GE Smart Mail vol.136


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 DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声
 連載・第1部
 QUSを用いた骨粗鬆症の診断法 サルコペニアと骨粗鬆症との関連に着目して
      doctor
名古屋大学医学部附属病院 整形外科 飛田 哲朗 先生

骨粗鬆症の診断法、サルコペニアと骨粗鬆症との関連について、
連載で飛田哲朗先生に御紹介いただきました。

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 【はじめに】

世界的な人口高齢化に伴い骨粗鬆症の患者が年々増加しつつある。それにともない骨粗鬆症性骨折が急増している。2009年の日本整形外科学会からの報告では、我が国では年間約18万件の大腿骨頚部骨折と1、200万件の脊椎骨折が発生しているとされる2。世界における状況は、世界保健機構の報告によると3、1990年には年間150万件とされた大腿骨頚部骨折は、2025年には270万件に増加すると予測される。椎体骨折は高齢者のADLを大きく低下させ4、骨折起因する寝たきり高齢者の増加による社会保障費の膨張は、逼迫したわが国の財政にとって致命的な負担であり、サルコペニアの早期発見・治療による骨折の予防は、限られた介護・医療資源を有効に活用するために不可欠である。
一方、加齢とともに筋量が減少することが知られており、我々は65歳までに筋量の20-30%を失うとされる。この加齢による筋肉減少症はサルコペニアと名付けられ、近年様々な医学分野で注目を集めている。世界のサルコペニアの患者数は、2009年の時点で5000万人、2050年には2億人になると予想されている。5サルコペニアは、高齢者の虚弱性の指標であり、身体の不安定性のバロメーターでもあると考えられており、ロコモーティブシンドロームとも重複する概念である。高齢化とともに筋肉減少に起因する骨折も増加している事が予想され、サルコペニアの予防と治療が骨折の予防につながる可能性がある。また、骨粗鬆症の診断には骨密度測定が欠かせない。本稿では簡便な骨密度測定法である超音波式骨密度測定計を用いた骨粗鬆症の診断および骨粗鬆症とサルコペニアの関連に関して解説する。

 

 【症例提示】

写真をご覧いただきたい(図1a) 6
大腿骨頚部骨折(図1b)を受傷した80才女性の女性である。

図1a   図1b
図1a.
80才女性、大腿骨頚部骨折術前
著名な筋萎縮が確認できる
文献(Hida, et al. Agin Dis. 2014)から引用
  図1b.
股関節レントゲン写真
右大腿骨頚部骨折(Garden type4)を認める(矢印)

この患者は、やせているだけではなく筋肉が萎縮していることが確認できる。身長149cm、体重32kg、補正四肢筋量4.8kg/m2で、サルコペニア合併と診断された。
このように、骨粗鬆症骨折にサルコペニアを合併することは決して珍しいことではない。

 

 【QUS法とは】

超音波骨密度計を用いた骨量計測法である定量的超音波法(quantitative ultrasound、QUS法)は骨粗鬆症の診断法として二重エネルギ-X線吸収測定法(DXA法) に次いで普及している方法である7。海綿骨量が多いとされている踵骨に超音波を透過させ、その透過速度と減衰から骨の状態を推測する。GEヘルスケア社の超音波骨密度計(図2)の場合、超音波透過速度(speed of sound、SOS)と広帯域超音波減衰係数(broadband ultrasound attenuation BUA)から導き出される総合的骨量指数「stiffness,スティフネス値」で評価する。QUSの測定対象は、末梢骨であり運動の影響を受け骨梁構造が不均一である踵骨を計測するためその精度には限界がある8。骨粗鬆症治療の効果判定に関するコンセンサスは得られていない9が、重度の骨粗鬆症骨折リスクの予測に役立つことが報告されており10、運搬可能な骨粗鬆症診断のスクリーニングツールとして有用である。

図2
図2.
踵骨超音波骨量測定計(GEヘルスケア社A-1000 EXP II)の外観と
出力されるプリントアウト例(stiffnessおよびTスコアなどが見て取れる)

 【介護施設入居者における骨粗鬆症とサルコペニア】

介護施設入居高齢者(以下、施設入居者)の数は近年増加の一途をたどっている。しかし施設入居者における骨粗鬆症およびサルコペニアのリスクは不明な点が多い11, 12。介護施設や在宅診療クリニックの訪問診療などにおける骨粗鬆症診断には、持ち運びが可能で簡便に骨密度測定ができる超音波骨密度計が適している。
横断研究により施設入居者における骨粗鬆症およびサルコペニアの実態を調査した我々の研究結果を紹介する13
研究協力施設(安心生活在宅クリニックあおい、あんしんせいかつ葵、名古屋市)における寝たきり患者(図3)を含む施設入居者60名(男性28名、女性32名、平均年齢81.4才)を対象とした。筋量は移動式体組成計(バイオスペース社Inbody S10)を用いて生体電気インピーダンス法により計測した。筋量の評価は四肢筋量を身長の二乗で除した補正四肢筋量(ASMI)を用い、日本人基準値14により男性7.0kg/m2未満、女性5.8kg/m2未満をサルコペニアと診断した。認知機能の評価であるMini-Mental State Examinationは平均8.1点、ADLの指標であるBarthel Indexは平均21点と低く、コミュニケーションのほとんど取れない、寝たきりを中心とした患者を対象としている(図4)。

