GE Smart Mail vol.137


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 DXA(デキサ)X線骨密度測定装置 お客様の声
 連載・第2部
 QUSを用いた骨粗鬆症の診断法 サルコペニアと骨粗鬆症との関連に着目して
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名古屋大学医学部附属病院 整形外科 飛田 哲朗 先生

骨粗鬆症の診断法、サルコペニアと骨粗鬆症との関連について、
連載で飛田哲朗先生に御紹介いただきました。

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 【地域在住骨粗鬆症患者の運動機能とQOLとサルコペニアとの関連】

骨粗鬆症の疫学調査においては、運搬可能で簡便無侵襲な超音波骨密度計が適している。筆者の所属する名古屋大学が実施している疫学調査、Yakumo Studyにおける超音波骨密度計を用いた研究を紹介する20。 研究の背景として、骨粗鬆症に関連する障害は高齢者の生活の質(QOL)低下の要因として知られる。一方サルコペニアは移動能力の低下と易転倒性を引き起こすが、骨粗鬆症患者のQOLへの影響は未だに不明であったため、地域在住骨粗鬆症患者においてサルコペニアがQOL低下に与える影響を検討した。
北海道八雲町住民健診にて骨粗鬆症と診断された98名(平均年齢63.3歳、男性30名、女性68名)を対象とした、超音波骨密度測定器(GEヘルスケア社A-1000)にて踵骨stiffness値およびTスコアを測定しWHO基準により骨粗鬆症の診断を行った(図6)。
生体電気インピーダンス法にて体組成測定を行い、補正四肢筋量(ASMI)を算出した。サルコペニアの診断には補正四肢筋量日本人基準値を用い正常筋量群、サルコペニア群に分け比較した。QOL評価としてShort Form 36 (SF-36)を施行した。結果、骨粗鬆症患者におけるサルコペニア有病率は男性26.7%,女性42.6%であった(P=0.133)。正常筋量群と比しサルコペニア群ではstiffness値(62.8 vs. 58.4,P=0.001), Tスコア(-3.13 vs. -3.44,P=0.004)、SF-36VTドメイン(65.8 vs. 57.9,P=0.04)が低値であった。GLMによる年齢・性別補正後も同様の結果であった。ASMIは、踵骨stiffness値(R=0.53,P<0.001)と中等度の相関を認め、Tスコア(R=0.26,P=0.009),SF-36VTドメイン(R=0.24,P=0.026)とは弱い相関を認めた。本研究ではサルコペニアを呈した骨粗鬆症患者においてQOLの低下を認めた。サルコペニア罹患患者は正常筋量患者よりも骨密度が低く、骨粗鬆症が重篤であった。低栄養、活動性の低下など骨量低下と筋量低下に共通した因子の関与が考えられた。骨粗鬆症患者に対する運動・食事療法等の介入が骨密度低下、QOL低下の予防に有用かもしれないと考えられた。

図6   踵骨超音波骨量測定計
図6.疫学調査における超音波骨密度計測定風景   踵骨超音波骨量測定計(GEヘルスケア社A-1000 EXP II)の外観と
出力されるプリントアウト例(stiffnessおよびTスコアなどが見て取れる)

 

 【骨粗鬆症患者におけるサルコペニアの診断と筋量評価法】

サルコペニアの診断基準は、European Working Group on Sarcopenia in Older People5、International Working Group on Sarcopenia21、Asian Working Group for Sarcopenia22といった各グループが提唱している。これらの診断基準の共通する点は、機能障害(歩行速度低下、握力低下)と筋量低下が同時に存在する場合のみにサルコペニアの診断と診断する事である。歩行速度を骨折患者で評価することは現実的ではない。残念ながら骨粗鬆症骨折のような疾患に特化した診断基準はまだ無い為、骨粗鬆症性骨折を受傷した段階で機能障害がほぼ必発であることを鑑みると、骨粗鬆症性骨折患者のサルコペニアの診断には少なくとも筋量測定を実施する必要がある。診断基準値の定まっている筋量の測定法は大きく分けて、1.二重エネルギーX線吸収度法(dual energy X-ray absorptiometry、DXA)23-25、2.生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis、BIA)26-28の2つがあり、それぞれアジア人の基準値が定められている22。DXA法は骨密度の計測でも用いられている方法であり、整形外科領域では馴染み深い方法である。二種類の強さのX線を生体に照射し、それぞれの減衰率から身体組織の組成量を、骨塩量(BMD)、脂肪量、除脂肪量(≒内蔵、筋肉)の3種に分け計測することができる。図のように画像上で区切ることにより上下肢それぞれの部位の筋量を測定することが可能である(図7)。ただし、一般によく用いられる腰椎・大腿骨頚部のDXA装置ではなく、全身の測定が可能な装置(図8)が必要である。臥位で測定するため、骨折により立位保持が困難な患者でも測定可能である。

