施設紹介
千葉大学医学部附属病院では2021年1月に中央診療棟が新しく稼働を始め、放射線部エリアには廊下・待合・検査室など 患者動線全てに先進的な環境照明を導入し、患者様からはご好評を頂いている。(図1)。
核医学部門ではSPECT/CT装置を2台所有し、Infinia Hawkeye4からNM/CT870 DRに更新した。解析ワークステーションもXeleris2.0から4.1に変更され、臨床に生かせるよう様々な工夫を行っている。

図1 環境照明を導入した核医学検査の受付とSPECT/CT検査室
肺換気血流シンチグラフィについて
本稿では肺換気血流シンチグラフィにおけるSPECT/CTの有用性と定量評価について報告する。
99mTc-MAA(planar像)は長年、急性肺血栓塞栓症の診断に用いられてきたが、典型例の肺血栓塞栓症の診断には問題ないが、planar像での肺換気/血流(V/Q)スキャンに基づくPIOPED改訂診断基準でintermediateが多いことが課題として指摘されている。しかし、SPECT装置の導入により診断が困難であった亜区域の診断がV/Q SPECT によって向上し、CT 肺動脈造影よりも優れた結果が多く報告されるようになった1) (表1)。これは、planar像では、小さな病変の前後方向の肺血流に埋もれて、欠損がはっきりしない場合でも、SPECT像では薄いスライスにより横断像、矢状断像、冠状断が容易に得られ病変部の欠損がはっきり描出されることが貢献している。V/Q SPECT での急性肺血栓塞栓症の診断基準は PIOPED の診断基準よりもかなり簡略化されている2)(表2)。また、肺高血圧症の診断アプローチにおいても肺換気血流シンチは有用である。①肺高血圧症と診断され、換気血流シンチグラフィでミスマッチを認めなければ肺動脈性高血圧症(PAH)、②換気に異常を認めなく、少なくとも区域以上の血流欠損を認めれば慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)、③換気に異常を認める血流欠損では換気障害型肺疾患に伴う肺高血圧症とされている3)。また、CTEPH末梢型では胸部造影CT上血栓を明らかに認めない例があり、診断困難な場合がある。肺換気・血流スキャンとマルチスライスCTの診断能を比較した研究では、換気・血流スキャンの感度96~97.4%、特異度90~95%であったが、CTではそれぞれ51%、99%であり、換気・血流スキャンは感度で優っている。それ以外の報告でも、肺高血圧症診断において、換気・血流スキャンは、肺動脈性肺高血圧症とCTEPHの鑑別において重要な検査とされている3)。

表1 急性肺血栓塞栓症の診断精度比較

表2 V/Q SPECT での急性肺血栓塞栓症の診断基準
臨床例
① 急性肺塞栓症治療後
SPECT/CTが有用であった症例を提示する(図2)。急性肺塞栓症の治療効果判定と換気血流ミスマッチの有無の確認目的でplanarでは明らかな換気血流ミスマッチを指摘できないが、右肺S5にわずかな欠損像が疑われた。SPECT/CTで撮像することにより、明瞭に把握することができる。

図2 肺換気血流シンチグラフィのplanar像とSPECT像
② CTEPH
CTEPH疑いにて検査を施行し、BPA治療前評価を行ったplanar画像を図3に示す。

図3 CTEPHにおける換気血流シンチグラフィのplanar像
左図はCTEPH疑いのため検査、右図がBPA治療前評価の画像。
上段はTc-MAAで下段はKrの画像。
planarにおいてもミスマッチ領域が拡大していることが把握でき、SPECT/CTを用いることで区域を超えた欠損を容易に把握できる。また、Q.Lungを用いることでミスマッチ領域を視覚的にも定量的にも把握しやすくなる。(図4)

図4 CTEPHにおける換気血流シンチグラフィのSPECT像とQ.Lung
上段のSPECT/CT像はKr、中段はTc-MAA、下段はミスマッチ領域。
ミスマッチ領域は赤く表示されミスマッチ領域は4%から34%へと拡大している。
③ Q.Lung
肺癌手術の機能的適応を決定する手段として肺血流シンチグラフィによる残存呼吸機能予測が多く用いられている。この方法による予測呼吸機能と術後実測値は強く相関するとされている。
予測値の80%未満のFEV1またはDLCOの患者は高リスク患者と定義され、術後の予測FEV1およびDLCO(ppoFEV1およびppoDLCO)を計算することにより、手術後の呼吸機能を推定する必要がある。従来planar像を等分割にすることで肺血流左右分布を測定していたが、SPECT像を用いることにより、肺葉レベルの評価をより正確に行うことができる(図5)。また、図4のように肺区域ごとの換気と血流の比較や取り込みのミスマッチ領域を定量的に評価できる。

図5 肺血流左右分布
左図がplanarによる測定、右図がSPECTからQ.Lungを用いた測定
まとめ
今回、肺換気血流シンチグラフィのSPECT/CTの有用性と定量評価について述べた。
肺換気血流シンチグラフィは慢性肺血栓塞栓症では感度・特異度ともに高い検査であり、背景として肺に器質的変化がある場合、肺血栓の有無詳細の精査においては換気検査の評価を行うことが望ましい。
検査においてはSPECT/CTを追加することで、解剖学的位置関係が明瞭となり左右肺の重なり合いのみでなく、肺実質の重なりも避けることが可能となり検出精度が向上する。また、Q.Lungを用いることで換気、血流の画像を肺区域ごとに容易に比較でき、ミスマッチ領域を表示することができる。また、信頼性の高い術後肺機能評価が可能となる可能性がある。今後は、SPECT/CTを用いた有用性を検討していきたいと考えている。
参考文献
1) Reinartz P, Wildberger JE, Schaefer W, Nowark B, Mahnken AH, Buell U. Tomographic imaging in the diagnosis of pulmonary embolism: a comparison between V/Q lung scintigraphy in SPECT technique and multislice spiral CT. J Nucl Med 2004;45:1501–1508.
2) Bajic M, Neilly B, Miniati M, et al. Methodology for ventilation/perfusion SPECT. Semin Nucl Med 2010;40:415–425.
3) 日本循環器学会 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)