第39回 日本腹部放射線学会 共催セミナーのご報告
~Dual Energy画像を学習した新たなDL技術の臨床初期使用経験~
信州大学医学部附属病院 放射線科
Revolution Ascend Elite / True Enhance DL
2026年6月5日に開催された第39回日本腹部放射線学会(JSAR 2026)ランチョンセミナーにおいて、信州大学医学部附属病院 放射線科の高橋 正明 先生より、『最新Deep Learning再構成による腹部CTの進化』と題した講演が行われました。本講演では、従来のCT画像再構成技術の進歩を振り返りながら、Dual Energy CT(DECT)の情報を学習した新たなDeep Learning技術「True Enhance DL(TEDL)」について、臨床初期使用経験が紹介されました。
信州大学医学部附属病院は、病床698床を有する高度医療機関であり、年間約30,000件のCT検査を実施しています。同院ではGE HealthCare社製のRevolution APEXを2台およびRevolution HDに加え、2025年3月に新たに導入されたRevolution Ascend Eliteの計4台のCT装置を運用し、ルーチン検査から高度な造影検査まで幅広く対応しています。造影CTも約9,000件に及び、日常診療においてCTが担う役割は極めて大きくなっています。こうした背景の中で、安定した診断能を確保するためには、撮影条件に依存しない一貫した画像品質の担保が重要となっています。
CT画像再構成技術はこれまで、主にノイズ低減と空間分解能の向上を目的として進化してきました。従来のFiltered Back Projection(FBP)は高い空間分解能を有する一方でノイズに弱く、低線量撮影においては画像品質に限界がありました。その後登場した逐次近似再構成(IR:iterative reconstruction)はノイズ低減に大きく寄与しましたが、過度の適用では画像テクスチャの違和感が問題となっていました。さらにDeep Learning画像再構成(DLIR:TrueFidelity DL)の登場により、ノイズ低減と自然な質感の両立が可能となり、低線量撮影においても高い診断能の維持が実現されました。これまでの技術進化は主にノイズ低減に焦点が当てられていましたが、今後は“画像の見え方そのものを変える”新たなフェーズへと移行しつつあります。
True Enhance DL(TEDL)は、Dual Energy CTにおける低keV画像の特性を学習したDeep Learning技術であり、120kVpで撮影された単一エネルギーCT画像から、50keV相当の画像特性を再現することが可能です。この技術の本質は単なるコントラスト強調ではなく、スペクトラルイメージングの物理的特性を模倣した“画像変換”にあります。また、TEDLはCTA、Arterial、Portal/Venousといった各時相ごとに個別に学習されており、撮影タイミングに応じた最適な画像生成が可能である点も特徴です。さらに、TrueFidelity DLや金属アーチファクト低減技術であるSmart MAR(Metal Artifact Reduction)との併用にも対応しており、既存の臨床ワークフローに組み込むことができます。
Dual Energy CTは、低keV画像や物質分解など、多くの有用な情報を提供可能な技術として知られています。しかしながら、専用ハードウェアが必要であり、導入コストや運用負担が高いことから、全症例に適用することは現実的ではありません。また、医療機関の規模や診療ニーズによっては、その性能を十分に活用しきれないケースも少なくありません。こうした課題に対しTEDLは、Deep Learning技術により、通常の120kVp撮影データから必要に応じて50keV相当の画像を再構成することが可能です。
初期検討として16症例を対象に、120kVpの通常画像とTEDL再構成画像の比較を行いました。その結果、CT値は脈管系で顕著に上昇し、脂肪では低下、空気では変化が少ないという傾向が確認されました(図5)。また、ノイズは増加するものの、脈管系ではSNRおよびCNRの改善が認められました(図6〜8)。これらの変化はDual Energy CTの低keV画像と非常に類似しており、TEDLが単純な画像強調ではなく、スペクトラル特性を再現していることを示唆する結果でした。特に、CT値上昇がノイズ増加を上回ることでコントラストが改善する点は、臨床的に重要な特徴と考えられます。
肝細胞癌(HCC)症例において、TEDL再構成は腫瘍の早期濃染を明瞭にし、HCC内の脂肪はさらに低いCT値となるため、病変の視認性向上に寄与することが示されました。特に動脈相および門脈相においては、ヨード造影剤の吸収差が強調されることで、腫瘍の濃染パターンがより明瞭に描出される傾向が認められました。HCCは一般的に動脈相で濃染し、門脈相以降でwashoutを示しますが、造影効果が不十分な場合や背景肝の影響を受ける場合には、病変コントラストが十分に得られないことがあります。TEDLでは低keV画像様の特性により、腫瘍と周囲肝実質とのコントラスト差が強調され、従来画像では識別困難であった病変の検出能向上が期待されます。
造影剤注入条件が不十分な症例においては、血管や臓器のコントラストが低下し、診断能に影響を及ぼすことがあります。特にルート確保困難例や低速注入症例では、動脈相の造影効果が弱く、病変や血管構造の評価が困難となるケースが少なくありません。実際に低流量(0.8 mL/sec)で造影された症例において、TEDLによりヨード造影剤のCT値が増強され、良好なコントラストを得ることができました(図10)。その結果、通常画像では描出が不十分であった血管構造や病変の視認性が向上し、診断精度の向上が期待されます。
さらに、3D画像においても血管連続性の改善が確認され、術前評価やIVRにおける有用性が示唆されました(図11)。TEDLは後処理によりコントラストを補完できるため、「造影不良=再撮影」という従来の対応に対し、新たな選択肢を提供する技術といえます。これにより、再撮影回避による患者負担軽減および検査効率の向上といった臨床的メリットも期待されます。
今後の発展としては、さらなるノイズ低減技術の進化に加え、低被ばく化や造影剤使用量の削減が期待されます。また、Photon Counting CTのような次世代技術との融合により、より高精度なスペクトラル情報の再現も視野に入っています。将来的には、診断目的に応じて最適な情報を選択的に生成する「病変特化型再構成」が実現し、CTは単なる画像出力装置から「診断情報生成プラットフォーム」へと進化していく可能性があります。
腹部CTにおける画像再構成技術は、ノイズ低減や解像度向上といった従来の改善から、画像特性そのものを制御する新たな段階へと進化しています。TEDLは、単一エネルギーCTからスペクトラル情報を抽出する革新的な技術であり、日常診療における診断能の向上に寄与する可能性を有しています。本技術は、「画像再構成」から「情報再構成」への転換を象徴するものであり、今後のCT診断の在り方を大きく変えるポテンシャルを持つと考えられます。
※本カスタマーボイスはお客様の使用経験に基づく記載です。製品の仕様値として保証するものではありません。
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