図7
図7.全身DXA測定の検査結果の例。
  画像上で四肢を区切ることにより上下肢左右別に筋量を測定する。

図8
図8.全身測定が可能なDXA装置(例:GEヘルスケア社 Lunar iDXA)外観と
  測定出力例:骨塩量(BMD)、脂肪量、除脂肪量(≒内蔵、筋肉)の3種に分け計測することができる
  ※画像クリックで測定出力例を拡大表示します

BIA法は市販の体脂肪計と同じ原理で、生体に微弱な交流電気を流し、組織の電気抵抗(インピーダンス)を計測する。脂肪・筋肉・骨の生体組織の違いにより電気抵抗が異なる事を利用して体組成を測定する方法である。写真のように(図9)、立位で測定する器械(バイオスペース社、タニタ社など)が一般的であり、測定時間の間(60秒から90秒程度)立位を保持できる患者が良い対象となる。
図9
図9.脊椎骨折入院患者におけるBIA法による筋量測定風景。
 短時間立位をとることができれば測定可能である。

まだまだ一般的ではないが、臥位や座位で測定可能な装置(バイオスペース社、Inbody S10)も市販されており、立位のとれない骨粗鬆症性骨折受傷患者に有用であろう。BIA法の検査結果をしめす(図10)。このように、上下肢左右別に筋量が印刷される。若年男性の筋量(7kg台/脚)に比べ、ADLの維持された高齢女性(4kg台/脚)、脊椎骨折を受傷したADLの低い高齢女性(2kg台/脚)、と筋量の違いが一目瞭然である。
図10
図10.BIA法による下肢の筋量の測定結果の例。上下肢左右別に結果が印刷される。


ただし、DXA法とBIA法双方とも大腿骨近位部骨折の受傷後は外力や内出血による組織の浮腫の影響を受ける可能性を考慮する必要がある。CTやMRIで大腿部等の筋断面積を測定するcross sectional area(CSA)法29はより正確であるとされるが、健常人のデータが乏しいゆえに診断基準値はまだ定められておらず、診断ガイドラインでは採用されていない。筋量の評価法として、全身の筋肉量(lean mass)を用いる方法や上下肢の筋肉量を用いる方法、上下肢の筋肉量を身長で除した値を用いる方法などがあるが、上下肢の筋量をBMIと同様に身長の2乗で除した値である骨格筋指標(補正四肢筋量、skeletal muscle mass index、 SMI)を用いた評価法が主流である30


 【大腿骨頚部骨折・脊椎圧迫骨折とサルコペニア】

国立長寿医療研究センターにて骨粗鬆症性骨折(大腿骨頚部骨折・脊椎圧迫骨折)を受傷した患者におけるサルコペニアの現状を調査した報告を紹介する31, 32。骨折受傷直後にDXA法により四肢筋量計測を実施し、廃用の影響を排し、より正確に受傷時の筋量を測定した。国立長寿医療研究センターにて入院加療を行った大腿骨近位部骨折患者および椎体骨折患者を対象とし、入院直後にDXA法による筋量測定を行った。骨折のない骨粗鬆症外来通院患者を対照群として一般線形モデルで年齢・性別補正を行い比較した。33 結果、骨格筋量指標(上下肢筋量/身長2)は、対照群が6.13 kg/m2、大腿骨近位部骨折群が5.92kg/m2、椎体骨折群が5.82kg/m2で、骨粗鬆症性骨折患者において有意に筋量の低下が認められた(図11)。

