第1回 「外部保存」って何?

今回のキーワード:電子保存の3原則、運用管理規程、外部保存、3省4ガイドライン

くらら:「蔵田先輩、市野です。技師長から、蔵田先輩についてシステム管理者の仕事を学ぶように言われました。システムはまったくの初心者ですけど、頑張りますのでよろしくお願いいたします!」

     

イチロー:「市野さん、こちらこそよろしくね。システム管理、特に画像情報の管理は、放射線科や技師の仕事としても重要性が増しているので、大事な仕事なんだ。一緒に頑張ろうね。」


     

くらら:「はい!頑張ります!」

イチロー:「これからは、隔週で毎回30分ずつ、レクチャーの時間を設けるから、そこで色々説明していくね。わからないことがあれば、そこで質問してくれたらいいよ。」


くらら:「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


イチロー:「早速だけど、今、当院では画像データの外部保存について検討をしているんだ。市野さんにも外部保存について理解してもらいたいな。」


くらら:「外部保存ということは、この病院の外にデータを保存するってことですよね?」


イチロー:「そうだよ。電子的な画像データを病院外のデータセンターに預けることを、外部保存って言ってるんだ。」


くらら:「他の病院でも、みんな外部保存にしてるんですか?」


イチロー:「徐々に採用する病院が増えて来ているけど、まだ現時点では、比較的先進的な取り組みだと言えるんじゃないかな。」


くらら:「私、新しいことに挑戦するの、大好きなんです!楽しみ!」

     

イチロー:「心強いね。でも新しいことに取り組むってことは、しっかりした準備が欠かせないからね。しっかり知識を身に着けて、一緒に取り組んで行こう。」


くらら:「はい!システムは知らないことが多いので、色々教えてください。よろしくお願いします!」


イチロー:「ところで、市野さんが技師として働き始めてから、フィルム運用って経験あるんだっけ?」


くらら:「X線フィルムの原理や特性は学校で学びましたけど、実際に扱ったことは、ほとんどないんです。」


イチロー:「そうかぁ、この病院は8年前から既にフィルムレス運用になっているから無理もないね。今は電子カルテ化とフィルムレス化が進んでいるけど、以前は、カルテは紙で、画像はフィルムで保管することが義務付けられていたんだ。それが変わったのが、平成11年(1999年)の4月、当時の厚生省から、『診療録等の電子媒体による保存について』という通知が出たことで、一定の基準を満たせば、紙やフィルムの代わりに、カルテや画像を電子データとして保存することが認められたんだ。」


くらら:「診療録ってカルテのことですよね?フィルムはカルテの一部なんですか?」


イチロー:「もちろん、画像は診療情報の重要な一部だよね。診療録等の『等』の部分に、フィルムをはじめとする様々な診療データを意味合いとして含んでいると考えていいと思うよ。」


くらら:「一定の基準っていうのは、どんなものですか?」


イチロー:「詳しくは厚生労働省が出しているガイドラインを熟読する必要があるけど、大きく言えば、真正性、見読性、保存性という3つの原則を満たしていること。それに加えて、『運用管理規程』という文書を作成して、それに則って運用することが必要なんだ。」

     

くらら:「電子保存の3原則と運用管理規程ですね。ちゃんとガイドラインも読んでおきます!」


イチロー:「頼もしいね。わからないことがあったら遠慮なく質問してね。ちなみに、ガイドラインの正式名は、『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』なので、インターネットで検索すればすぐに見つかるよ。毎年のように改定されているので、最新版を見るように注意してね。今の最新版は4.2版だよ。」


くらら:「電子保存が認められた時に、外部保存も出来るようになったんですか?」

     

イチロー:「いや、平成11年に認められたのは、電子的に保存することだけで、データの保管場所は、依然として病院内に限られていたんだよ。」


くらら:「いつからそれが変わったんですか?」

イチロー:「3年後の平成14年(2002年)に、やはり厚生労働省からの通知があったんだ。『診療録等の保存を行う場所について』という通知で、通称『外部保存通知』と呼ばれているよ。今まで院内に限られていた保存場所が、一定の基準を満たせば、院外で保存することも認められるようになったんだ。」


くらら:「今から13年前ですか、結構早かったんですね。その割には『外部保存』という言葉を良く聞くようになったのは、ここ最近という印象ですけど。」


イチロー:「そう。確かに平成14年に外部保存が認められたんだけど、この時は、外部の保存先として認められていたのが、あくまで病院が管理する場所や、行政機関等が開設したデータセンターに限られていたんだ。いわゆる民間事業者のデータセンターはまだ利用できなかった。それもあって利用が進まなかったんだ。」


