SIGNA™ Hero による内リンパ水腫の描出
社会医療法人高清会高井病院 放射線科
土'井 司 先生、辻 博之 先生、後藤 周也 先生、赤澤 克明 先生
はじめに
本院は、奈良盆地のほぼ中央部東方の天理市に位置する350床の中規模病院である。約100年前の1920年に高井医院として開設され、1981年に高井病院に、2010年には社会医療法人となり地域密着型の急性期医療施設でもあり、回復期リハビリ病棟や地域連携ケア病棟も併設した病院である。県内でもいち早くCT(1979年)や血管撮影装置(1986年)、MRI(1989年)、ガンマナイフ(1993年)、リニアック(2001年)、PET(2002年)、マンモPET(2017年)、陽子線治療(2018年)を導入し、民間病院ではたぐいまれな放射線診療機器が充実している施設でもある。
この度、3.0T MRI 装置の更新にあたってヘリウム消費量がゼロに近く、撮像時間が短くなって高品質な画像を合理的に取得できることを基本要件に選考をすすめた。いずれのメーカのMRI装置も性能に大きさ差異はなく、検査時間の短縮、AI(artificial intelligence)を活用しての画質の向上技術などが搭載されており、装置の特性がどれだけ施設にマッチするかがポイントだと考えた。その中でSIGNA™ Heroの特長として、
① マグネット本体の重量が他装置より350kg軽い。
② 傾斜磁場強度ならびに傾斜磁場の立ち上がり強度が高い。
③ 体幹部コイル(AIR™コイル:adaptive imaging receive coil)が毛布のようで自由度と汎用性が高い。
④ 患者の位置決めが寝台に埋め込まれたタッチセンサーでできる。
の4点が印象的に思えた。
1.装置を更新したら・・・
本院は奈良県立医科大学の関連病院のこともあって、耳鼻科からメニエール病の主原因となる内リンパ水腫の描出を目的とする撮像の依頼がある。前装置では、長縄先生が論文で示されている条件に基づいて撮像すれば目的とする内耳の画像がほぼ取得できていた1)。しかし、SIGNA™ Hero に更新した途端にこれまでと同様の画像が得られなくなったため、原因を追究することにした 。
2.内リンパ水腫とは
内耳の前庭と三半規管はリンパ液で満たされ、身体の回転や傾き、重力、加速度を感知し、内耳神経を通じて情報を脳に送り身体のバランスを維持する役割を担う。リンパ液は内リンパと外リンパに分かれ、内リンパ液は細胞内液に似た成分で高電位、カリウムイオンを多く含み膜迷路(内耳の骨迷路内にある膜状の袋)を満たす。一方、外リンパ液は脳脊髄液に似た成分でナトリウムイオンを多く含み、骨迷路(内耳を覆う骨製の管腔)と幕迷路の間隙を満たす[図1 A]。
図1 内耳の解剖図(国立長寿医療研究センターのホームページから引用2))
正常の内耳(A)に対し、内リンパ水腫(B)は膜迷路内の内リンパ液が増加し、膜迷路の容積が増大した状態(黄色:内リンパ、青色:外リンパ)
内リンパ水腫とは、幕迷路内の内リンパ液が増加し、膜迷路の容積が増大した状態をいう2)[図1 B]。
3.HYDROPS像とは
HYDROPS像(hybrid of reversed image of positive endolymph signal and negative image of perilymph signal)とは、ガドリニウム造影剤が血液と外リンパ関門を通過するのに対して、血液と内リンパ関門および外リンパと内リンパ関門は造影剤が通過しない特性を利用して、造影効果の最も顕著となる4~6時間後の外リンパ液と内リンパ液を差分することで、液体組成が変化した状態を描出する画像である3)。
4.HYDROPS画像の撮像法
撮像シーケンスは、180°-90°-180°パルスを基本としTEを長くしたheavy T2強調3D-FLAIR(three dimensional fluid attenuated recovery)法を用いる[図2]。
HYDROPS像は、ガドリニウム造影剤を投与後4時間後のheavy T2強調3D-FLAIR 法で得られた「外リンパ陽性像[図3-A,D,G(PPI:positive perilymph image)]」から「内リンパ陽性像[図3-B,E,H(PEI:positive endolymph image)]」を減算して求める。外リンパ陽性像:PPIとは、ガドリニウム造影剤を含まない内リンパ液(細胞内液)の信号をnull point(CSF抑制)として外リンパ液の造影の程度のみを描出する画像である(図2 青線①が造影剤を含む外リンパ液の信号回復曲線)。一方、内リンパ陽性像:PEIとは、ガドリニウム造影剤を含む外リンパ液の信号をnull point(造影信号抑制)にして、脳脊髄液を含む内リンパ液を高信号に描出する画像である(図2の赤線②が造影剤を含まない内リンパ液の信号回復曲線)。HYDROPS像は、造影剤を含む外リンパ液が高信号に強調され、造影剤を含まない内リンパ液が無信号になった画像となり、無信号の内リンパ液腔が膨らんだ部分を内リンパ水腫と診断する2)。
