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 連載・第3部
 QUSを用いた骨粗鬆症の診断法 サルコペニアと骨粗鬆症との関連に着目して
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名古屋大学医学部附属病院 整形外科 飛田 哲朗 先生

骨粗鬆症の診断法、サルコペニアと骨粗鬆症との関連について、
連載で飛田哲朗先生に御紹介いただきました。

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 【慢性炎症、糖尿病、肥満とサルコペニア】

サルコペニアと骨粗鬆症の関連を解き明かす上で、双方の共通の原因疾患を探る必要がある。

慢性炎症
生活習慣病では炎症がゆるやかに進行する慢性炎症が共通の基盤病態である。慢性炎症が老化に重要な役割を果たすことが近年注目されている。老化により動脈硬化が進行すると血管壁でコレステロールを貪食したマクロファージから炎症性サイトカインが分泌される。また脂肪細胞そのものからも炎症性サイトカインを分泌する。こうして惹起された慢性炎症がテロメアの短縮を引き起こし、遺伝子レベルでの細胞老化を引き起こす(図13)35)。細胞老化がさらに炎症を引き起こす、負の連鎖が想定される。

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図13. 老化と炎症

骨粗鬆症も炎症の影響を多大に受ける疾患である。炎症性サイトカインであるTNF, IL-1, IL-6などの発現が亢進すると、骨芽細胞におけるRANKLの発現が促進される。活性化T細胞や滑膜線維芽細胞表面にも RANKLが発現し、破骨細胞を分化、活性化させ、骨粗鬆症が進行すると考えられている36)。整形外科領域で慢性炎症を呈する代表的疾患である関節リウマチ患者においては、骨粗鬆症になりやすく大腿骨近位部骨折のリスクが2倍あるとされており37)、慢性炎症はリウマチ患者の骨粗鬆症の一因と考えられている。
一方、臨床におけるサルコペニアにおける慢性炎症の関連はまだ不明な点が多い。前述したYakumo Studyにおける研究結果を紹介する38)。北海道八雲町の住民検診に参加した335名(平均年齢65歳、男性146名、女性189名)を対象とした。生体電気インピーダンス(BIA)法による筋量測定、血清高感度CRP値を測定した。補正四肢筋量が診断基準値以下の者をサルコペニア有りとした。共分散分析年齢性別補正後の高感度CRP値はサルコペニア群0.135±0.014mg/dl、正常群0.073±0.008mg/dlで、サルコペニア群が有意に高かった(P<0.001)(図14)。

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図14. サルコペニアと高感度CRPの関係

ロジスティック回帰分析では高感度CRP高値がサルコペニアの有意なリスク因子だった(OR,161; P<0.001)。重回帰分析では補正四肢筋量(β,-0.13; P<0.001),最大歩幅(β,-0.12; P<0.001)、 握力(β,-0.08; P<0.001)が高感度CRPと有意な関連を示した。基礎研究においては、炎症と筋肉の関連が判明しつつある。IL-6、TNFαなどの炎症性サイトカインは肝細胞でCRPの産生を促進させると同時に筋肉組織でNFκ-βを介して筋分解系を促進させる(図15)39)
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図15. 炎症と筋肉


このような機序から、本研究の結果のように筋量の低下とCRP高値が関連したと考えられた。生物学的製剤を始めとする薬剤を用いた抗炎症療法や、運動療法・栄養療法による動脈硬化や肥満の治療が、骨粗鬆症とサルコペニア双方の改善につながる可能性がある。

糖尿病と肥満
糖尿病により骨粗鬆症が引き起こされることが判明している。糖尿病患者では高血糖により糖化終末産物(Advanced Glycation End Products, AGE)という異常タンパクが蓄積される。AGEは全身の様々な器官において糖尿病合併症の原因となる40)。骨においてはAGEは骨形成を低下させる。同時に糖化・酸化により形成される 骨中のAGE架橋はコラーゲン線維を脆弱化させ、骨強度の低下を引き起こすことが判明している。ペントシジンはリジン残基とアルギニン残基が五炭糖により架橋された構造を持つAGEである。骨コラーゲン中のペントシジン量は、骨基質中のAGE全体量と正の相関があることから、尿中のペントシジン測定は、骨質評価や非侵襲的な骨折予測マーカーとして利用されている41)
一見サルコペニアと糖尿病は無関係にも思えるが、実は筋肉と糖代謝には密接な関係がある。筋肉は身体の運動を行うのみならず体の糖代謝の大半を占める臓器でもある。すなわち、筋肉が減ることによりインスリン感受性の悪化が起き、糖尿病の発症リスクとなる。サルコペニアと血糖の指標であるHbA1Cとの関連を調べた研究を紹介する(図16)。日本人健常者959名での検討では、サルコペニアの患者で高いHbA1Cの値を示した34)