くらら:「今は民間のデータセンターを使えるんですか?」

     

イチロー:「そう。平成22年(2010年)の2月に、厚生労働省から『「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について』という通知が出たんだ。この通知の中に、保存する場所として『民間事業者等との契約に基づいて確保した安全な場所』という言葉が追加されて、民間のデータセンターも利用できるようになったんだ。これ以降、ベンダー各社からも、データセンターを活用した外部保存サービスが次々に登場しているよ。」


くらら:「民間のデータセンターへの保存が、後から認められたのは、どうしてですか?」


イチロー:「まず、平成14年に外部保存が認められた最大の理由は、大規模災害などがあっても、しっかりと診療情報を守るということだったと思う。患者さんの貴重なデータは、一度失ったら取り返しがつかないからね。それに加えて、平成22年に通知が改正されたのは、各種ガイドラインの整備が関係してるんだ。」


くらら:「ガイドラインって、先ほどおっしゃっていた厚生労働省の安全管理ガイドラインのことですか?」


イチロー:「うん。でもそれだけじゃないんだ。厚生労働省の安全管理ガイドラインは、医療機関が守らなければならないことをまとめたものだけど、データの保存を民間事業者に委託するなら、民間事業者が守るべき内容も示さなきゃならないよね。それで、平成19年(2008年)に経済産業省から『医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン』が発行されたんだ。さらに、総務省からも『ASP・SaaS における情報セキュリティ対策ガイドライン』と、『ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン』という2つのガイドラインが発行されたんだよ。」


くらら:「ずいぶんたくさんガイドラインが出ているんですね。覚えきれません・・・。」


イチロー:「まあ、まずは、3つの省から、4つのガイドラインが出ているので、『3省4ガイドライン』って覚えておけばいいと思うよ。とにかく、民間事業者側が守るべきガイドラインが整備されたことで、それを遵守している民間事業者のデータセンターなら保存先として認めましょう、というのが平成22年に外部保存通知が改定された大きなポイントだったんだよ。」


     

くらら:「どんな民間事業者なら預けてもいいのか、という基準が示されたってことなんですね。ところで、最近になって急に外部保存サービスが注目されている理由は何故なんでしょうか?」

     

イチロー:「うん、僕は大きくは2つあると思う。ひとつは今言ったように平成22年の通知で、民間のデータセンターが利用できるようになったので、大きな初期投資をしなくても、月々の利用料という形で外部保存を始めやすくなったことだね。」


くらら:「なるほど、民間のサービスを利用するっていうのは、そういうメリットがあるんですね。もうひとつの理由は何ですか?」


イチロー:「もうひとつは、環境の変化だと思う。環境の変化にも、いくつかあるけど、例えば画像データ発生量の急激な増加もそのひとつだね。一般的には画像データの発生量は毎年15%ずつ増えていると言われてる。毎年15%ってことは5年後には2倍になるってことだからね。膨大なデータを安全に保管するにはどうすべきか考えなければならないよね。」


くらら:「そんなに増えてるんですか!びっくりです。データが膨大になるってことは、災害や障害が発生した時の影響が大きくなるってことでもありますよね?」


イチロー:「そうだね。多くの病院では、十分な安全対策をしたくても人手不足で専任の管理者を置くのが難しいから、しっかりとしたセキュリティが確保されていて、専任の管理者もいる、データセンターなどで保管をする方が安心だし、効率がいいよね。」


くらら:「その他にも環境の変化ってありますか?」


イチロー:「うん、いわゆるインフラ整備が進んだこともあると思うよ。高速なネットワークの普及や低価格化、VPNなどのセキュリティの発達、データセンターも全国各地に普及してきて、一般企業などでは既にデータセンターの活用が進んでいたことなども背景にあったんだと思うよ。」


くらら:「ところで、うちの病院では、いつから外部保存にする予定なんですか?」


イチロー:「1年半後に電子カルテやPACSのシステム更新が予定されているので、その時に始める予定だよ。」


くらら:「うわー、じゃあ私も急いで勉強しなくちゃですね。でも、その前に私、まだPACSのことも良くわかってないんです・・・。」


イチロー:「大丈夫!ちゃんと教えてあげるよ。じゃあ、次回はPACSと外部保存の関係について勉強しようか?」


くらら:「はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」