DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声 連載・第3部 QUSを用いた骨粗鬆症の診断法 サルコペニアと骨粗鬆症との関連に着目して
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骨粗鬆症の診断法、サルコペニアと骨粗鬆症との関連について、 |
【慢性炎症、糖尿病、肥満とサルコペニア】 | ![]() |
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サルコペニアと骨粗鬆症の関連を解き明かす上で、双方の共通の原因疾患を探る必要がある。
慢性炎症
骨粗鬆症も炎症の影響を多大に受ける疾患である。炎症性サイトカインであるTNF, IL-1, IL-6などの発現が亢進すると、骨芽細胞におけるRANKLの発現が促進される。活性化T細胞や滑膜線維芽細胞表面にも RANKLが発現し、破骨細胞を分化、活性化させ、骨粗鬆症が進行すると考えられている36)。整形外科領域で慢性炎症を呈する代表的疾患である関節リウマチ患者においては、骨粗鬆症になりやすく大腿骨近位部骨折のリスクが2倍あるとされており37)、慢性炎症はリウマチ患者の骨粗鬆症の一因と考えられている。
ロジスティック回帰分析では高感度CRP高値がサルコペニアの有意なリスク因子だった(OR,161; P<0.001)。重回帰分析では補正四肢筋量(β,-0.13; P<0.001),最大歩幅(β,-0.12; P<0.001)、 握力(β,-0.08; P<0.001)が高感度CRPと有意な関連を示した。基礎研究においては、炎症と筋肉の関連が判明しつつある。IL-6、TNFαなどの炎症性サイトカインは肝細胞でCRPの産生を促進させると同時に筋肉組織でNFκ-βを介して筋分解系を促進させる(図15)39)。
このような機序から、本研究の結果のように筋量の低下とCRP高値が関連したと考えられた。生物学的製剤を始めとする薬剤を用いた抗炎症療法や、運動療法・栄養療法による動脈硬化や肥満の治療が、骨粗鬆症とサルコペニア双方の改善につながる可能性がある。
糖尿病と肥満
米国の大規模疫学調査(National health and nutrition examinaton survey 、NHANESIII)を紹介する42)。1万人以上を対象とした、日本ではなかなか考えられない規模の疫学研究である。年齢・性別・人種等々で多変量解析をした結果、サルコペニア肥満が一番インスリン抵抗性が高く(図17)、サルコペニア肥満であることが糖尿病であるオッヅリスクが一番高い結果だった。
ニュージーランドの高齢者183名(平均年齢73歳)を対象とした研究を紹介する43)。ニュージーランドは実は肥満に関する研究が進んでいる国の一つである。実はニュージーランドは世界に名だたる肥満国家で、国民の61%が肥満である。ちなみに米国は肥満率66.7%とされる。研究の内容は、サルコペニア肥満がもっとも身体バランスが悪く、転倒が多いという結果であった(図18)。転倒が多ければ、骨折の危険も高い事が類推できる。
前項でも述べたように、サルコペニアと骨粗鬆症には深い関連がある。さらに糖尿病や慢性炎症などは骨粗鬆症・サルコペニアの共通の原因として考えられる。糖尿病や慢性炎症の治療がサルコペニア、骨粗鬆症双方の治療につながるかも知れない。
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【骨密度と筋量】 | ![]() |
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サルコペニアは骨密度減少と関連することが従来様々な研究から報告されている。Coinらは、352名の高齢者を調査し、骨密度と筋量に正の相関を認めたと報告している。44)自験例においても、骨量と筋量は有意な相関を認めた(図19)32)。
Wuらは、台湾在住の45才から80才の600名を調査し女性においてサルコペニアが骨粗鬆症の独立したリスクであると報告している。45)すなわち、「筋量が少ない患者は骨密度も低い」ともいえる。図に示すように(図20)、慢性炎症、糖尿病、低栄養、ビタミンD不足、廃用等の骨粗鬆症とサルコペニア共通の原因が、骨量低下と骨強度の低下を、筋量低下と易転倒性を同時に引き起こし、サルコペニアと骨粗鬆症のコンビネーションにより骨折が引き起こされている病態が示唆される。
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【まとめ】 | ![]() |
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サルコペニアと骨粗鬆症の関連性に関する研究はまだまだ始まったばかりで不明な点が多い。現在用いられている診断基準は病態解明の研究や疫学調査を推進することを目的とした操作的基準であり、骨粗鬆症や骨折を合併した患者における日常診療において使いやすいものとは言えない。今後は転倒・骨折危険性を一般診療の現場で簡便に行えるような診断法・診断基準の開発が待たれる。骨粗鬆症性骨折の予防には、骨粗鬆症の治療のみならずサルコペニアの予防と治療が有用であろう。
【引用文献】
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