図2 HYDROPS像を得るためのTIの異なった2種のheavyT2強調3D_FLAIR法の信号変化曲線
5.SIGNA™ HeroによるHYDROPS像の撮像
撮撮像は、0.6×0.6×0.6(1.2)mmのisotropic image(スライス1.2mm厚のオーバーラップスキャン)のCubeを用いた。しかし、HYDROPS像がうまく描出されないのでPPIならびにPEIそれぞれに異なった係数をかけてHYDOROPS像が描出できないかを試みたが、一向に改善しないため画像を見直していたところCube T2 FLAIR単純像(TI2250ms)のCSFの信号が低下していないことに気づき、TIを変化させてみることにした。
図3 正常HYDROPS像 PPI:positive perilymph image(A,D,G)、PEI:positive endolymph image(B,E,H)、HYDROPS(C,F,I)
するとCSFの信号はTI2350ms でnull pointとなった。これまでの他社MR装置では、TI2250msだったので100msの延長である[図2-青線①]。同様に造影された外リンパ液のnull pointはTI1950msとなり、先行論文に示されるTI2050msより100msの短縮となった[図2赤線②]。その原因はk空間の充填方法の違いだと推測している。撮像条件は図4に示すとおりである。加算回数は前装置の半分のNEX 2であるが、AIR™ Recon DLを加えることで撮像時間は約40%に短縮できた。使用コイルは、前装置では32chのHeadコイルであったが、SIGNA™ Heroでは21chのHead-Neckコイルである。ただし、上記データはあくまで本院の前装置との比較結果であることに留意が必要である。一方で、これまでGEHC製MR装置においてはHYDROPS像取得に関する明確な撮像条件が十分に提示されてこなかった。
今回得られた結果は、GEヘルスケア製MR装置におけるAIR™ Recon DLを用いたHYDROPS撮像条件検討の起点となるものであり、その意義は大きいと考える[図3]。
6.内リンパ腫の画像診断の流れ
例えば図5の症例では、1)単純脳槽像で小脳橋角部、内耳道内に占拠性病変は認めない。膜性迷路に形態異常を認めない[図5-A]。2)造影早期のFLAIR像で両側聴神経、顔面神経の腫大、濃染などは認めない。内耳構造に異常濃染を認めない[図5-B]。3)造影4時間後の外リンパ陽性像で左前庭に信号欠損[図5-C]、内リンパ陽性像で高信号を認める[図5-D]。4)HYDROPS像で左前庭に信号欠損を認め左右差がある。内リンパ水腫を疑う[図5-E]。以上のようなコメントとなる。
TI2350からTI1950のFLAIR像を減算した時のTI2350、TI1950とHYDROPS像の外リンパと内リンパの描出信号を図6に示す。臨床では、TI1950の像を白黒反転させ、TI2350+inverseTI1950を加算したHYDROPS像を参照情報として作成している[図5-F]。
図4 HYDROPS像を得るための撮像シーケンス
図5 HYDROPS像の画像診断の流れ ( A → B → C → D → E → F )
A) MR cisternography (plain) , B) +CE 直後 FLAIR [TI 2350] , C) 外リンパ陽性像:PPI [TI 2350],
D) 内リンパ陽性像:PEI [TI1950] , E) HYDROPS [TI 2350 - TI 1950] , F) HYDROPS [TI2350 - inverse TI 1950]
図6 各画像の外リンパと内リンパの描出信号
7.さいごに
撮像条件のTIは、組織に固有の値で装置によって変化しないと思い込んでいたのが今回覆された。もし自施設の装置でHYDROPS像を撮像される場合は、外リンパ陽性像でCSFが無信号になっているか、内リンパ陽性像で造影剤が無信号になっているかを確認したうえで画像処理をしていただきたい。今回のTIを求める際には50ms間隔でしか検討していないので、もっと適正なTIがあるかもしれないし、いずれの被検者に対しても造影剤を全量の15mLを投与しているので体重当たりの造影剤量は異なっている。以上のことを鑑みると、さらに画像の鮮鋭度が向上する余地があるように思える。
今回の経験で、まだまだ装置固有の撮像条件があることが明らかになった。同じスペックの装置であれば、他の装置で撮像できて自施設の装置で撮像できないことはないと信じて取り組むことが大切で、画像の成り立ちと撮像シーケンスを考えるよい機会となった。
参考文献
1)長縄慎二:内耳の造影MRIによる内リンパ水腫画像.画像診断 Vol.35 No.2 2015
2)中島 務:内リンパ水腫.長寿医療研究センター病院レター 第51号.JULY 25 2014
3)寺西正明,曾根三千彦:Gd静脈法によるMRIと内リンパ水腫.Equilibrium Res Vol.77(2) 99-103.2018