鬆症治療を継続中である。



もちろん骨粗鬆症治療をしっかりと行うことは言うまでもありません。既存椎体骨折が存在する場合の新たな椎体骨折の発生リスクは約4倍です3)。椎体骨折と後弯変形との関連も明白であり、死亡率が約1.6倍に増加すると報告されています4)。そのため椎体骨折を起こした患者さんに対しては次の椎体骨折を起こさぬよう、必ず骨粗鬆症の評価を行う必要があります。



なぜ全身DXAが必要か?


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X線骨密度測定装置 Lunar iDXA



骨粗鬆症性椎体骨折の治療で骨粗鬆症の評価は腰椎や大腿骨のDXAで行いますが、では何故全身DXAが必要なのでしょうか?それはサルコペニアの評価が重要だからです。(サルコペニアについてはLunar News 05「DXA活用 腰痛とサルコペニア」を参照)骨粗鬆症性椎体骨折の保存治療の成績を男女別に評価したところ、骨密度は実はあまり関連がなく、女性では骨粗鬆症の治療をしているかどうか、男性ではサルコペニアの有無すなわち全身骨格筋量の多さがそれぞれ治療成績に影響していたのです。(図3)


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図3. 骨粗鬆症性椎体骨折の保存治療成績
女性では骨粗鬆症治療により長期的に安定した成績が得られている。
一方男性ではサルコペニアの状態の患者では短期成績が不良であった。



また退院後の生活の場ですが、男性のサルコペニア患者さんでは女性と比べて有意に自宅復帰率が悪いことも指摘できます。(図4)通常、男性では女性と比べて骨粗鬆症になりにくいため骨密度よりもむしろ加齢による骨格筋の減少、すなわちサルコペニアが重要になってくるようです。


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図4. 男女別にみたサルコペニアの有無と骨粗鬆症性椎体骨折保存治療後の退院先
女性ではサルコペニアにより退院先は変わらないが、男性サルコペニア患者は有意に自宅退院率が低い。



骨密度だけの評価であれば腰椎や大腿骨のDXAで十分ですが、サルコペニアの評価は全身のDXAを計測しないとできません。より安価で簡便な生体電気インピーダンス法(BIA)を用いることにより全身の骨格筋量は評価可能ですが、骨粗鬆症性椎体骨折の患者さんは通常起立保持できないことが多く、BIAでは計測できないことが多いため、臥位で骨と筋の両方が同時に評価できる全身DXAが非常に有用なのです。



骨粗鬆症性椎体骨折に対して最良の治療を
骨粗鬆症性椎体骨折の治療の第一歩は骨折部の安静です。当センターでは高齢者の骨粗鬆症性椎体骨折は歩行可能、不可能に関わらず通常と比べてADLが低下していれば入院の適応となります。(図5)


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図5. 当センターにおける骨粗鬆症性椎体骨折の治療方針



単純X線で新鮮骨折か判断しにくい場合は直ちにMRIを撮り診断し、原則的に硬性コルセットを作成します。骨折が判明したら絶対にコルセット装着しない状態で動かすことはせず、ベッド上で四肢筋力訓練を行います。同時に全身DXAを行い骨密度および骨格筋量を評価し、骨粗鬆症治療の必要性や減少している部位の骨格筋量に応じて筋力強化訓練を行います。離床や移動、起立の指導は理学療法士が個別に対応し、骨折椎体に前屈の応力が加わらないよう姿勢指導していきます。整形外科病棟における急性期治療は2週間ほどで完了し、当センターでは患者さんの状況に応じて、その後の回復期病棟や包括ケア病棟へ転棟しリハビリを継続することにより自宅退院を目指します。このように後方支援設備がしっかりしていることで比較的長期の入院リハビリ治療が可能となり、当センターでは99%の患者さんが保存治療により退院されていきます。適切な治療を行うことにより外科手術が必要になるケースはほとんどですが、その背景には全身DXAによる評価に基づく骨粗鬆症治療とサルコペニア対策が重要なのです。




参考文献

1) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会, 日本骨代謝学会, 骨粗鬆症財団)編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. 東京, ライフサイエンス出版, 2015.

2) Harada A, Matsuyama Y, Nakano T, et al: Nationwide survey of current medical practices for hospitalized elderly with spine fractures in Japan. J Orthop Sci. 2010; 5(1):79-85.

3) Kadowaki, Tamaki J, Iki M, et al: Prevalent vertebral deformity independently increases incident vertebral fracture rik in miuddle-aged and elderly Japanese women: the Japanese Population-based Osteoporosis (JPOS) Cohort Stury. Osteoporosis Int. 2010; 1: 513-1522.

4) Kado DM, Lui LY, Ensrud KE, et al: Hyperkyphosis predicts mortality andependent of vertebral osteoporosis in older women. Ann Intern Med 2009; 150: 681-687.