※お客様のご使用経験に基づく記載です。仕様値として保証するものではありません。
はじめに
九州大学病院は,自施設にサイクロトロンを保有しており,18F-FDGを用いた全身PET検査・心臓PET検査に加えて,11C-メチオニン検査,各種の治験に対応した検査を行っています。
2023年3月からGE HealthCare社製の半導体型PET-CT装置Omni Legend 32 (図1) を臨床稼働しています。この装置は,当院が国内において2施設目に稼働を開始しており,2023年3月から2024年1月までに1370症例の検査を行ってきましたので,その使用経験と臨床的な価値についてご紹介いたします。
図1. 当院に導入されたOmni Legend 32の全景
BGOシンチレータを用いた半導体型PET-CT装置の臨床的価値
図2. NEMA body phantomによる放射能と検出効率の関係
Omni Legend 32の体軸方向視野は32cmであり,オーバーラップを25%に設定することで,成人の頭頂から鼠径部までを4ベッド (104cm) で十分にカバーすることができます。そのため,体幹部に呼吸同期 (データ使用率50%) を行っても12分で収集を完了することが可能です (図3)。当院では従来,同様の検査に18から21分かかっていましたので,大幅なスループットの向上を図ることができました。
図3. 収集時間と画質の関係 (BMI = 34.9, Q.Clear β値 = 300, Precision DL・ 呼吸同期含む)
BGOシンチレータを用いることでTOF技術を利用できないことが導入前の関心事項の一つでしたが,AIを用いてTOFを付加した画像と付加していない画像を学習した「Precision DL (PDL)」を用いることによって,問題なく読影できる画像を提供できているという評価を放射線科医師から得ています。PDLにはLow, Middle, Highの3段階があり (図4),当院ではMiddle PDLを用いています。
図4. Precision Deep Learning (PDL) と画質の関係
(BMI = 27.2, Q.Clear β値 = 300, 呼吸同期含む)
また,痛みが強い患者や,安静保持が困難な患者に対しては,1ベッドあたり1分間の収集とすることによって約4分で検査を完了するプロトコルを設定しています。このような短時間収集に対しても,Q.Clearにおける適切なβ値の設定とPDLの利用によって十分に診断可能な画像を提供することが可能です。
デバイスレスの呼吸同期システム
当院ではこれまで,腹部に圧感知センサを装着することによって呼吸同期データを取得していました。圧感知センサを用いる欠点として,装着の仕方による取得データの不良や体位によっては取得困難になる場合がありました。
Omni Legend 32に搭載されている「Advanced motion free (AMF)」はデバイスレスで,rawデータを解析することによって呼吸位相のデータを取得するため,前述のような欠点がありません (図5 左)。実際に臨床において疼痛のために仰臥位になれず,側臥位のまま短時間収集した症例においてもAMFによって呼吸のズレがない画像を提供することができました (図5 右)。また,リアルタイムに呼吸位相の解析を行い,呼吸によるズレの大きさによってベッド毎に呼吸同期が必要か自動的に判断されるため,無駄のない収集時間を設定することが可能です。
図5. Advanced motion free (AMF) の効果 (左)と側臥位の症例 (右) (Q.Clear β値 = 300 + Middle PDL)
Deep Learning 3D カメラによる患者セットアップ
Omni Legend 32には「Deep Learning 3D カメラ」が付属しています。これは天井に取り付け,寝台とガントリの前面を写すカメラで,被写体の3次元的な形状や位置を解析することができます。Deep Learning 3D カメラを用いることで,患者を寝台に寝かせた後はボタンを一つ押すだけで撮影の初期位置へ寝台が移動し,検査を開始できる状態にできるシステムとなっています。このシステムを用いることで,患者セットアップが簡便かつ不遍化し,技師は患者への説明と患者安全に注力できるようになりました。安全かつ患者に満足してもらう医療を提供する上で,価値の高いシステムだと感じています。
また,当院の技師3名が患者5名セットアップする時間をそれぞれ測定したところ,Omni Legend 32では従来の装置に対して約20 % 短いという結果となり,患者セットアップ時間の短縮にも貢献できることが確認できました。
まとめ
導入から約10ヶ月間Omni Legend 32を使用して,検査をスムーズかつ短時間で実施することができ,臨床上有用な良質な画像を提供することが可能でした。
Omni Legend 32は,BGOシンチレータを用いた半導体検出器による高い検出効率を持つ特徴と,それを活かすためのデータ取得・画像再構成技術や検査を支援するシステムによって,患者にとっても医療を提供する我々にとっても大きな価値を持った装置であると考えます。