くらら: |
「蔵田先輩!私PACSのこと少し勉強して来ました!」 |
 |
イチロー: |
「よーし、じゃあ、どんなことが分かったか、話してみてくれるかな?」 |
くらら: |
「はい!えーと、まずPACSというのは、Picture Archiving & Communication Systemの頭文字を取ったもので、デジタル化された医用画像の保管と通信を行うシステムですよね?」 |
イチロー: |
「その通り。PACSには『保管』と『通信』という言葉が含まれているけど、これに画像診断のための『表示』という機能を加えて、この3つの機能がPACSの柱となる役割だね。他には?」 |
くらら: |
「はい。その保管や通信には、DICOMという標準規格を使います。」 |
イチロー: |
「そうだね。PACSがこれだけ普及した背景には、DICOMという標準規格の存在が欠かせないだろうね。DICOMは1993年に規格化されて以来、学会と業界が協力しながら、毎年のように進化と改良が続いているんだ。だから新しいモダリティが出てきても安心してPACSにつなぐことが出来るんだね。」 |
 |
くらら: |
「最近ではどんなモダリティが追加されているんですか?」 |
イチロー: |
「例えば、マンモグラフィのトモシンセシスなんかがあるね。マンモグラフィ自体は新しいモダリティではないけど、数年前から断層撮影が出来る装置が増えているんだ。」 |
くらら: |
「断層撮影って、CTみたいな?」 |
イチロー: |
「そう。トモっていうのは断層撮影という意味だからね。マンモグラフィでトモ撮影されたデータを異なるメーカー間でやり取り出来るように、DICOM規格に追加されているんだよ。」 |
くらら: |
「そうなんですね。でも、規格に追加されるって言われても、いまいちイメージが湧きません。」 |
 |
イチロー: |
「そうかー、じゃあ、PACSの前に、簡単にDICOMの基礎を教えようか?」 |
くらら: |
「ぜひお願いします!」 |
イチロー: |
「ちょっと耳慣れないと思うけど、まずは『抽象構文』と『転送構文』という2つの言葉を覚えておくといいと思う。『抽象構文』は”Abstract Syntax” 、『転送構文』は”Transfer Syntax”を訳したものなんだ。」 |
 |
くらら: |
「教科書に言葉は書いてありましたけど、意味がよくわかりませんでした・・・。」 |
イチロー: |
「まず『抽象構文』だけど、これは『何を』『どうする』という組み合わせを表すものなんだ。『何を』っていうのは、例えば”CT画像を”ということだね。『どうする』の方は、例えば"保存する”っていう行為を表すんだ。これを組み合わせたのが『抽象構文』で、”CT画像を保存する”っていう形になるよね。この組み合わせをDICOM規格で定義してるんだよ。抽象構文のことは、SOPクラスとも言うよ。」 |
くらら: |
「エスオピークラス?」 |
 |
イチロー: |
「さっき言った『何を』というのは英語で”Object”、『どうする』は”Service”、このServiceとObjectの組み合わせ、すなわち”Pair”だから頭文字を取ってSOPクラスって言うんだ。さっきのマンモグラフィのトモ画像についても、専用のSOPクラスが追加されているんだ。細かく言うと、Breast Tomosynthesis Object(略称:BTO)Image StorageっていうSOPクラスがDICOM規格に追加されたっていうことなんだ。BTOというSOPクラスでは、どのタグにどんな情報が必須で、どんな情報がオプションかなどがきちんと定義されているんだよ。」 |
くらら: |
「なるほど!だからDICOMだとマルチベンダーでデータのやり取りがしやすいんですね。もうひとつの『転送構文』はどんな役割なんですか?」 |
イチロー: |
「うん、『転送構文』はデータを転送する時のデータ記述形式を示すものなんだ。DICOM接続って、異なるベンダーの、異なる装置間でもデータをやり取りするよね。お互いに万能ではないから、必ず毎回、お互いに何が出来るかを確認し合うんだ。例えば、ある装置が『CT画像を保存してください』って尋ねたとするよね。相手の装置がCT画像を保存する機能を持っていれば『いいですよ。』と返事をしてくれるんだ。」 |
くらら: |
「先ほどのSOPクラスを確認し合うんですね?」 |
イチロー: |
「そう、その通り。で、データを渡すんだけど、そのCT画像が特殊な圧縮をされていて、受け取った方で解凍できないと困るよね。だから、『転送構文』で圧縮方法などのデータ記述形式を確認するんだ。例えば、『このCT画像はJPEG2000で圧縮していますがいいですか?』と尋ねて、相手側がOKしてはじめてデータのやり取りが可能になるんだ。ちなみに、DICOMでは、”Implicit VR Little Endian”という非圧縮の形式がデフォルトの転送構文になっているから、異なるベンダー間ではこの形式で送受信することが多いよ。」 |