図11
図11.骨折と筋量の関係。骨粗鬆症性骨折を受傷した患者で有意な筋量低下を認める。

補正四肢筋量の日本人基準値34(女性5.46kg/m2、以下、男性6.87kg/m2以下)をもとに診断したサルコペニアの有病率は、対照群が31.8%、大腿骨近位部骨折群が47.3%、椎体骨折群が48.5%で、骨折患者において有意に有病率が高かった(図12)。骨粗鬆症性骨折患者における深刻なサルコペニア合併の実態が明らかになった。さらに、多変量解析の結果では、大腿骨近位部骨折、椎体骨折はそれぞれサルコペニアが骨密度など他の因子から独立した危険因子であることが判明した。このことから、サルコペニアは骨粗鬆症性骨折の一因であり、骨粗鬆症治療のみならずサルコペニアの治療が骨折予防に重要であることが示唆される。
図12
図12.各骨折におけるサルコペニアの有病率


   【引用文献】

    5) Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, et al. Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing 2010; 39: 412-423.

    20) 飛田哲朗, 今釜史郎, 村本明生, et al. 一般住民の骨粗鬆症患者におけるサルコペニアの実態とQOLへの影響の検討. 日本整形外科学会雑誌 2014; 88: S147.

    21) Fielding RA, Vellas B, Evans WJ, et al. Sarcopenia: An Undiagnosed Condition in Older Adults. Current Consensus Definition: Prevalence, Etiology, and Consequences. International Working Group on Sarcopenia. J Am Med Dir Assoc 2011; 12: 249-256.

    22) Chen LK, Liu LK, Woo J, et al. Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia. J Am Med Dir Assoc 2014; 15: 95-101.

    23) Mazess R, Collick B, Trempe J, Barden H, Hanson J. Performance evaluation of a dual-energy x-ray bone densitometer. Calcif Tissue Int 1989; 44: 228-232.

    24) Visser M, Fuerst T, Lang T, Salamone L, Harris TB. Validity of fan-beam dual-energy X-ray absorptiometry for measuring fat-free mass and leg muscle mass. Health, Aging, and Body Composition Study--Dual-Energy X-ray Absorptiometry and Body Composition Working Group. J Appl Physiol 1999; 87: 1513-1520.
    25) Wang ZM, Visser M, Ma R, et al. Skeletal muscle mass: evaluation of neutron activation and dual-energy X-ray absorptiometry methods. J Appl Physiol 1996; 80: 824-831.

    26) Hoffer EC, Meador CK, Simpson DC. Correlation of whole-body impedance with total body water volume. J Appl Physiol 1969; 27: 531-534.

    27) National_Institutes_of_Health. Bioelectrical impedance analysis in body composition measurement: National Institutes of Health Technology Assessment Conference Statement. Am J Clin Nutr 1996; 64: 524S-532S.

    28) Tanimoto Y, Watanabe M, Sun W, et al. Association between sarcopenia and higher-level functional capacity in daily living in community-dwelling elderly subjects in Japan. Arch Gerontol Geriatr 2012; 55: e9-e13.

    29) Lang T, Cauley JA, Tylavsky F, Bauer D, Cummings S, Harris TB. Computed tomographic measurements of thigh muscle cross-sectional area and attenuation coefficient predict hip fracture: the health, aging, and body composition study. J Bone Miner Res 2010; 25: 513-519.

    30) Baumgartner RN, Koehler KM, Gallagher D, et al. Epidemiology of sarcopenia among the elderly in New Mexico. Am J Epidemiol 1998; 147: 755-763.

    31) Hida T, Ishiguro N, Sakai Y, Ito K, Harada A. Sarcopenia as a Potential Risk Factor for Osteoporotic Vertebral Compression Fracture in Japanese Elderly Individuals. J Spine Res 2012; 3: 357.

    32) Hida T, Ishiguro N, Shimokata H, et al. High prevalence of sarcopenia and reduced leg muscle mass in Japanese patients immediately after a hip fracture. Geriatr Gerontol Int 2012: no-no.

    33) Hida T, Ishiguro N, Shimokata H, et al. High prevalence of sarcopenia and reduced leg muscle mass in Japanese patients immediately after a hip fracture. Geriatr Gerontol Int 2013; 13: 413-420.

    34) Sanada K, Miyachi M, Tanimoto M, et al. A cross-sectional study of sarcopenia in Japanese men and women: reference values and association with cardiovascular risk factors. Eur J Appl Physiol 2010; 110: 57-65.


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