図3   図4
図3.介護施設に入居する寝たきり患者   図4. 施設入居者の背景

骨量は踵骨超音波骨量測定計(GEヘルスケア社A-1000 EXP II)を用いてstiffnessおよびT値を評価し、骨粗鬆症骨折歴と併せてWHO基準により骨粗鬆症の診断を行い、各有病率と骨量と筋量の関係を検討した15。ASMI(平均±SD) は男性で5.40±1.3kg/m2、女性で3.82±0.84 kg/m2だった(P <0.001)。サルコペニアの有病率は93.3%(男性89.3%、女性96.9%)で、男女間に差は無かった(P=0.33)。骨粗鬆症の有病率は85.0%(男性71.4%、女性96.9%)で、男女間に有意差を認めた(P=0.009)。骨粗鬆症患者におけるサルコペニアの有病率は96.1%だった(図5)。
筋量とstiffness 、T値との間には有意な正の相関を認めた(r=0.62、P <0.001;r=0.58、P<0.001)。重回帰分析の結果、ASMIに有意に関連する因子はT値(r=0.51、P<0.001 )、年齢(r=-0.29、P =0.002)、BMI (r=0.38、P<0.001)であった。高齢者介護施設における骨粗鬆症とサルコペニアの関連が初めて明らかになった。これまでの報告ではサルコペニアの有病率は外来患者や地域住民で20-30%程度と報告されており16,17、施設入居者のサルコペニア有病率は高い傾向にあった。さらに施設入居者は高率に骨粗鬆症を合併していた。施設入居者のfrailtyの強さを反映していると考えられた。筋量と骨量には密接な関連が認められ、施設入居者は転倒・骨折のハイリスク群であることが示唆された。18, 19骨粗鬆症の薬物治療と同時に、運動療法、栄養療法などのサルコペニアに対する治療介入が必要であると考えられた。

図5
図5. 施設入居者におけるサルコペニアの有病率

 





   【引用文献】

    1) 原田敦, 松井康素, 竹村真里枝, 伊藤全哉, 若尾典充, 太田壽城. 骨粗鬆症の医療経済 疫学,費用と介入法別費用・効用分析. 日本老年医学会雑誌 2005; 42: 596-608.

    2) Harada A, Matsuyama Y, Nakano T, et al. Nationwide survey of current medical practices for hospitalized elderly with spine fractures in Japan. J Orthop Sci 2010; 15: 79-85.

    3) World_Health_Organization. Ageing and life course. World_Health_Organization, 2009.

    4) 飛田哲朗, 原田敦, 松井康素, et al. -大腿骨頚部骨折におけるSarcopeniaとOsteopeniaの危険な関係- DXAを用いた筋量評価法の検討. Osteoporosis Jpn 2009; 17: 149.

    5) Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, et al. Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing 2010; 39: 412-423.

    6) Hida T, Harada A, Imagama S, Ishiguro N. Managing Sarcopenia and Its Related-Fractures to Improve Quality of Life in Geriatric Populations. Aging Dis 2014; 5: 226-237.

    7) 曽根 照. 【QUS使用の実際】 QUSの原理. Osteoporosis Japan 2005; 13: 21-23.

    8) Iki M, Kajita E, Mitamura S, Nishino H, Yamagami T, Nagahama N. Precision of quantitative ultrasound measurement of the heel bone and effects of ambient temperature on the parameters. Osteoporos Int 1999; 10: 462-467.

    9) Krieg MA, Jacquet AF, Bremgartner M, Cuttelod S, Thiebaud D, Burckhardt P. Effect of supplementation with vitamin D3 and calcium on quantitative ultrasound of bone in elderly institutionalized women: a longitudinal study. Osteoporos Int 1999; 9: 483-488.

    10) Njeh CF, Hans D, Li J, et al. Comparison of six calcaneal quantitative ultrasound devices: precision and hip fracture discrimination. Osteoporos Int 2000; 11: 1051-1062.

    11) Osuna-Pozo CM, Serra-Rexach JA, Vina J, et al. [Prevalence of sarcopenia in geriatric outpatients and nursing homes. The ELLI study.]. Rev Esp Geriatr Gerontol 2013.

    12) Volpato S, Romagnoni F, Soattin L, et al. Body mass index, body cell mass, and 4-year all-cause mortality risk in older nursing home residents. J Am Geriatr Soc 2004; 52: 886-891.

    13) 飛田哲朗, 杉本健治, 飛田拓哉, 今釜史郎, 石黒直樹. 高齢者介護施設における骨粗鬆症とサルコペニアの実態. Osteoporosis Japan 2014; 22: 261.

    14) Tanimoto Y, Watanabe M, Sun W, et al. Association between muscle mass and disability in performing instrumental activities of daily living (IADL) in community-dwelling elderly in Japan. Arch Gerontol Geriatr 2012; 54: e230-e233.

    15) World_Health_Organization. Assessment of fracture risk and its application to screening for postmenopausal osteoporosis. Report of a WHO Study Group. World Health Organ Tech Rep Ser 1994; 843: 1-129.

    16) 飛田哲朗, 今釜史郎, 村本明生, 濱田恭, 石黒直樹, 長谷川幸治. 一般住民におけるサルコペニア肥満と運動機能への影響. 日本整形外科学会雑誌 2014; 88: S652.

    17) Miyakoshi N, Hongo M, Mizutani Y, Shimada Y. Prevalence of sarcopenia in Japanese women with osteopenia and osteoporosis. J Bone Miner Metab 2013; 31: 556-561.

    18) Landi F, Liperoti R, Fusco D, et al. Prevalence and Risk Factors of Sarcopenia Among Nursing Home Older Residents. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2011; 67A: 48-55.

    19) Landi F, Liperoti R, Fusco D, et al. Sarcopenia and Mortality among Older Nursing Home Residents. J Am Med Dir Assoc 2012; 13: 121-126.

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