くらら: |
「なるほど!DICOMの基本的な仕組みがわかった気がします!でも、非圧縮ってことはデータが大きいってことですよね?どのくらいのデータがネットワークに流れるんですか?」 |
イチロー: |
「検査によって様々だね。例えば一般撮影(CR)なら1枚あたり6〜8MBくらい。でもさっき言ったマンモグラフィのBTOなんかは、1検査で最大1GB以上のデータが発生することもあるよ。」 |
くらら: |
「そんな大きなデータが流れて、ネットワークがパンクしたり、電子カルテが遅くなったりしないんですか?」 |
 |
イチロー: |
「今のネットワークは、余計なところに、余計なデータが流れないような設定が出来るから、モダリティからPACSのサーバに送る時には心配は要らないよ。でも、PACSサーバから電子カルテの端末上に表示させる時には、電子カルテの経路を通るから注意しなければいけないんだ。」 |
くらら: |
「具体的には、どうやって負担を減らしているんでしょうか?」 |
イチロー: |
「モダリティとPACSの間は非圧縮でやり取りすることが多いと言ったけど、PACSが受信したデータは、PACSの内部で圧縮するんだよ。だから、PACSサーバから電子カルテ端末に送るときは、圧縮したままデータを送信して、端末のメモリに入ってから解凍することが多いんだ。」 |
くらら: |
「圧縮には可逆圧縮と非可逆圧縮があるんですよね?」 |
イチロー: |
「モダリティとPACSの間は非圧縮でやり取りすることが多いと言ったけど、PACSが受信したデータは、PACSの内部で圧縮するんだよ。だから、PACSサーバから電子カルテ端末に送るときは、圧縮したままデータを送信して、端末のメモリに入ってから解凍することが多いんだ。」 |
くらら: |
「圧縮には可逆圧縮と非可逆圧縮があるんですよね?」 |
イチロー: |
「そう、可逆圧縮は圧縮前のオリジナルとまったく画質が変わらない方式だから、画像診断の質を保つために、PACSでは通常、可逆圧縮が使われるんだ。可逆圧縮の方法にも色々あって、どんな可逆圧縮が使えるかというのは、PACSにとって、すごく重要なポイントなんだよ。」 |
 |
くらら: |
「うちのPACSでは、どんな可逆圧縮が使われているんですか?」 |
イチロー: |
「うちのPACSはGEのCentricity PACSって言うんだけど、GE独自の可逆圧縮アルゴリズムを使ってる。しかも、3種類のアルゴリズムがあって、それぞれの画像の特性、すなわち、モノクロかカラーか、静止画か動画か、画像1枚あたりのサイズや濃度、などを見て、最適なアルゴリズムを選んで圧縮しているって担当の人から聞いたよ。だからおよそ3分の1っていう高い可逆圧縮が可能なんだって。」 |
くらら: |
「他のPACSでは違うんですか?」 |
イチロー: |
「僕の知る限りでは、多くのPACSがJPEGっていう圧縮方式を採用してるみたいだね。JPEGの可逆圧縮だと、約2分の1って言われてる。」 |
くらら: |
「圧縮率が大きいと、ネットワークで送る転送スピードも速くなるし、ネットワークにかける負担も小さくなるから、一石二鳥のメリットがありますね!」 |
イチロー: |
「更に、保管しておく時の容量も少なくて済むから一石三鳥だね。」 |
くらら: |
「圧縮ってすごく大事なんですね。」 |
|
イチロー: |
「そうだよ。ところで、話をDICOMに戻して、もうひとつ大事な基礎知識を教えるね。さっき、『タグ』という言葉を使ったけど、DICOMではデータの持っている付帯情報を、『タグ』という形で管理してるんだ。例えば、(0010, 0020)というタグには患者IDが入ってます、というように決められているんだ。だから、DICOMを理解出来れば、誰が見ても、どの患者さんの、どんな装置で撮った、どんなデータなのかがわかるようになってる。市野さんもぜひ、基本的なDICOMタグについては理解しておくといいと思うよ。」 |
|
くらら: |
「はい!DICOMを学ぶための何か良い教材はありますか?」 |
イチロー: |
「僕が読んだのは、『DICOM入門』、『放射線システム情報学−医用画像情報学の基礎と応用−』、『逆引きDICOMBook』などだね。他にもJIRA(日本画像医療システム工業会)の医用画像システム部会のWebサイトに、『DICOMの世界』というページがあって、DICOMの基礎知識に関するドキュメントがたくさんあるから、読んでみるといいと思うよ。」 |
くらら: |
「ありがとうございます!次回までに出来るだけ読んできます!」 |
イチロー: |
「よーし、じゃあ次回は、PACSについてもう一歩踏み込んで、データの保管方式について詳しく学んでみようか?」 |
くらら: |
「はい!よろしくお願いします!」 |
 |