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図16. サルコペニアとHbA1c


米国の大規模疫学調査(National health and nutrition examinaton survey 、NHANESIII)を紹介する42)。1万人以上を対象とした、日本ではなかなか考えられない規模の疫学研究である。年齢・性別・人種等々で多変量解析をした結果、サルコペニア肥満が一番インスリン抵抗性が高く(図17)、サルコペニア肥満であることが糖尿病であるオッヅリスクが一番高い結果だった。
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図17. サルコペニア肥満とインスリン抵抗性


ニュージーランドの高齢者183名(平均年齢73歳)を対象とした研究を紹介する43)。ニュージーランドは実は肥満に関する研究が進んでいる国の一つである。実はニュージーランドは世界に名だたる肥満国家で、国民の61%が肥満である。ちなみに米国は肥満率66.7%とされる。研究の内容は、サルコペニア肥満がもっとも身体バランスが悪く、転倒が多いという結果であった(図18)。転倒が多ければ、骨折の危険も高い事が類推できる。
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図18. サルコペニア肥満は、転倒が多い


前項でも述べたように、サルコペニアと骨粗鬆症には深い関連がある。さらに糖尿病や慢性炎症などは骨粗鬆症・サルコペニアの共通の原因として考えられる。糖尿病や慢性炎症の治療がサルコペニア、骨粗鬆症双方の治療につながるかも知れない。

 

 【骨密度と筋量】

サルコペニアは骨密度減少と関連することが従来様々な研究から報告されている。Coinらは、352名の高齢者を調査し、骨密度と筋量に正の相関を認めたと報告している。44)自験例においても、骨量と筋量は有意な相関を認めた(図19)32)

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図19. 外来患者において、筋量と骨密度の間に、有意な相関を認めた


Wuらは、台湾在住の45才から80才の600名を調査し女性においてサルコペニアが骨粗鬆症の独立したリスクであると報告している。45)すなわち、「筋量が少ない患者は骨密度も低い」ともいえる。図に示すように(図20)、慢性炎症、糖尿病、低栄養、ビタミンD不足、廃用等の骨粗鬆症とサルコペニア共通の原因が、骨量低下と骨強度の低下を、筋量低下と易転倒性を同時に引き起こし、サルコペニアと骨粗鬆症のコンビネーションにより骨折が引き起こされている病態が示唆される。
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図20. 骨粗鬆症骨折とサルコペニアの関係

 

 【まとめ】

サルコペニアと骨粗鬆症の関連性に関する研究はまだまだ始まったばかりで不明な点が多い。現在用いられている診断基準は病態解明の研究や疫学調査を推進することを目的とした操作的基準であり、骨粗鬆症や骨折を合併した患者における日常診療において使いやすいものとは言えない。今後は転倒・骨折危険性を一般診療の現場で簡便に行えるような診断法・診断基準の開発が待たれる。骨粗鬆症性骨折の予防には、骨粗鬆症の治療のみならずサルコペニアの予防と治療が有用であろう。

 


   【引用文献】

    32) Hida T, Ishiguro N, Shimokata H, et al. High prevalence of sarcopenia and reduced leg muscle mass in Japanese patients immediately after a hip fracture. Geriatr Gerontol Int 2012: no-no.

    34) Sanada K, Miyachi M, Tanimoto M, et al. A cross-sectional study of sarcopenia in Japanese men and women: reference values and association with cardiovascular risk factors. Eur J Appl Physiol 2010; 110: 57-65.

    35) Jurk D, Wilson C, Passos JF, et al. Chronic inflammation induces telomere dysfunction and accelerates ageing in mice. Nature communications 2014; 2: 4172.

    36) Lacativa PG, Farias ML. Osteoporosis and inflammation. Arquivos brasileiros de endocrinologia e metabologia 2010; 54: 123-132.

    37) van Staa TP, Geusens P, Bijlsma JW, Leufkens HG, Cooper C. Clinical assessment of the long-term risk of fracture in patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 2006; 54: 3104-3112.

    38) 飛田哲朗, 今釜史郎, 村本明生, et al. サルコペニアと慢性炎症 高感度CRP高値は筋量低下と運動機能低下に関連する. 日本整形外科学会雑誌 2015; 89: S581.

    39) Pedersen BK, Febbraio MA. Muscles, exercise and obesity: skeletal muscle as a secretory organ. Nature reviews Endocrinology 2012; 8: 457-465.

    40) Yamagishi S. Role of advanced glycation end products (AGEs) in osteoporosis in diabetes. Current drug targets 2011; 12: 2096-2102.

    41) Saito M, Kida Y, Kato S, Marumo K. Diabetes, collagen, and bone quality. Current osteoporosis reports 2014; 12: 181-188.

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    44) Coin A, Perissinotto E, Enzi G, et al. Predictors of low bone mineral density in the elderly: the role of dietary intake, nutritional status and sarcopenia. Eur J Clin Nutr 2008; 62: 802-809.

    45 Wu C-H, Yang K-C, Chang H-H, Yen J-F, Tsai K-S, Huang K-C. Sarcopenia is Related to Increased Risk for Low Bone Mineral Density. J Clin Densitom 2013; 16: 98-103.


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